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和田行男の「婆さんとともに」

生活排水と生活支援

 地球全体の人が排出する排水の総量をバケツ1杯分とすると、それに占める生活排水の量はスプーン1杯で、たかだか0.01%。ところが、そんな微々たる量の生活排水が地球をいじめ、他の生き物をいじめ、回りまわってヒトに悪影響を及ぼす原因となっているそうだ。
 ヒトの勝手な快適性の追求の結果生じた排水で海が汚れ、海の汚れがさまざまに生態系に影響を与えているようだが、その排水の中に自分の自分たちの排水もあるということだ。

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 約5000万年前から存在する石鹸は、元々は自然植物等の油を使って作られていたようだが、今の合成洗剤は石油で作られている。
 やし油や灰を使った石鹸は、自然の中で酸性のものと混じると泡が消えるが、合成洗剤は分解されずに残ってしまう特性をもち、これがどうも地球によくないようである。
 そのことは今になってわかったことではなく、随分と前から警告されてきたようだが、その一方で消費者はどうしているかといえば…

(1)値段は高いが、自然素材の洗剤を使う
(2)値段に限らず、そういうことに無頓着なために合成洗剤を使う
(3)環境によくないことは知ってはいるが、安価・便利・効果を優先して合成洗剤を使う
(4)わかってはいるが高価で買えない
(5)購買圏に販売していない

 おおまかにはこんなところではないか。
 僕は(1)~(4)の混合型消費者だが、地球環境によくないと言われても、そのことは知っていても、販売しているのだから買って使ってしまう。個人に委ねるとそんなものだろう(弁解しているわけではないですが)。

 社会的な存在である企業は、反面ではコスト削減が使命でもある。かつて環境などどこ吹く風がごとく有害なものが混じった排水を垂れ流し続け、その結果は「水俣病」など公害病に代表されるように、人体に被害を及ぼすほど海を汚染してきた。
 よく中国の近代化にともなう汚染の状況が映像や写真で流れるが、日本も同じようなときがあったのだ。
 今では産業排水は改善されてきたが、個人に委ねる生活排水はまだまだ取り残され、今はかつて病を被った市民の出す生活排水が、川や海を病に陥れているというのだ。

 さて社会福祉施設はどうかと考えれば、生活排水を出している。社会福祉施設は一般企業とは違ってその第一義は「福祉」にあり、福祉とは「人々が幸福に暮らす生活環境」などと訳されるほどだから、人々の幸福追求が使命であるはずで、こうしたことの先頭に立って「生活排水改善運動」に取り組むべき存在であるはずだ。
 企業が環境にやさしい活動に取り組んでいるからといって、そこで働くすべての人たちが私生活までそうかといえば、必ずしもではないだろう。でも働いている時間だけは「環境にやさしいチームの一員」となる。
 従事者だけでなく要介護状態にある人たちもそうで、一人ひとりは(1)~(5)で生きてきたとしても、社会福祉施設が毅然と(1)を貫けば、その人たちは(1)になれる。
 つまり、自宅で自立した生活を送っていたときは、安くて手に入りやすい合成洗剤を使っていたとしても、施設が自然素材でできた石鹸等を使っていれば、婆さんの意思とは無関係に環境に取り組む人間が増えたことになり、婆さんは、知らず知らずのうちに環境を守る側に立つ人になるということだ。
 それが逆に、自宅では(1)の人が、コスト意識だけで(2)(3)にしている社会福祉施設で暮らすようになれば、環境に取り組む人間が減ったということになり、婆さんを環境破壊側に立たせるということになってしまうのだ。
 こうしたことは石鹸だけの話ではなく、値段だけで安価な外国製の食材を求めれば、知らず知らずのうちに日本の農業を破壊する側に回ることになるし、寒いほどにエアコンを使えば、知らず知らずのうちに地球環境を破壊する側に回ることになる。
 生活排水への支援は、施設で暮らす・施設を利用する人たちの意思とは無関係に地球環境を守る側に引き込むことが大事で、国の施策はそれを誘導する・実現するために必要な手立て(報酬体系や基準など)を講じるべきである。
 かくいう僕は、私生活では地球環境を汚す側に回ることが多いが、せめて施設運営ではそういったことに意識をもって挑んでいきたいと考えている「外面タイプ」で、企業人としての社会的使命感だけは忘れないように努めている。
 いや、そんな格好のいいもんではなく、環境問題についてやや知ってはいるが、私生活では「したくない・できない」と逃げていることに罪悪感があり、外面で「使命感」に逃げ込んでいるだけである。環境課題に二面性はつきものだから(また、逃げた!)。
 ただ、そうこうしているうちに「米のとぎ汁はシンクに流さないで土にまく」とか「脂分はふき取ってから洗う」とか「できるだけ洗剤を使わない」といった行動がとれるようにはなってきた(でも、趣味のクルマは年式が古く環境に悪いヤツだから、何をかいわんやであるが、ハハハ)。
 社会福祉施設は、お風呂やトイレの清掃、洗濯、調理や食器洗いなど、家庭とは比べ物にならないほど洗剤を使用し排水する「生活排水大家」であり、高齢社会にあるわが国は社会福祉施設大国でもあるだけに、深刻さを抱えた重要かつ早急なテーマである。
 東京の小学校で子どもたちに「生活排水から水を考える」という授業が行われているようだが、大人である僕らこそ、できることからやらねばと、新聞記事を読んで思ったし、うちのデイサービスやグループホームなどの事業所で、環境に配慮した運営が行えているかどうか、職員たちと話し合ってみたいと思った(これを職員たちが読めば、きっと主体的に見直しをしてくれることだろ。ブログを読んでくれればではあるが)。
 第三者評価や情報公開などの評価項目にはないが、とっても重要な「施設の社会的役割」として、これからの生活支援で「環境保護生活への支援」は欠かせないことである。


