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和田行男の「婆さんとともに」

悪気もなく1

 研修会に参加してくれた人が「和田さんは、どう思います?」って聞いてきた。

 その人が、自分の知人のグループホームのスタッフと飲んだときに、そこのグループホームの女性スタッフが周りの人に、トイレに行くことを拒む入居者に対して、「しょうがないから廊下でズボンを下ろし、パンツを破って交換しようとしたのよ。そしたら声を出すから、無理やり口をふさいで対応したんですよ」って笑いながら話をしていたのだが、和田さんはそのことに対して、どう思うかということだった。
 僕に話をしてくれた人は、「専門性の前に人間性を育てることが大切」で「まだまだこんな感覚がはびこっている業界だけど、障害をもっても人として生きられる社会を目指していきたい。」って熱く語ってくれたのだが、さてこれをどう考えるかである。

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 この人の話の中には二つのことがあるように思う。ひとつは「そんなことをすることに対して」であり、もうひとつは「それを笑って人に喋ることに対して」だ。
 まずは「したこと」を分解してみたい。

(1)ズボンを下ろし、パンツを脱がせた
(2)パンツを破った
(3)廊下で行った
(4)口をふさいだ
(5)無理やりした

 おそらく(1)や(2)は状況や状態によっては「普通にある・ありうる・あってもおかしくない」と思えるが、(1)や(2)を(3)で行うことは、かつてはどこでも見られた光景だったとは思うが、今では前近代的行為であり、よほどの事情がない限り、これは「虐待」に値するのではないか。
 (5)も状況や状態によっては「普通にある」のではないかと思えるが、(4)は異常だ。(4)を分解していくと、なぜ口をふさぐ必要があったかに行きつくが、これはどう考えてもその場面=その情報を周りに拡散させたくなかったとしか思えないのだ。つまり自分がやっていることを「他人に知られたくない」ということの証であり、いわば犯罪に匹敵する確信行為だ。

 つまり僕が思うには、「虐待」や「犯罪」と思えることを意識することもなく笑い話にして、悪気もなく他人に話している。それを何も言わずに聞いているという光景なのだ。
 きっとこのグループホームには「無知」の風が吹いていて、管理者は知らないかもしれないが、実際に現場で従事する人たちの中でこうしたことが普通に行われ普通に語られているのだろう。また、その話を聞いていた人たちのところも同様なのかもしれない。
 それが恐ろしいことである。

 婆さん支援の中では「やむを得ず」という場面が必ずある。どう考えても他に方法が見当たらず、みんなで協議する間もなく「やるしかない」ことがある。
 そんなときの大半が「虐待」や「犯罪」とも思える事柄で、そのことはわかってはいるが、どうしようもないことがあるということだ。
 よくある典型例が「鍵をかけて閉じ込める」や「失禁後に衣類を無理やり脱がせる」である。
 こうしたことは人間として本来許されることではなく、それは自分に置き換えればわかることで、自分の意思に反して「他人に封じ込められる」「他人に無理やり脱がされる」ということなのだから、和田さんの言うことに「そりゃそうだ」となるはず。
 ところが、婆さんにはそれを犯して平気な人が多いのだ。
 なんで平気かといえば、つきつめていけば「認知症だから」「支援してやっているのだから」ということであり、その理由をもっともらしくするために「安全」「清潔」「安心」など、心を感じられる言葉を並べて合法化するのだ。

 僕は、「しょうがないことはある」と思ってはいるが、婆さんに「申し訳ない」を忘れたことはない。
 人として本来は許されるべきことではないことはわかっているが、「婆さん、どうしようもないねん。すまんなぁ、申し訳ない」という気持ちである。その気持ちがなくなったらこの仕事を辞めると決めている。
 なぜなら、特養やグループホームに自分の意思とは無関係に放り込まれて「帰りたい」と言っている婆さんを帰らせてやれないことに代表されるように、たくさんのひどいことをせざるを得ない状況に、この国の婆さん支援システム自体が置かれているからだ。
 もともと憲法どおりにはいかない「無理ある状況」だということを知っている者として、せめて気持ちの上で同じ国民として申し訳なさを感じているうちはいいが、それをいいことに同じ国民として思えなくなったら、同じ国民ではないのだから国民=自分と同じでなくてもよいということになり、「囲いのない廊下で裸にする」こと「人に知られまいとして口をふさぐ」ことを平気でしでかしかねないからだ。
 悪気なくというのは無邪気でいいが、専門職が無邪気では怖い。
 話をしてくれた人が言うように、技や術や業よりも、「人」をもっともっと見つめることがこの業界には必要だと思うし、学も学生の頃から「ヒトと人を知る」ことに力を入れないと、悪ぶることなく悪気なく人を人とも思わないようなことを平気でしかねないということだ。
 来週も続きを書きたい。


