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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

麻雀とデイケア その1

 大学院生の時代、ある先生の紹介から、精神障害デイケアのワーカーとしてバイトをすることになりました。
 1980年代の初頭、全国の政令指定都市に限られた精神障害のデイケアが実施されていました。当時、わが国には精神障害のある人に対する本格的な福祉サービスはなく、このデイケアは政令市だけで実施されていた「パイロット事業」のようなものでした。
 1950年施行の精神衛生法による政策は、長い間、入院中心主義に偏重していましたから、84年の宇都宮病院事件を契機にした国内外の人権擁護への声の高まりを受けて、87年の精神保健法への改正から、95年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律にいたる経緯の中で、ようやく地域精神医療と地域生活支援に向けた歩みをはじめることになります。
 このようにみると、49年の身体障害者福祉法と60年の知的障害者福祉法との対比で、わが国の精神障害のある人への支援策がいかに後回しにされてきたかが分かります。

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 最初、そのデイケアの所長である精神科医に、採用の可否を決める面接を受けました。面接場面にふさわしい緊張に包まれていた私に、ドクターはいきなり「君は麻雀を打てますか?」と訊ねました。私にとってはいささか拍子抜けの質問に思えましたが、「それなら」とばかり大いに胸を張って「大丈夫です。恥ずかしながら麻雀歴は10年くらいです。が、正直言ってあまり強くありません」と応えると、「それはちょうどよかった、明日から来てください」と即採用となりました。
 「慣れるまではしばらく雀卓(麻雀台のこと)を担当してください。特別なことをする必要はありません、普通に打ってください。ただし、熱くなって独り勝ちだけはしないでくださいね」とドクターから釘を刺されました。私は一瞬、ワーカーのバイトではなく「雀荘のバイト」に応募したのではないかと勘違いしてしまいそうな気持ちになりました。今なら、精神障害に関する専門知識や資格の有無等、いろいろと審査されるかもしれませんが、「ある先生の紹介」があるとはいえ、当時は実に大らかなものでした。
 志さえあればそこに飛び込むことができる気楽さは、現在の資格法の時代にはまったく想像できない世界でした。

 精神障害のデイケアには、入院から地域生活への復帰にあたり、人との自然なコミュニケーションや穏やかな喜怒哀楽を回復する目的で、麻雀などのゲームをプログラムに入れることがしばしばあります。将棋や囲碁のような「2人が対峙する」形式のゲームは息詰まるような場面をつくることもありますし、あまりに多い人数でするゲームも人との混乱を招いたりしますから、4人で台を囲む麻雀は気軽に人との会話を育みやすい点で、デイケアにふさわしいゲームということができるのです。
 障害のある人のご家族の立場からは、「大人の男子が日中家にいる」ことはいろんな意味で避けたいという事情や気持ちの運びの働くことがあったため、利用可能な福祉サービスの乏しかった当時、利用希望者は著しく男性に偏っていました。麻雀はその時代、男子学生やサラリーマンの嗜みとしては実にポピュラーなゲームであったばかりか、青年男子のイニシエーションの一つといえるほどの位置づけにあったように思いますから、そのような意味を含めて、デイケアに麻雀台が置かれているのはまったく不思議なことではなかったのです。
(次回に続く)


コメント


 初めてコメントいたします。
 私は大学4回生、残り少なくなってきた大学生活で身につけたことの一番手は麻雀です。しかし、両親には良い顔はされませんし、良いものとしてのイメージは皆無でした。
 しかし、その言わば私の中での悪者である麻雀が、福祉の世界で役に立っているということに驚きました。はっきり言って福祉という言葉と、麻雀とでは対極に位置しているように思えたからです。さらに2人でも大人数でもなく、4人という人数がデイケアにはふさわしいということも意外でした。
 私の知らない精神障害のデイケアとは、いったいどのようなプログラムがあるのか、非常に興味を持ちました。あまりに知らない部分が多かったからです。そして、どのようなものがあるのか調べてみると、話し合い、体操、料理、音楽、SST、様々な学習会などがあるみたいでした。また、私が思っていたよりも多くの場所でデイケアの活動が行われていました。
 今回の記事を読んで、この話の続きが非常に気になります。また、福祉そのものにも以前より興味を持ちました。今後も拝見します。


投稿者: MASA | 2008年12月02日 03:06

 初めまして、自分も大学四年生です。
 私の方は麻雀は一、二回ぐらいしかした事がなく、ギャンブルというイメージしかありませんでした。それが、精神障害を持つ人のケアになる。ということに大変驚きました。
 今まで、精神障害をもつ人のケアというと、薬を飲んで治す、音楽を聴いて治すなどの方法ぐらいしか知りませんでした。
つまり、その道のプロの人、医者、音楽家などの人たちしかどうすることもできないものだと思っていました。
 でも今回の治療法は麻雀…。これなら自分にもできます。精神障害をもつ人たちをケアできるのです。
 私は大学で、いくつかの障害に関する授業などを専攻しているので、知識として、障害者の現況、昔の状態などはしっているつもりです。でも肝心な自分は、障害をもつ人たちに対して何ができるのかは全くわかりませんでした。
 なので、知識は増えてもやはり身近な問題としては捉えにくいとかんじていました。
 しかし、今回麻雀でケアができるというのを知り、自分にもできる事があるので、もっとできる事を知りたいと思いました。