コメント


さすが師匠、環境問題まで考えておられるとは。
 当方でも、なるべく合成洗剤等は使用しないようにしてるのですが、コストや、職員の意識や、地域に商品が売っていないなどの理由でお目見えすることがあります。
 洗濯洗剤は、「せっけん」を使用し、お年寄りの皮膚のトラブルの予防に努めております。
 食品も、添加物等の入っていないもの、国産のものつまり「本物」を使用していきたいと思っていますが、上記の理由でお目見えすることがあります。
 師匠のブログは回覧しているので、職員の意識は、変わるかも。


投稿者: 山○県のitou | 2010年08月09日 18:58

 「哀しいサービス」って、いつも知らず知らずのうちにだから恐いんですね。冷汗。自宅で(1)を貫いてきた人が、(2)や(3)の施設に暮らすその日から・・・
 そこが一番どきっとする。いろ~んな意味で。


投稿者: 桃まんじゅう | 2010年08月13日 02:04

 主体的に環境に配慮した運営がされているか? 振返り、見直すべきですね。
 出来ている事が当たり前ではなく、出来ていない事(出来たふりをしている)の方が当たり前になっている時代だからこそ、その意識を戻す為にも定期的な機会をもって見直す事が必要だと思いました。
 施設の目の前に、会社の寮がありますが、誰も居ないのに、エアコンや電気がついてる事があるんです。私生活だから?社会福祉施設だから?嫌々、その事が大切だから環境に配慮しなくては、と今度その職員に伝えたいと思います。


投稿者: 和田さんでいう、うちの職員 | 2010年08月17日 12:56

かなり遡ってのコメントですみません。体調などの都合でいまは介護人を休んでまして、久々読みにきました。
環境問題!考えてました!やりたいと思ってました!話題にあがり嬉しいです。
わたしは家庭では出来る範囲で様々なことはしています。金銭的に難しいですが、やはり、知っててやらないでいるのが嫌だからです。団体や組織の単位ならやりやすいのでは?だったらうちのホームでも?と、いうことも考えていました。復職したら、取り組みたいですね。
例えば植物性の洗剤は手荒れしないので体にも良いです。万が一、婆さんが口にしても安全です(完全ではないですよ)。こういう取り組みは心も優しくなれますよね。
ただ心配なのは諸経費がギリギリなことですね。ちょっと高い日用品が買える余裕なんてないですから。月末はトイレットペーパーの在庫が空になる月もあるし。エコにお金がかかるなんてナンセンスな世の中ですね。
ただ、取り組みたい題材としては非常によい内容です。大いに賛同します。


投稿者: ねむりねこ | 2011年01月18日 03:51

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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