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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

獄の中の不条理(part2)

 前回と同様、山本譲司氏の『累犯障害者』から、「売春する知的障害者たち」の章について考えてみたい。

 早苗さん(仮名、33歳)に山本氏がインタビューしている。10歳の息子は軽度の知的障害で、養護学校に通っている。62歳の母親は重度の知的障害者で、母、早苗さん、早苗さんの息子の3人暮らしだ。山本氏が自分の受刑体験を語ると、早苗さんも緊張が解け「鑑別所に5回、少年院に1回入っていた。少年院は同級生の子が何人もいて楽しかった」と嬉しそうに語る。中学校は特殊学級で、家出を繰り返し、行きずりの男と寝た。
 16歳の時にシンナーの売人と出会い、彼がポン引きとなり売春を始める。婦人保護施設にも入っていたが、「男はダメ、男はダメ」って言われるだけで、規則も厳しく半年で逃げ出した。「たくさんのお客さんを相手にしたけれど、みんな『可愛い、きれい』って言ってくれてうれしかった。みんなやさしかった」

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 彼女の母親は10歳の時に奉公に出され、売春を始めた。子どもを産んでからはキャバレーに勤め、早苗さんは、ネグレクトされていた。子どもが将来、性的な問題を抱えるお約束ともいえる、子ども虐待だった。
 子育てや金銭管理、ひらがなの読み書きもできない母親だった。親子で浪費癖が激しく、400万円の借金をしていた。掃除婦として働いていた母親もガンを発病した。早苗さんの長男の養護学校への入学を期に、一家はやっと「福祉」につながった。自己破産して生活保護と障害年金が取れた。
 東京などでは、無防備な知的障害者の女性を風俗業界が簡単にリクルートできるという。実際、山本氏のいた羽黒刑務所には、知的障害者を専門に風俗嬢として勧誘しているグループの一員だった男がいた。「あの娘たちは、警戒心なんて全然ないからね、普通の女よりずっと引っ掛けやすいんだ。からだは一緒だし、素直で、からだを売ることへの抵抗感がない。だから昔から風俗の世界じゃ、たくさんああいう子たちが働いていたんだ」

 加奈子さんは1年前に刑務所から出所したが、容貌だけではとても知的障害者とは思えない。高等養護学校を卒業してすぐに風俗の世界に入り、ソープ、街娼、デリヘル、アダルトビデオ、最終的に暴力団により軟禁され、覚せい剤を打たれた。
 「三回警察に捕まって、二回は執行猶予、最後刑務所に行くことになったの。そのたんびに家に連れ戻されたけれど、すぐ家出して男のところに戻ったの。バカだからね。それにセックスが好きなの」
 「でも先生、あたしみたいなバカでも人間なのよ」
 「あたしたちみたいな障害者はね、好きな人ができて本気で付き合っても、すぐにバカがばれて捨てられちゃうの。山本さんだって、あたしのこと、女として見てくれてないでしょ」
 彼女たちは風俗や売春の経験を語る時、本当に嬉々とした表情を見せるという。人生で一番ちやほやされていたのが売春の現場であり、それが彼女たちの「生きがい」になっていた。今加奈子さんは福祉作業所に通っているが「でも、いまのあたしって本当に人間なの?」

 東京都立七生養護学校で、大きな裸の男女のお人形を使って、性教育をしていたことに対し、産經新聞や都議会議員などが「過激、まるでアダルトショップ」とバッシングを張り、大きな問題になり学校職員から大量の処分者を出した。まったく世間は知的障害者を理解しようとしないようだ。
 人形という、知的障害の子にはぴったりな教材の上に、知的の子のレベルにあわせて視覚に訴え具体的にかつわかりやすい性教育として考え抜かれているし、「虐待」や「育て直し」などともリンクされている、すばらしいやり方だ。いかに知的の子が「嫌」と言えず、性被害にも遭いやすいか。からだと性の問題は、障害児こそ一般人以上に、大切に教えられなければいけないことなのに。
(part3に続く)


