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和田行男の「婆さんとともに」

今と過去の事実が今の真実

 婆さんに限って言えば、本人を確認する情報に落とし穴があることに、案外気づいていない場合が多いように思う。
 先日も、ある地域の「婆さん捜索ネットワーク」の模擬訓練で送られてきた「その人の情報」を見ながら、そう思った。

※婆さんとは、認知症という状態にある人の総称をいう。

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 行方不明者が出現すると、その人の名前や年齢、住所、服装、特徴などの情報が捜索協力登録者に送られてくる。
 捜索に活かしてもらおうということだが、そもそも行方不明になる人は認知症という状態にある人が圧倒的に多いはずだが、情報を出すときに「今の情報」しか出してこないのだ。
 どういうことかというと、今の名前が「かとうゆきお」、住まいは「名古屋市」、年齢は「56歳」だとする。その「今の情報」をキープできなくなるのが認知症である。
 かとうゆきおの過去を明かすと、4年前は「わだゆきお」であり、世間ではわだゆきおで生きている期間が圧倒的に長く、本人にとってもわだゆきおのほうが馴染んでいると推測できる。
 また、今は名古屋市民だが、もともとは関西育ちであるから言葉も文化も関西人であり、「大阪」「京都」に住んでいたことを考えると、そっちの地域名のほうに馴染んでいるとも予測できる。
 つまり、今をキープできなくなった「かとうゆきお・名古屋住まい・56歳」は、認知症によって未来に行くわけはなく過去に戻ることが考えられるわけで、名前を問われれば「かとうゆきお」よりも「わだゆきお」、住まいは関西の地名、年齢は56歳よりも若く答える可能性があるということだ。
 そんなこと平常時には当たり前のこととして思考できるのだが、いざという時に出す情報で抜けがちである。
 警察に届ける時も『今の本名はかとうゆきおで56歳ですが、名前を問うと「わだゆきお」、年齢は「32歳」と答えるかもしれません』といったように、認知症によって今の事実ではなく過去の事実を答える可能性があることまであわせて情報発信しておかないと、とんだことが起こる。実際に、そのことが不十分だったために次のようなことが起こったと聞いたことがある。

○Aさんが行方不明になったので警察に届けた。
○警察がAさんと思われる人に「Aさんですか」って声をかけると「いいえBです」って結婚前の名前を答えた。
○警察は「ひとちがい」という判断をした。
○そのため、保護されていたにもかかわらず発見が遅れた。

 情報提供は必要だが、予測されることもあわせて発信する「認知症対応型情報」が必要で、一般的な事実に基づく情報だけを出しても、認知症には太刀打ちできない。
 全国各地に広まってきている「捜索ネットワーク」であるが、認知症の特徴を踏まえて取り組まないと非効率でもったいない。
 NHK朝の連続ドラマ「カーネーション」にこんな場面があった。

 主人公・糸子の母親が祭りの日に自宅からいなくなって大騒動になり、やっとこさ従業員が見つけ出す。母親が出かけた理由は「家にたくさんのお客さんが来てくれているのに旦那がいない」ということなのだが、すでに旦那は死んでいるのだ。
 驚いた糸子が「何言うてんねん、お父ちゃんはもう死…」と言いかけたところで、従業員がその言葉を打ち消すように「旦那さんはご近所にあいさつ回りに行かれたんとちゃいますかぁー」と母親に伝えた。
 母親はその言葉を聞いて安心するのだが、従業員は「自分の母親も同じよう(きっと認知症)だった」と糸子に話し「お母さんに合わせることです」と助言するシーンである。

 認知症という状態であろう母親にとって、「旦那は死んですでにこの世にいない」という今の事実も事実に違いないが、「旦那がいた」という過去の事実も今の事実であり、生きてきた時間軸上の過去の事実がその人の今の事実と合わさって情報発信されないと「今の人」として存在しなくなるということだ。
 ややこしい言い回しをしたが、とても大切なこと。それが「認知症をうけとめる」っていうことであり、受け止められるからこそ手だてをうてる=情報を正確に出すということにつながるということである。
 逆にいえば、ぼくらプロの支援者は「その人の今」を常に意識して、日常的にさりげなく確認する手だてを怠らないことである。
 ただし、誰かれかまわず本人に「おいくつですか」「お名前は」「旦那さんは、お子さんは」「お住まいは」なんて確認しまくると、これまたとんだことが起こることをも予測することである。

