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和田行男の「婆さんとともに」

相手によって決まる「問題」

 よく「問題のある人」とか「問題行動を起こす人」といったように他人のことを言う人がいるが、「問題」は一方的なもので決まるのではなく、相対関係の中で「問題視」されることが多い。
 つまり「問題のある人」だと言われている和田さんの問題は、和田さんに対して「問題のある人」だと言っている人との関係性の中で問題となっているということで、そこを見落とすと、問題視された人だけが「問題のある人」にされてしまいかねない。

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 施設に放り込まれたトメさんは、自分の意思とは無関係に放り込まれたため、納得がいっていない。
 納得がない中で見知らぬ場所に連れ込まれたら、認知症があろうがなかろうが、怒る・騒ぐなど抵抗し、出て行こうとするのは当たり前のことだが、トメさんも拉致・軟禁状態からの開放作戦を立て、タイミングを見計らって敢行した。
 トイレットペーパーや小さな紙に「わたしは監禁されています。助けてください」と書き、ベランダから道路に投げ落として助けを求めることや、施設からの脱出を試みるが、軟禁する職員側も必死で、トメさんの試みは思うようにいかなかった。そんなある日のことである。
 ときは夜中である。
 職員が別の人のトイレ介助に携わっている隙をうかがって施設から外に出ることに成功したのが、職員の執拗な尾行を受けることになる。何としても職員を振り切って解放を勝ち取りたいトメさんの執念が職員を上回ったようで、一瞬の隙をついて職員の管理下から解放を勝ち取ったのだ。自由の身である。
 軟禁していた職員側にすれば「見失い逃げられた」ということで、後から行政等に「なんで逃げられたのか」とお咎めを食らうことを考えれば逃げられ放しにはできず、軟禁責任者である施設長や家族までも加わっての「脱走者連れ帰り活動」が始まった。
 まったく人通りのない明け方の町だから、わかりやすいといえばわかりやすいが、延々と続く東京の建物群の中だけに、雲をつかむような話である。
 (1) 歩いていない
 (2) 目につかない捜索場所以外の場所を歩いている

 (2)は目につくまで探し回るしかないが、(1)は知恵の働かせである。
 明け方の町、あちらこちらうずくまっているのではないか、行き止まっているのではないか、落っこちているのでは、隠れているかもしれない、どこかの家に入っていったかも…。
 あらゆることを想定しながら、ウロウロ・キョロキョロ・バタンバタンしながら捜索を続けていた施設長が、ふと目に留まった一軒の民家に勘を働かせた。時間は4時半である。
 「明け方の民家に明かりが点いている。ひょっとしたら…」
 まさに勘だけを頼りにそのお宅を訪ねると、何と入居者が玄関先に座って、住人と談笑していたのだ。
 入っていったトメさんは92歳で認知症という状態にあるが、入っていった先の住人も95歳で認知症という状態にある人だったのだ。
 あとでわかったのだが、入っていった先の婆さんは娘さんと二人暮らしで、そのときも娘さんは二階にいたそうで、下階で物音がするのはわかっていたが、いつものように一階でおばあちゃんがひとりでゴソゴソしているのかと思っていたようだ。
 「何事もなくてよかったですね。これからもお付き合いください」
 娘さんからいただいた言葉だが、認知症のことを理解しているからこその言葉である。

 この実話からわかることは、人間というのは自分ひとりで自分が決まるのではなく、自分以外の人やものなどを含めた自分を取り巻く環境との間で決まるということだ。
 トメさんが入り込んだ先の住人が認知症という状態になかったら、こうはいかなかっただろう。
 入ってこられた住人は大騒ぎして警察沙汰になったかもしれないし、「認知症の人は閉じ込めておくべきだ」と主張し、行政の管理監督責任を問う、施設の管理責任を問いかねない。
 つまり、入った先の住人によってはトメさんのことを「問題行動を起こす問題人間」として扱ったかもしれず、事業者のことを「問題行動を起こす問題人間を放置する無責任事業者」と扱ったかもしれないのだ。
 また事業者によっては、そのリスクを下げるために、トメさんが脱出する危険性をはらんでいることを理由に、施錠して閉じ込めるのはもちろんだが、薬を使って動けなくしてしまうところだってあるだろう。
 認知症からくるさまざまな事柄も、どんな人に囲まれているかによって、同じ人が、同じことを起こしても、その周りの人の受け止め方によって「問題行動・行動異常・症状扱い」など「とんでもない人扱い」されてしまうということだ。
 誰もが日常会話の中で「いいとこにいったなぁ」とか「いい人に出会えたなぁ」なんていう言い方をするが、まさに「いい事業者・事業所」「いい専門職」に出会えるかどうかによって、その婆さんの“生涯と障害”が決まるということだ。
 ここの事業所は開設して1年半、外とつながる玄関は外からは鍵がないと入ってこられないが、中からは出られるようにしてきた。職員たちの踏ん張りで何事もなくここまでくることができたが、このことを教訓化して、うちの他の事業所と同様に、夜間帯だけは施設から出られないように完全に施錠することの検討に入った。
 今回は偶然にも「いい人たち」にめぐり会えて問題にはならなかったが、世の中はまだまだ婆さんにとって住みにくい社会であり、「家に戻りたいから出て行く」という極めて当たり前のことさえ大問題にされてしまうことを知っているからである。

