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和田行男の「婆さんとともに」

チーム・アウトロー

 「食べなくなって困っている」
 そんな相談が市民から寄せられたが、僕一人では問題の解決には至れないと判断し、友人であり同志でもある「理論武装実践言語聴覚士M」に一緒に訪問してもらった。

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 相談をくれた方はAさん。配偶者のことでの相談であった。
 細かいことは個人情報なので控えるが、ひとくちに「食べられなくなった」といっても奥は深い。
 まず押さえておきたいことは、「食べられなくなった」というのは「食べていた」ということだ。つまり、大まかにいえば、食べられる能力もあったし、食べる意欲もあったということである。
 つまり「食べなくなった」ということは、能力か意欲に何らかの因子があるということだ。
 僕がより専門職に頼ったのは「能力の見極めは和田にはできない」からで、Aさんが食事をする場面に療法士を同席させていただき、僕らは邪魔になるのでやや遠めからその場面を拝見させてもらった。
 本人にとっては「いつもと違う環境」になっているため、いつもより興奮させてしまい申し訳ないことをしたが、結論的には、食事の場面から一定の評価ができ「能力的に食べることが難しい状態」に至った。
 「おまえ誰だ」「たわけ」「あっちいけ」「知らん」「あいつ殴っていい」といった言葉をAさんに繰り返し発する中から、「舌の奥のほうの動きが悪い」ということがわかったようで、そのため食べ物を口に運んでも舌の前のほうしか動かず、Aさんが口の中に食物を入れてもぼろぼろとこぼしてしまう(こぼれてしまう)。お茶は「ごっくんごっくん」と普通に飲めるので、嚥下には問題ない。左手にバナナを渡すと「こりゃなんだ」と言いながらも口にするので、食に対する意欲も課題とまではいえないと判断できる。
 至極簡単に書かせてもらえば、病歴から機能不全になるような既往はなく、腹部大動脈瘤による入院以降、体を使うことが極端に減ったこと、腎不全からくる食形態の変更時からきた「食への意欲低下」が長く続いたこと、帯状疱疹で痛みが出て利き手を使わなくなったことなどが絡んで、舌の奥の動きが悪くなったと思われる。というのが療法士の見立てである。
 いつもの食事に要する時間は40分から60分間。ただでさえ時間を要する食事介助だが、そこへ配偶者から「おまえ誰だ」「たわけ」「あっちいけ」「知らん」「殴っていい」といった言葉を常に浴び続けており、さすがに想いはいっぱいあっても「手が出そうになる」とAさんはこぼしていたが、それほどまでにストレスを感じていた。
 人工透析にしてやりたくない一心から、食事療法にこだわり続けてきたAさん。驚くようなギリギリのところを踏ん張っているAさんに対して療法士は、「飲む栄養剤をうまく取り入れること」「体重などデータの目安」など、先々のことまで踏まえてアドバイスしていく。
 僕としては、能力の問題だけでなく、生活全般の再構築をはかれば、おおもとの「生きることへの意欲」を引き上げられて「食べようとしない」ことが変わるかもしれないと思ったが、目いっぱい踏ん張っている今のAさんには言えなかった。きっと療法士も同じ思いだったはず。
 療法士は最後に名刺を渡して「何かあれば連絡ください」と言ってくれた。
 Aさんにとって大きな解決には至れなかったかもしれないが、「アドバイスをくれる人が来てくれた」だけで気持ちがうんと楽になれたのではないだろうか。
 Aさんご夫妻にはかかりつけ医がおり、そこにも療法士がいることは知っていたが、それでもあえてAさん宅に療法士を連れて訪問を挙行したのは、Aさんの「霧を晴らすため」にである。
 いつでも誰に対してもできることではなく、正規のルートから外れたアウトローなやり方ではあるが、細々とながらでも市民の声に応えられる専門職でありたいし、専門職チームでありたい。


コメント


専門職チームでいいのでしょうか?普通に生きることに専門職がかかわることが不思議です。家に専門職はいません。なんてことを考えることが多くなりました。普通に生きることがこんなに人とかかりわり、巻き込んでいることなど、普通に生活している人にはわからないでしょう。でもそれが生きるということだと教えてもらっています。
介護報酬改定の研修を受けました。家族も地域も支えられない、そんな時勢です。だからこそ、そこにかかわる人(専門職?)が必要なのかもしれません。
私の施設にも食欲不振から胃ろうになり、入所してくる方がいます。嚥下困難ではないという情報だけです。どれだけ自分で食べることができる力があるか、未知数です。その分リスクがあります。食べることを応援すること、家族がそのリスクを受け入れることができるか、入所時に説明します。
自分で食べる力があること、そこに私達がかかわることができること、死にも近づくかもしれないこと様々なことがよぎります。霧を晴らしたい、晴らすためにどうしたらよいか、でも晴らすために時間がかかること、税金を適正に使いたいとともに、適正に評価されたいと思う研修でした。


投稿者: がん | 2012年03月27日 23:20

がんさんへ

文中「M」は、僕ではどうにもできない技量をもった専門職です。
口から食べられるかどうかの見極めもなく、気持ちだけでとかく進めがちですが、歩ける能力のない人を、歩くことが大事だからと歩かせているようなもので、より壊してしまっては事故ではなく事件になりかねません。
僕は、医師や療法士とチームを組んで、チームの最大限の能力を発揮していくことが専門性だと考えています。
著書:大逆転の痴呆ケア(中央法規)ではあまり触れていませんが、こうしたチームワークで「ふつう」を取り戻した事例はたくさんあります。
この国は技量の高い専門職があちこちにいますが、それらがネットされていないために、もったいない状況がみられます。宝の持ち腐れとでもいいましょうか。
国民に対して申し訳ないことにならないよう、一人ひとりが専門性を高め、それがネットされてより大きな力を発揮できるようになれば。そう願って取り組んでいます。


投稿者: わだゆきお | 2012年03月28日 12:01

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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