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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

街角でちょっと一服―喫茶JAZZ(2)

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 早速、このお店のマスターにお話をうかがいました。

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宗澤「障害のある方をお店でちょくちょくお見受けするのですが」
マスター「実は、私には知的障害のあるきょうだいがいまして、その関係で働いていても職場と家の往復だけでストレスを溜め込んでいるんじゃないかな、と思えるような障害のある人をたくさん見てきました」
宗澤「なるほど」
マスター「そんな障害のある人たちに、職場や作業所の帰りにでも気軽に寄ってもらえるようなお店にできればいいなと思ってやっています。お金がないんだったら、話だけして帰ってもいいって、いつも声をかけています」
宗澤「先日は、車椅子を使う脳性マヒのある方が付き添いのボランティアさんと夕飯を食べにおみえになっていましたね」
マスター「ええ。あの方はここに通いつめて7年以上になります。スパゲティを注文されたら、刻み食にして提供しています。最初の頃は、どちらかというとふさぎがちな面の方が強かった印象ですが、通ってくるうちにどんどん表情も明るくなって、いろんな夕飯メニューにもチャレンジして頂けるようにもなりました。
 うちのお店は、特別なことはできませんが、刻み食にすることやちょっとした手間でできることなら、どんな障害のある人にでもご対応させていただきたいと思っています」

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シックな装いで落ち着きのある店内

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店内には作業所製品の売場コーナーも

 実際このお店は、市民会館の催し物に行く前に立ち寄ってコーヒーをすすりながら談笑していく知的障害のある青年や、親に内緒のデートでやって来る聴覚障害のある人が手話で談笑していたりとさまざまな光景に出くわします。マスターは、「今はカップルで来ても、お店の棚からマンガを引っ張り出してきてそれぞれが黙りこくってそれを読みふけっているのが多いのに、聴覚障害のある人のカップルは店にいる間じゅう、ずっと手話でしゃべりっぱなしなんですよ」と微笑みながらおっしゃいます。もちろん、地域に働くサラリーマンや住民の方も、老若男女を問わず立ち寄っては、ちょっと一服されていくようなお店です。
 ある日の夕方に来店された障害のある人にうかがったお話です。「美味しいコーヒーを飲みながら、いい音楽を聴けるお店があるよと紹介されて来てみたのです。すると、お店でいろんな人と話ができたり、いろんなものを食べることができたりで、何か楽しくなって通うようになりました」と。
 「語らいの空間」としての喫茶店は、青年文化一般からは薄らいだ感もありますが、障害のある人たちには逆に、このような心配りのある喫茶店であるからこそ花開いているように思えます。

 このマスターは、川越市のボランティア養成講座にも通った経験をお持ちです。そのため、ご自身のきょうだいだけでなく、さまざまな障害のある人にもひとまず対応できるような心配りをお持ちの方で、「就労支援センターと提携して、就労支援の実習先としてこのお店を活用してもらおうかと考えています」とおっしゃいます。街の飲食店が物理的にはバリアフリーとなっても、このように安心して気軽に立ち寄れるお店の内容がなければ、障害のある人にも「ちょっと一服できる場所」にはなりませんね。