 何人も、奴隷的拘束を受けない。

 憲法の条文である。


コメント


 グループホームで逃げられないように軟禁する、その隙を突いて自由への逃亡を果たす・・・なんだかワクワクするような出来事でしたね。私は個人的にそうした能力を持った方が好きです。
 「拘束と安全」「条文と現場」お互いにどこですり合わせ、住みやすい環境を作ってゆくのでしょうか?今、各地域で認知症サポーターの養成が進み認知症ネットワーク作りが進行中だと思います。自分の家が分からなくなっても、誰かに助けられながら、いつの間にか自分の家に帰れる様な地域が早くできるといいな~なんて思っています。


投稿者: よっちゃん | 2010年11月10日 09:01

スーパーで買い物をしていたら、通りすがりの女性が興味深げ利用者に話しかけていた。「むかしは毎日(買い物を)してたんだものね。やっぱりたまにはこうやって出てこなきゃ」

転倒・事故・行方不明・時間がない。時には怒られ貶され痛くて辛い思いもする。それでも外にでるのは、「ここに居ます」って、ちゃんと思いや考えをもった私がここに居ますって、体が言うこときかなくなっても認知症になっても、自らの姿を通して、外に向かって誰かに何かを伝えるためでもあるんじゃないかと最近時々思います。
先頭きって社会を築きつづけている先輩達のお手伝いができる仕事なんて。なんて光栄な・・・


投稿者: 夜勤ヘルパー | 2010年11月11日 01:21

はじめまして。
脳脊髄液減少症のゆめと申します。

ご存知ですか?脳脊髄液減少症。
水頭症の逆の状態で、誰にでも事故で起こりうるのですが、非常に認知度が低い疾患です。

高齢者福祉関係者には、やっと水頭症での、手術で治る認知症が認知されつつありますが、

その逆の、「脳脊髄液減少症」という病態についても、広く知っていただきたいと思います。

どうかよろしくお願い申し上げます。

http://blog.goo.ne.jp/aino-yume75215/e/2cca84ac14e4869af4152c5dd53989b0


http://blog.goo.ne.jp/aino-yume75215/e/96b28c10de4e9e4355c77cc745785069


投稿者: ゆめ | 2010年11月11日 09:02

今日は岐阜でのシンポジウム、お疲れ様でした。久しぶりにお会いした和田さんは、なんか渋いお兄さんでした。

シンポジウムでは、石川さんと和田さんのやりとりが見ごたえ、聴きごたえありました。感謝です。ご一緒の野口さんと和田さんが、壇上で両手の動きが同じだったのですが、偶然でしょうか。

この国で、病気になろうが障がいを負おうが、認知症になろうが、最期まで私として生き抜くにはまだまだ足りない物がたくさんあります。
自分に今できることを続けていく、やっぱりあきらめずやり続けたいと思いました。

またの機会にはぜひ勉強に伺います。


投稿者: まんまる | 2010年11月11日 20:03

 何人も過ごしやすい地域であればいいなと思うこのごろです。11日はお世話になりました。午後からの座談会?の後に認知症劇をやりました。見ていただきたかったのですが、残念です。

 以前所属していたグループホームでの出来事。
 夕食後弟の家に行くと出かけてしまったおばあちゃん。それも午後8時の施錠数分前。お見事でした(*_*)「弟の家に行こうと思ったんよ」と温かいお茶を飲んでいる姿を見ると、気が抜けてしまいました。