コメント


 初めまして。私は精神で年金申請中のものです。いつも佐野さんのブログを読ませてもらっています。
 私の居た地方はその世界の方が多く、やはり同じような境遇の方を見てきました。どこでもそうですが、事後にならないと福祉関係に繋がれないのは悲しい事です。
 以前、障害者新聞の制作過程を本にしたものを読んで、七生養護学校の事は画期的と評価されていただけに、この一般の人たちの対応や批判記事載せた新聞社に対して落胆の色を隠せません。
 周囲の人間が正しく知識を持ってくれないと、いつまでたっても救われないのは知的の方たちなのに。罪のない人たちが平凡な生活を当たり前に遅れる社会を望みます。


投稿者: しーる | 2008年12月20日 19:26

 ぼくの入院中にも知的の人いました。チック症状があるだけなのに、長期入院を強いられていました。可愛くてけっこう親しかったです。
 知的の人が一番自立が難しそうですが、もっと平凡なところに居場所を見つけることのできる社会になってほしいです。


投稿者: 佐野 | 2008年12月21日 00:24

 はじめまして。私は19歳の女です。
 小学校後半くらいからイジメにあって、それから家族とも色々あって、うつ病、不安神経症になり、今年の夏、単位制の普通科高校に通っていましたが、単位がダメになり通信制の高校に転校しました。来年の三月には卒業できますが…。
 というわけでこの歳でまだ高校生なのです。
 診療内科や大学病院を転々として、今も通院しています。
 あなたのブログをみつけたのは、精神保健福祉士の仕事に興味があり、ネットで調べていたらこのホームページに出会ったわけです。
 さまざまなサイトでは、資格の取り方や学校の紹介ばかりが掲載されていて、具体的な仕事は?と思うばかりでした。
 ここで、実際に精神保健福祉として働いてらっしゃるあなたに、お聞きしたいのですが、私のような内気で人と話すのがニガテな人間でもできる仕事なのでしょうか? 資格を取るのも難しいことは承知してます。でも、ここまで興味をもった職業と初めて出会ったので、詳しく教えて頂ければ幸いです。


投稿者: YUKI | 2008年12月22日 02:48

 19歳で高校生、全然オッケーですよ。歳取ってから高校生やるひともいますし。
 臨床心理士がすごく人気があるとは聞いていましたが。
 PSWですか。まず残業というほどのこともないので、こころの病を持っていても休みには休めます。PSWは無口な人、実に多いです。仕事上余計なことは言わない方がいいので、無口はいいのかもしれません。
 ぼくなんかPSWの集まりに出たら、一人でしゃべりまくりますが。あまり自己主張はしない人が多いです。
 ただしPSWは精神病院とか作業所とか、業界が狭いですから、就職は他の業種よりは難しいかも。
 現場では介護福祉士とか社会福祉士が足りないって聞きます。


投稿者: 佐野 | 2008年12月22日 19:19

私は、経度知的障害者で、20代の時に家を追い出され、付き合ってる彼氏の家に、でも、ナンパされれば、ついていき、普通の工場で働いてましたが、対人関係で悩み、自殺未遂を2回ほど繰り返し、風邪薬や、バファリンヤ100何錠ほど飲んだり、生きるか死ぬか悩み、デリヘルしたりセクキャバしたり、レイプも散々いろいろありました、トラブルにまきこまれ、過去のことと割り切ることは、できません、早くに軽度知的障害だと分かれば、障害者の作業所で働いていただろうし中学生の時は、中学2年で学校いじめもあり行けなくなり、ひきこもりになり、昼夜逆転の生活で手首を傷だらけ、ずたずたになり、夜中に手首を、切ったり、生きていても社会との繋がりもなく、療育手帳は持って、いまごろ、相談所に福祉に繋がって、生きていても死んでるのとかわりないです。


投稿者: クロネコ | 2012年08月22日 14:38

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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