投稿者: たらこ | 2008年12月02日 13:39

 はじめまして。
 私は今回の記事を読んで、自分にまだ福祉に対する偏見があるんだなということを感じました。
 というのも、デイケアセンターの中に麻雀台があるというのに、すごく違和感を感じたからです。デイケアを利用する人が麻雀をするということを、今まで想像したこともありませんでした。
 しかし考えてみれば、麻雀をゲームとしてみれば初対面の人とコミュニケーションをとる場としてすごく有効な場です。思い返せば、私も高校生の時に、あまり話したことのないクラスメートと麻雀を打って仲良くなったことなどを思い出しました。
 今回の記事を読んで、自分の経験と自分が知らない福祉の実態が重なっていたことが分かり、偏見をひとつ解消できたことがよかったと思います。


投稿者: ユースケ | 2008年12月02日 14:17

 私も麻雀を少しだけですけどやります。相手は友達なのでピリピリした雰囲気ではなく、わきあいあいとした感じでやっています。
 デイケアセンターの中に麻雀台があるということにすごく驚きました。私の中では、麻雀はどちらかというと悪いものという感じがしていました。しかしその麻雀が福祉の世界で活躍しているなんて、少し麻雀の見方が変わりました。
 確かに麻雀は、テレビゲームなどオンラインゲームと違い、1つのテーブルを4人で囲むので、ケアにはふさわしいなと思いました。
 このブログを読んで、ケアの方法は何でもいいんだなと思いました。麻雀なら私にもできるし、他にもできることは探せばあると思います。このブログを読んで、デイケアの場に麻雀台があるということを知って、とても福祉を身近に感じました。これから先、私にもできることがあれば麻雀でも何でも良いので、福祉の役に立てればいいなと思いました。


投稿者: ジロウ | 2009年01月23日 23:26

 私は大学2年生で、1年生の時麻雀を覚えて、今では週1日以上は友達とやるようになりました。
 私から見た麻雀のイメージは、友達と楽しく打てるものの、やはりギャンブル性を求めているものだとの認識がありました。
しかしそれがまさか精神患者の治療に役立つものになるとは思いもよらず、びっくりしました。
 確かに今考えれば、友達とのコミュニケーションも多くとれ、それでもって意外と頭を使うゲームであるなと再認識しました。
 今週私は、介護実習でデーサービスセンターに5日間お世話になりましたが、そこでも暇なときはさまざまなゲームをしたり、指先を使ったゲームをするなど、おしゃべりしながらもやはり頭を使うようなことを積極的にやっていました。
 そのような点で、麻雀もリハビリに使えるのかと感心しました。


投稿者: 銀みそ | 2009年07月17日 23:50

 自分も少しですが麻雀をしたことがあります。
 ただ、自分が麻雀に対してイメージとして持っているのは“ギャンブル”で、福祉に使えるという考えはありませんでした。
 見方によってはなんでも役に立つのだと興味をひかれました。


投稿者: Arc | 2011年01月13日 22:18

 市の施設を利用して、精神障害者のデイケアをしている家族会員です。当事者から麻雀の希望があり3回ほど麻雀をしていたところ、市障害福祉課から、中止するようにいわれました。申し入れをする予定ですが、良い文献はないでしょうか?
 アドバイスをお願いします。


投稿者: ヒトミ | 2011年06月22日 13:58

 私は留学生で、中国人です。
 マージャンは中国の伝統的なゲームです。しかし、中国人として私はマージャンをやったことが一回もありません。母をやった時、私は傍に立って、見たことがあるけど、今でもルールをよくわかりません。意外と、私はマージャンの雰囲気が好きです。四人は一緒に座って、ゲームをやりながら何でも喋っています。この時、悩みも困りも忘れて、身心的にリレークスすることができます。
 先生のブログを見て、日本ではマージャンを精神障害デイケアに利用することを始めて知って,正直に言って、私は驚きました。私のイメージでは、マージャンは面白いけど、少なくても知恵をかかるから、精神障害者にふさわしくないと思います。だから、日本の精神科医者はどう考えますか。この質問を抱えて、もう一度ブログを見て、私はちょうど理解しました。この場合では、ゲームの一番な役割は知恵を鍛えるのじゃなくて、人と人を交流させるようになることです。精神障害者は普段あまり人と話し合う機会がないので、精神上はもっと寂しくて、回復によくないです。マージャンをすれば、障害者は明るくなって、回復に役に立つと思います。日本の医者はこの方法を採用して、精神障害者を治療するのは本当に偉いと思います。


投稿者: リュウ シンチョウ | 2013年07月24日 11:55

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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