 お守りのように和田さんの本をカバンに入れ、仕事に行っている私です(=^・^=)
 「働かずに仕事をする」
 簡単なようで難しい言葉です。  


投稿者: ぷー | 2010年11月12日 00:42

ゆめさんへ

 脳脊髄液減少症。
 さっそく調べさせていただきますね。


投稿者: わだゆきお | 2010年11月12日 07:27

 新米です。ご利用者に安心してもらえる声の掛け方をする先輩スタッフがいて、私も真似して同じ言葉をかけてみたら、安心どころかやや不信なまなざしが返ってきてしまった。当然でした。
「家に帰りたい」と訴える方に、出会って間もない私がまずできることは、何を思って誰を思って、この人はたった今どんなに辛いのかと思い巡らすことくらい。頷くことしかできないのは非常に情けないけど、ふとした瞬間にその人への自分なりの言葉が浮かんで、ちょっとだけ響いたかなと感じることがある。手助けが仕事なら、最初の最初の一歩はこういうところなのでしょうか?

「問題行動と捉えて対処方法を当てはめる」ことと私が何よりも先に、人の言葉を拝借してみちゃったことが、遠くはない話かと思って、恥ずかしいけど反省文?!です。


投稿者: 桃まんじゅう | 2010年11月14日 02:24

 和田さん、皆さん、こんばんは。

 今、新しいユニットに変わり、一人の御利用者につけさせているオムツ・パット・リハパン・オムツカバーとあまりにも職員主体の虐待の様を見て、ご飯が食べれなくなり、気持ちの持って行き場がなく自分を責めました。しかし、現状を改善させるためには、友人と現実逃避な話をしても改善にはつながらない。次の日、うちのユニットを担当するであろうケアマネに相談しました。しかしながら、ケアマネが異動のため、うちのユニットの担当ケアマネが定まらない現状・・・身のやり場がありません。とりあえず、環境整備・・ご利用者とのふれあいを多くするなど、外側からの改善。
 私も問題行動・・は、受け側の気持ちにあると思います。その方の行動をどう・・・とらえるかですよね。「そんなことも出来るんだ。すごい・・・」ととらえるか、事故があれば笑えませんが、出来ることは素晴らしいと思います。自分の思いを行動に移せる・・本当に素晴らしいと思います。ただ、それに対応できる職員の力量は必須だし、本当に大変だと思います。
 本音を言えば、私も・・そういった場所に行きたい・・・、でも、ここに閉じ込められて大変な辛さを味わっている人をほおって置けません。周りからでも少しずつ改善したい。オムツの量が少なくなるよう・・・ユニット担当ケアマネに動く働きかけは今後も続けたい・・・。本当は、先輩に直接伝えたい・・・、けれど、直接的な改善が最終的には御利用者に迷惑をかけてしまう可能性が大なのです。ユニットの様子を見ながら少しずつ改善していけたらと思います。

 追伸☆ 脳脊髄液減少症のゆめさんHP、読ませていただきました。自分の浅はかさを知りました。自分は、なんでも出来る・・・、頑晴ります。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2010年11月14日 19:15

桃まんじゅうさんへ

 桃まんじゅうさんてステキな職員ですね。ひとつずつの自分の言動を振り返りながら時間を積み上げていくことはとっても大切で、そのときに単に反省に終わらせるのではなく、「自身を考察」することです。
 今週のブログでも「繰り返し・積み上げ」を書きましたが、またの機会に考察について書いてみますね。
 未来を感じさせる新米さんですね。
 ゆっくりあわてずさわがずじっくりと思考を広げ深めていくといいと思います。


投稿者: わだゆきお | 2010年11月15日 07:24

 コメント内の「頑張ります」でなく「頑晴ります」という文字に魅かれました☆
 ちなみに私「いっしょうけんめい」という字は誰に指摘をされても一生懸命ではなく、一所懸命と書いてます。一生はしんどいけど、とりあえず‘今この場”(の連続)ならなんとかなるかな、と思って。同じ水準で扱ってしまいごめんなさい!


投稿者: 夜勤ヘルパー | 2010年11月15日 18:37

わださんへ

はい。
ゆっくりあわてずさわがずじっくりと・・・留めておきます。安易に方法だけを教えてくれるような事をしない先輩方に、きほん・きそ・どだいをじっくり教わっている気がします。


投稿者: 桃まんじゅう | 2010年11月16日 13:08

夜勤ヘルパーさんへ

 「頑晴ります」は、こちらの和田さんのブログにコメントされた方の言葉を勝手に拝借しています。この言葉、とても素敵で・・・それ以来、ずっと使っています。勝手に使ってごめんなさい・・。でも、これからも使わせてほしいです。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2010年11月16日 22:23

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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