 都市部における障害のある人の自立生活を展望する時、働く場所と住まいの保障だけでなく、このような安らぎと交わりの場所を地域に創ることを忘れてはならないと思います。
 このような地域の時空間は、「ちょっと一服できる」だけでなく、実は、障害のある人の暮らしの中の人権保障にも通じていると考えているからです。
 「社会保障制度は、イギリスのパブからはじまった」という言葉があります。19世紀末のイギリスの工場労働者が仕事を終えて帰る途中に立ち寄るところがパブ(大衆的な酒場)でした。ここは、職場やカミサンに対する不満をぶちまける(この点は洋の東西を問わないらしい)のはむろん、自分たちの暮らしの中で困っている本音や実情を働く仲間と語らう場所にもなっていました。そこで、共通の困りごととして確認されたのが家族の病気のことだったのです。「カミサンが病気になった時は、医者に払う金がなくてほとほと困ってね…」「うちは子どもが大ケガをしてね。仕方がないから、カミサンの結婚指輪を売り飛ばして医療費に当てたよ。すると夫婦喧嘩になっちゃってさ…」てな感じです。
 そこで、みんなが医療のことで困っているのだからと、最初は相互扶助制度としての「友愛組合」が生まれ、相互扶助だけでは景気変動に由来する組合の財政破綻が避けられないので、国家責任による医療保障制度がつくられていったという20世紀の偉大な歴史です。
 地域の暮らしに自治と協働の伴うことのないサービスは、社会福祉の魂を喪失した「ヌケガラ」と言えるのではないでしょうか。障害のある人が誰にも気がねなく本音を話せる場を持つことは、このような意味で大切なことです。

 最後に読者の皆さんへ。川越市内の方はむろん、川越にお出でになった方にも、喫茶店JAZZはくつろぎのひとときにお薦めです。もちろん、障害のある方も気軽にお立ち寄り下さい。


コメント


真のバリアフリーを自然体でされているお店なんですね。ぜひ、うかがってみたいものです。こんなお店がどこにも身近にあったらなと思います。家と職場、家と施設以外の居場所・人間関係はとても大切なものなのに障害のある方々にはそういうものが本当に少ないと切に感じます。
このようなお店の存在にとても希望を感じました。


投稿者: 缶コーヒー | 2009年04月17日 01:03

私の場合、複数で喫茶店に入ってもすぐに携帯電話を開けてしまいます。今回のブログを読んでこの喫茶店のような人と人との「談笑の場」というのを忘れている自分に気がつきました。

今後は喫茶店での携帯はNGにしようと
思います。


投稿者: @千住(Y.T) | 2009年04月19日 21:43

 宗澤先生、お忙しい中いつも御来店ありがとうございます。喫茶店JAZZ店主の実藤です。
 この度は当店をこのような素敵な記事にして頂き(しかも2週に渡って)有難うございます。当初の予定とは異なり、まさか自分が写真付で載るとは考えてもいませんでしたが(笑)。いや~こっ恥ずかしいです。
 今回の事は本当に偶然が重なり、運命すら感じさせる出来事でした。いつもはお昼に来店されている先生が、別件で夜にいらっしゃらなければあの子達に会う事も、先生のお仕事を私自身が存じ上げる事もなかったわけですから。正直、それまではカメラとカレーと音楽が大好きなオジ様という印象でしたし。(ホント申し訳ないです、ハイ)
 私自身、姉が知的障害者という事もあり(たまに手伝ってもらってます)、幼い頃から障害者の方達とのふれあいが日常でしたので、障害を持つお客様と人間関係を築けるのはその環境で育ったのが大きいのだと思っています。
 特に意識した事もないですし、言われてみればそうなのかなぁと思う程度ですが、確かに障害者の日々日常の世界はとても狭いとは感じていました。
 馴染みの店にプラっと立ち寄る、友達の所に遊びに行く、そんなごく普通の人間関係が障害者にとってはとても稀で貴重な事と先生からお聞きし、来店されている障害者の方達にとってのこの店の存在を、はずかしながら初めて自覚する事ができました。
 当店に来店されるお客様は、皆さん思い思いの過ごし方をされています。その中にはもちろん障害を持つ方も居て、その方達に提供できるサービスが他のお客様に提供するサービスと異なるものとは考えていません。といっても大した事は出来ませんが、その時々でこちらが出来うる最大限のサービスに、ほんの少しの手間と工夫、気遣いをプラスする事でお客様の笑顔を見れるのであれば、店側は当然その努力を怠ってはならないし、そこには障害者とか健常者とかはまるで関係ないと思っています。
 昨今の不況により閉塞感が強まる一方ですので、障害を持つ方々はますます暮らしにくくなってきているとよく耳にします。そんな社会の中で、当店のような店がどれほど必要とされていくのかは分かりませんが、たとえ少しでもお客様が安らぎを得れる場所でいられるよう精進してまいります。
 そして、障害をもつ多くの方々が、ごく普通の日常をごく普通に過ごせる日が来る事を切に願っています。