コメント


 和田さん、皆さん、こんばんは。

 実は、前にもお伝えしてきたかも知れませんが、私は、小学生のときに苛められていました。
でも、今は・・・それが、とても役に立っています。どうしてかというと、御爺さん、御婆さんの痛みが多少なりとも判るからです。
 虐待には、精神的虐待と経済的虐待と他にも3つほどあったと思いますが(間違っていたらごめんなさい)、施設というところは、経済的虐待に近いことをしていると思います。それがあまり出来ないところです。だからこそ、好きな物を食べていただいたり、少しでも、その人の好みを反映させたいと思います。人は生きている限り、好きと嫌いがあります。あって良いんだと思います。
 精神的虐待は、私が今・・・ぶつかっているものです。パットを何枚もあてる、その上にオムツ、その上にリハパンとオムツカバーをしています。でも、改善は今日・・・明日には出来ません。他の職員の情報を集めると、御利用者に対する思いも多少なりとも感じられるからこそ、私も我慢することが出来るのかもしれません。その事をはじめてみた時は何も改善できない自分を責め、ご飯がのどを通りませんでした・・・。
 今は、出来ることからはじめています。いつかは、ユニットの改善につながればと思います。
 虐待をする前に、改善策を考えるべきだし、それをするのが私たち専門職の仕事ではないでしょうか?おむつ交換は素人でも出来る。素人と私たち専門職の違いは、よりよい改善策を考え、その人が、その人らしい生活をすごせるよう出来る限りお手伝いすることではないでしょうか・・・。
 私は、そう思うのです。
 私たちの未来には虹がかかっている。私は、そう信じています。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2010年11月22日 19:18

どうやら風邪をひいて、まだ引きずっています。じいさま、ばあさまの温かな声が心に染みます。

認知症のじいさま、ばあさまに、何の脈略もなく記憶力を試す専門職。。。
「私覚えてる?」「あの人のこと覚えてる?」「自分の誕生日覚えている?」
正解すれば、「あら覚えているの。良かった。」
答えられなければ、「あらやっぱり、無理ね。」
自分の意志とは関係なく記憶に障害を負ってしまった方、どんなに努力しても回復が難しい方ということが分からないのか。

仲間作りは道のり長いです。
まずは、こちらの話を聞いてくれる関係が必要。その前に自分が相手の話を誠実に聞くことが必要。
次に話の中身に興味を持ってもらえるか。
「そうだよね。」と思ってもらえるか。
話す自分が魅力的に語ることができているのだろうか。
お互い話をして終わってはもったいない。
ともに専門職として立ち働くために言動や所作に現れなければ。

年齢・性別・出身校・資格・経験年数・役職といったもので発言すら難しいこともある。
でも伝えたい。
だから焦ってつぶれたくないし、感情論で活動できるステージも失したくない。
生活もしなくてはいけない。(それなりの収入も欲しい)

私は欲張りです。
今は小出ししています。
寿命(天寿)までしぶとく生き延びたいです。


投稿者: まんまる | 2010年11月23日 21:03

 自分の人間性に向き合うことは結構しんどい。良くも悪くもそんな機会がわりと多い職業、だと思います。本当は良い事だと思っています。「専門性の前に‘人として”」だと思う。同時に「‘人として”を育ててくれる専門性」であるとも思い始めました。
 「ごめんね」と言って(思って)おこなった介助の記憶はたくさんあるけれど、自分を救うための
 呪文「ごめんね」になっていなかったかと、少し痛く感じました。

 「ヒトと人」??


投稿者: ばーばら | 2010年11月24日 00:09

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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