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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

援助者という仕事part1

 今も続いているのだろうが、一時レンタルお姉さんというのが話題になった。引きこもっている人は男性に多いのだが、その自宅にきれいなお姉さんが繰り返し訪問活動を行って、引きこもりから脱出させるというものだ。またビフレンダーズという自殺を考えている人の一時的なこころの友になって、自殺の淵から救うというボランティアグループもある。もちろん当事者が救われさえすれば、結果オーライではあるのだが、いずれもニセの友人である。当事者も最初はニセだと分かって付き合い始める。付き合いの最中には夢中になって、付き合いが終了すれば、当事者も醒めてくれるというのが、援助者にとって理想的なのだろう。援助者側の別れのテクニックもあるのだろうが、場合によっては事実を受け入れられずに途方に暮れて、怒りと孤独に身を焦がす当事者だっているだろうと思う。特にきれいなお姉さんが親しげに近づいてきて、「好きになるな」という方が、無理っぽいだろう。

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 以前に「主治医ラブ」という題名のブログで、主治医を好きになる女性たちのことを書いたこともある。そして、女性患者と付き合ってしまう精神科医の話もよく聞く。あと看護師と付き合ったりとか。けっこう精神科医もドロドロだ。
 こちらは「親友だ」と思っていても、相手は「親友でもなんでもない」と思っていたことや、「カップルとして付き合っている」と思っていても、相手は「何とも思っていなかった」ことなども、ふつうによくある話だと思う。
 ニセモノの関係だから援助者側は当事者に対して、たぶん心理的葛藤は抱かないのだろう。しかしたとえば、「当事者と援助者が同じ人を好きになって、取り合いになったりする」などという局面になれば、大自然の掟である弱肉強食の本当の関係になる。自分のワルさ、えげつなさを意識して、初めて本当の関係になる! しかもその自分のワルさ加減を自分で許す。つまり居直る……という。
 以前重度身体障害者が施設から出て、ボランティアの介護者を沢山いれて、アパートにひとり暮らしをするという自立運動に関わっていたことがある。あるとき、男性介護者と女性介護者がカップルになったことがあって、介護者の女性のことを好きだった男性障害者が、嫉妬で悪態をついたことがある。これこそ、本当の関係だろうと思う。さらに男性障害者が「身体が不自由だから差別したのだろう!」と発言して、女性介護者から「あんたに男の魅力がないからよ!」と言い返されたというオチもついている。
 実はぼくも精神保健福祉士の資格をもっているのだが、とっくに職能団体である日本精神保健福祉士協会の会員を辞めていて、ぼくが援助者として当事者と付き合ってきたという自覚はほとんどない。たまには障害年金の知識を披露して、相談に乗ったりすることもあるのだが……。
 大学を卒業したばかりの精神保健福祉士の若い娘などを見ていると、経験がない分、本当に当事者と付き合ってしまって、自然に当事者から可愛がられていたりすることもある。当事者の方は「スキあらば彼女に!」などという気持ちもアリアリなのだが、なかなかそういうレベルの話にならなくて、微笑ましいこともある。

(part2へ続く)


コメント


 ひきこもりの男性を、外へ引き出すのに、若くてきれいなお姉さんは、仕事だからやっているのだということを、におわせるとうまくいかないのでしょう。あくまで本気で自分のために一生懸命なのだと思わせなければなりません。そうでなければ男性は外へ出る気にならないのでしょう。
 統合失調症の人は、佐野さんがおっしゃる通り、人との距離が上手く取れない傾向がありますね。自分には自分のための人生があって、人には人のための人生がある、考え方も価値観も自分とまったく同じ人はいない、こんな当たり前のことを病気がひどかった時は、考えたくありませんでした。
 今では私も、ニセモノの愛情や友情は、それなりの価値しかないことが分かる気がします。それでも、孤独な人はニセモノにすがらざるをえないのですね。 
 


投稿者: 金太郎の妻 | 2011年08月18日 23:47

おひさです。人との距離が無いから、なんでも自分に関係あるのでは?って思ってしまうのですね。新興宗教や右翼左翼など、似ているもの同士の集まりも、人との距離が取れず、迫害されていると思い込んだり、批判せずにはいられなかったりするのですね。スルーすると言うことも大切なことです。
孤独も本格的に味わっている人は、ニセモノの情にはすぐに醒めてしまうような気がします。


投稿者: 佐野 | 2011年08月20日 15:43

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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