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和田行男の「婆さんとともに」

置き換え

 「何度言ったらわかるの」
 「さっきも教えたでしょ」
 婆さんに対してそう言う職員に、「何度言っても直らない」と嘆くリーダー。
 「どうやって伝えれば理解してもらえるのか…」
 そんなときリーダー(彼)に、神の声が下りてきた。

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 職員を召集した会議の場で、いきなりある職員に彼がこう言った。
 「何で会議に遅れてきたのか」
 言われた職員は遅れていないので「遅れていません。時間どおりに来ました」と反論したが、頑として彼は「遅れてきたでしょ」と言い張る。
 身にまったく覚えがない職員は彼の言いがかりに戸惑うばかりで、周りの職員も不信を募らせ、やがては怒り口調にさえなってきた。
 そこで彼は、職員たちにこう切り出した。
 「自分に覚えがないことを言われたら戸惑うでしょ。怒りたくなるでしょ。怒るでしょ。認知症ってそういうことなのでは。覚えがないから何度でも聞く認知症の人にとっては、言いがかりをつけられている状態でしょ」
 言われた職員たちのうち何人かは、すぐに「あっ」と思えたようで、それからというもの前述のような、認知症が理解できていない言葉のかけ方や、婆さんへのかかわり方がなくなったそうだ。
 研修会でも懇親会でも「伝え方」についてよく聞かれるが、彼は逆に、自らの経験を研修会後の懇親会の席で僕に語ってくれた。

 僕が他人に伝えるときに駆使するのは「置き換え」である。
 ダイレクトにそのことを伝えるのではなく、その場にいる人たちに共通するわかりやすい事柄に置き換えて伝えるという方法である。
 単なる僕の経験手法にしか過ぎないのだが、「和田さんは、例えが上手でわかりやすい」とお褒めの言葉をいただくことが多いので、僕にあるステキな能力(才能)なのかもしれない(ハハハ、自画自賛)。
 彼もまったく同じで、身近なことに置き換えて伝えたところ、職員たちと響き合えたということだ。
 僕はよく下ネタじみたことに置き換えるから嫌われるが、性に関することや排せつに関することは、誰もに共通するわかりやすいことなので、つい使ってしまう。
 嫌う人の声を後で聞くと、大半は「言いたいことはよく伝わったが、言い方が気に入らない」ということのようだから、伝え手側の僕としてはOKで、嫌われても伝わっていることを思うと、万人に共通しやす例えに置き換えるのは効果があるということがわかる。
 要するに「伝わるかどうか」の勝負で、どんなきれいごとを言っても伝わらなければ意味がないわけで、意味のないことを積み上げても時間の無駄でしかなく、伝わる最短の方法を考えて実行するだけである。
 伝える側にいるリーダーたちは、伝えられ側にいる職員の年齢や年齢に応じた社会的背景などを考慮し、職員それぞれに伝わる「置き換え」に努力するのが本分なのに、「この年代の人はわからん」「ちっとも聞いてない」「何度言ってもわからへん」など、伝えられる側を責めがちだ。
 先の彼は、伝えられる側に対して嘆くだけでなく、伝える側つまり自分を変えたことで、伝えられる側の職員はまったく変わっていないのに、職員たちに響き、響いたからこそ職員も変わり、職員たちが変わることで婆さんを取り巻く環境が一変したということだ。
 伝えられる側にわかりやすく置き換えることができるのは、伝えられる側にいる人を知っていればこそで、伝えられる側に響ける例えに置き換えないと、置き換えは成立しない。和田の子どもの頃の生活体験に置き換えて例えても、今の二十歳の人には通じないのが当たり前だということだ。
 置き換えはセンスが必要だと思うが、誰にでもできるし、誰もが日常生活の中で駆使している方法で、意識していけばどんどんできるようになるはず。
 僕とて、特別な能力が備わったスーパーマンではない。
 相手に対して一生懸命「こと」を伝えようとする気持ちが「なんか伝わりやすい例えがないかいなぁ」となり、相手の年齢や性別、職業、生きてきた背景、生きている背景などを察知して、「これならわかりやすいやろ!」と言わんばかりの自信で「例えるとな…」と置き換えて伝えているだけであり、失敗したら別のことに置き換えてみるなど、思考・試行を繰り返しているだけ。「置き換え」はコミニュケーション(伝達)への努力であり、僕は婆さんからカネをいただいているプロとして努力しているに過ぎないのだ。
 伝え方にお困りの方、「置き換え」に挑んでみては。


コメント


 お疲れ様です。

 今月はいたる所のグル-プホームの会議で「何で遅れた!」とやっていそうですね・・・。

 自分なりの手立てを色々と考えなくちゃならない所ですが、こうも「ナイス(死語?)な例」をあげられるとなかなか他に思い付かなくなりそうです。


投稿者: toto | 2010年08月17日 21:57

 「置き換え」とても説得力ある方法ですね。似たようなことはしていたつもりですが、今までの私流はまだまだ机上論のにおいがプンプンでした。反省!自分を変えることで・・・職員に響き、職員に響いたから職員が変わり・・・。
 何気ない文章のようですが、「響く」ことって大切ですね。「響く」伝え方心がけます。響いたときって、相手の表情を見てたら分かりますよね。そのキラキラ感が私に響きますもの。


投稿者: シマシマ | 2010年08月18日 08:53

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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