 今度。新宿のNIKONメンテサービスセンター行ってきます。先生が生き返らせてくれたカメラ、現役復活させますよ~。本当に有難うございました。
 なので、来店時にはまた色々と御指導・御鞭撻のほど、宜しくお願い致します。
 長々と駄文失礼致しました。


投稿者: 実藤 裕貴 | 2009年04月22日 03:34

 JAZZの実藤さん、懇切丁寧な書き込みを有難うございます。地域の生活者としては、これからも変わりなく「カメラとカレーと音楽の好きなオジサマ」としてよろしくおつあい頂戴できればと願っています。
 でも、みなさんの書き込みにあるように、JAZZは語らいのできる街角の灯火だと思っています。
 ぜひ、Nikomat ELにも灯火を入れてやってくださいね。


投稿者: 宗澤忠雄 | 2009年04月23日 00:21

 素敵なお店ですね。なんだか安らぎがあるような印象をうけました。
 私の住んでいるあたりは基本的にお店がないような田舎なので、喫茶店でジャズを聴きながらコーヒーを飲む、というのは憧れです。
 宗澤さんに教えていただいたパン屋さんにも今度うかがってみたいと思っています。


投稿者: DROPs | 2009年06月01日 09:49

私はボランティアで月に数回、何組かの親子さんで開いているレクリエーションのお手伝いに行っています。そのレクリエーションも「家族や親戚以外の人と接する機会がない子ども達に、身内じゃない他の人、特に同年代の友達と呼べそうな人とも触れ合いながら自立できるきっかけになってほしい」という思いで作られたそうです。
日本では障がいを持っている人は世間から隔離されているように思います。学校に行けば特別支援学級や養護学校、社会に出る時も施設や作業所など、私たちのように他者と気軽に交流する機会が障がいがある人にとってはあまりにも少ないです。
障がいがあるというだけで同じ人間です。多少のコミュニケーションの取りにくさがあったりして相手の気持ちがわからないこともあると思いますが、何らかのツールを使えば、工夫すればコミュニケーションは取れると思います。また、人と直接は触れ合わなくてもその場の雰囲気を楽しんでいる人もいます。そのような人たちが気軽に利用できるこのような交流の場がもっと増えていってほしいと思います。
建物だけがノーマライゼーションなどといって進化していっていますが、そこを利用できなければ意味がありません。店の人はもちろんですが、同じように使う私たちもそのようなことを忘れないようにしないといけないと思います。


投稿者: S* | 2009年07月17日 13:18

 まず、店内の写真を見せていただいて、私自身も通ってみたいと思うようなシックで素敵なお店ですね。
 北欧・デンマークでの障がいのある人の地域生活のように家と職場のあいだに社会的交流の場があり、そこで友人や恋人と談笑を楽しんだり意見交換ができるというのは、家と職場の往復の毎日をとても充実したものにしてくれると思います。
 安藤さんの「喫茶JAZZ」は日本にはまだ少ない、そういった社会的交流の場として大きな役割を担っていると思います。
 現在「インターネットカフェ」などの、個別に部屋を仕切った閉鎖的な喫茶店が多い中、障がいのある人も、会社帰りのサラリーマンも地域住民の方々も老若男女問わず、同時に同じ落ち着いた雰囲気の空間を共有し、くつろぎ、気軽に交流を楽しめるというのはとても魅力的です。


投稿者: よっしー | 2009年07月21日 11:21

 こんにちは。
 私も川越市民で、市民会館の近くにあるk高校に通っていました。しかし、近くにこのようなおしゃれな店があることを知らず驚きました。障害者の方たちも気軽に訪れることができるのは、きっと店長の人柄のよさがあるからだと感じました。
 せっかく近くに住んでいるので、ぜひ一度訪れたいと思います。そのときは、少しでも店長とお話しできたらと思います。