追伸

 名古屋で立ち上げた株式会社波の女のホームページもご覧いただければ幸いです。
 いよいよ4月から、グループホームと小規模多機能型居宅介護がスタートです
 和田も隅っこで記事を書かせていただこうと思っています。よかったら見てください。


コメント


受け止めたいと思っても、「その人の今」って難しい。情報と洞察と想像。どこまでその人を知っているか、知らないことが多いか。でも人として普通ということを考えるようにと言っても普通が多様化していて、20代そこそこのお姉ちゃん・おにいちゃん、40・50代のおじさんには???。人の体の動き、行動をコマ送りに思い返すように話すと、気づかなかったことに苦笑い。そこでわかったと笑顔になると、次は何かと進むことが出来る20代お姉ちゃん。そこまで行かない職員も多く、わかったふりもある。6年前に種を蒔いて育った木もある。でもまだまだ。


投稿者: がん | 2012年03月11日 15:14

名古屋のセミナーありがとうございました。又、忙しい中少しでも話を聞いてくださりありがとうございました。若い方ばかりの中、場違いだと感じていたところでしたので、話すことができホットして帰ることができました。
その時捜索ネットワークがいろいろなところでありすごいことだと思うと同時に携帯利用していることにびっくりしました。私でしたら責任重大と考え携帯は使えないと思ったからです。和田さんはさらりと言われました。でも、やはり人を探すことはどんな方法でも重大なことなのですよね。私も少しでも協力できることはして行こうと思いました。そのためにはやはり地域の方に認知症を理解してもらうことが大切と思いました。


投稿者: kagyaki フクダ | 2012年03月12日 03:34

 和田さん、みなさん、こんばんは。

 私の勤務するホームでの御利用者のお話です。その人の旦那様は他界して、今は娘さんのところにいらっしゃるのですが、それを忘れてしまいます。いつも家を出て帰ろうとされます。生家に帰ろうとされているのか?旦那様と暮らした家に帰ろうとされているのか?帰られます。夜でもです。
 それで、捜索し見つかったときに警察官から「ちゃんと戸締りして出て行かないようにしっかりとやっておいてください」と、このような言葉を言われたそうです。きつく言われて、御家族の方から怒りが収まらずに苦しくてホームに電話されたきたそうです。その時の電話で苦しい胸のうちを涙ながらに御家族が話したそうです。
 栃木では、このような話をほかにもちらほら聞きます。警察の認知症勉強会などは、ないのでしようか?帰宅したい気持ちを止めるのではなく、みんなで支えあって生きたい・・・。帰宅したい気持ちは当たり前だし、忘れてしまうのも仕方がない・・・。それを解ってほしい・・。
 警察官の認知症勉強会と地域捜索ネットワークが必要だと強く思います。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2012年03月13日 19:43

 こんばんは、今回の介護報酬改定のせいでこのブログに気付くのがとても遅くなりました。本題と外れますが、この改定は人災としか言いようがないと思っているのは私だけでしょうか?何故今被災地の介護サービスが十分に整ってないときにこの改定が?
 本題ですが、私はとある行方不明のネットワークに関わっていますが、行方不明者が出たときどのような形で情報を出せば一番いいかということをいつも考えます。
 和田さんのブログを拝見して、少し頭の整理がつきました。先ず情報は、次の3つの観点に整理して出すといいということ。
 1つめは捜索するときに行方不明者の外見が想像できる情報、2つ目は‘その人の今’のエピソードなど‘今’が分かる情報、3つめは一般市民の人が参加してくださっているので、一般市民の人が発見しても困らないための情報、つまり探すためには、外見の情報が必要だし、本人がどのように行動するかや本人を確認するためには‘その人の今’の情報が必要で、情報を出す側としては、協力者にどの‘今’の情報を提供するかが効率のよい捜索活動の鍵になるのだと思いました。
 もうひとつ、実は我々のネットワークでは、参加者がまだまだ少なくなかなか発見につながりません。しかしこの様なネットワークがあること事態が、地域で孤独に暮らしている認知症になり行方不明になる可能性がある方とそのご家族にとっては、とても心強いことになると思いがんばって続けています。
 実際にこの様な仕組みを作ると、捜索だけではなく、行方不明の防止のノウハウに詳しくなったり、家族の認知症の受容にもつながり、実際の捜索だけでなく、見えないところで行方不明の防止に貢献することにもなると思います。地域の絆も深まります。ぜひ皆さんの地域でも皆さんの手で行方不明のSOSネットワークを作ってほしいと願います。偉そうなことを書きましたが、長くなるのでこの辺で失礼します。


投稿者: 釣りバカ福祉士 | 2012年03月13日 23:07

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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