投稿者: ヨハネ | 2009年07月22日 15:02

 とても素敵なお店の記事で楽しく読ませていただきました。それにしても、偶然このようなお店を見つけるなんて本当に運命的というか、出会いというのはすごいですね。
 この記事を読んでいていろいろ考えさせられました。障害のある方というのはそれぞれ様々な困難や不便さを抱えながら生活しているので、支える側はその方のためにと思って、必要最低限の行動範囲(家と職場の行き来など)での生活を勧めるかもしれません。
 でも、障害のある方だって同じですよね。ちょっと一服したいなとか、家じゃなく特別な空間で落ち着きたいなとか感じるのはふつうのことです。
 今はまだ、JAZZのように、実際にそのような方たちが気軽に入れるお店は少ないのかもしれません。私も飲食店でアルバイトをしていますが、以前、車椅子の方が来店されたときに上手に対応ができなくて反省したことがあります。
 先生がおっしゃっている通り、物理的にバリアフリーになっても内容が伴っていないと障害のある方のためとは言えませんよね。
 JAZZのように、障害のある方もそうでない方もみんなが同じようにくつろげる空間が今後増えたらいいなと思います。


投稿者: ニコ | 2009年07月25日 12:22

 障害のある人でもない人でも気軽に立ち寄れるお店…とても素敵な場所ですね。障害の種類に関わらず、それぞれが自分の楽しみ方をもって訪れることができるというのは、お店の役割が決して限定されておらず、マスターさんが多様に対応しているからこそのすばらしいことだと思います。
 障害者の暮らしにおいて、家族や施設間だけでは閉塞感を持ってしまい、交流が限られてしまうケースがある中で、このようなお店が存在することは、障害者にとって、交流を広げ心身を満たすことのできるよい場所だと思います。また障害者の家族にとっても悩みを語らえるよい場所になるのではないでしょうか。
 個人的ですが私は大学でJAZZサークルに入っていて、JAZZの流れる喫茶店というのはすごく憧れます。近くにはこういうお店がないので、ぜひとも喫茶店JAZZに行ってみたいと思いました。


投稿者: OCA | 2010年01月12日 01:10

私は今までにどんな障害者の方でも気軽に足を運べるお店というものをを目にかけたことがほとんどありませんでした。しかし、この記事を見て、今後の障害者の方たちが楽しく生きていくのにこのようなお店が全国にたくさん増えていくことが必要であることを強く思いました。また、マスターの障害者の方たちに対する姿勢・態度がごく自然で、こういうことが一番のバリアフリーなんだと感じました。私自身も障害者の方たちに接する機会を持った時には、自然な態度で接していこうと思います。


投稿者: たもつ | 2010年07月29日 14:01

 障害のある人にも安らぎを与えられるような空間を提供するためには、物理的な障害を排除するだけではなく、実際に店内の中でくつろげるような内容の提供が重要であることを認識しました。
 障害者ではなく自分の立場で考えてみたら、ただ単にバリアフリーの徹底としか考えることが出来ないと思います。それをしっかりと障害者の目線に立って考えられてることはすごいことだと思いました。
 今度喫茶店に立ち寄る機会があったら是非障害者のことも考えて行動したいと思います。


投稿者: マイチャ―ミ(仮) | 2011年01月11日 01:31

 障害者の方も気軽に立ち寄れる喫茶店、とてもすてきだと思いました。刻み食にするなどの対応も、マスターさんが障害についての持っているからこそできる対応だと思います。私たちが障害者の方の暮らしやすい環境を作るにはやはり障害についての知識が必要不可欠なのだと感じました。私もそのような知識を付けていけるよう努力していきたいです。


投稿者: こむ | 2011年01月26日 10:32

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
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発行:中央法規
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