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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

「死刑でいいです」part1

 この衝撃的な題名の本は、母親と他人の姉妹の3人を殺した犯人の言葉だ。謝罪の言葉は最後まで出ないまま、死刑は執行された。この事件を共同通信社の池谷孝司氏が取材をして出版した。

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 犯人の山地氏はアスペルガー障害だと言われていた。
 裁判での精神鑑定をした岡江医師は「アスペルガーでなく人格障害である。快楽殺人である」と断じた。新聞には「快楽殺人」の見出しが載った。岡江医師はこの鑑定を「山地自身が本当のことを語っているとすれば」と保留をつけた。いくら鑑定期間が短かったとはいえ、山地氏が強がって嘘を言うことが多かったことくらい、ちょっと話しただけで精神科医師なら見抜けないものだろうか。「事件直前、マンションの前で警官に職務質問をされたときに『彼女にふられたのでここで頭を冷やしている』ととっさに切り抜けている」ことも、岡江医師は人格障害の根拠にしたが、後に別の医師によって「発達障害であってもとっさの物言いができる場合がある」と、否定されている。地元京都の患者会に電気ショックの件で、岡江医師は糾弾を受けたことも以前聞いたし、池田小学校の事件(人格障害の鑑定結果)をはじめ、多くの鑑定も手がけているようだ。人格障害と鑑定された山地氏は、感情も動き女性には甘え、人の感情を持ち合わせていた。判決は岡江医師の鑑定にそって、「反省の言葉の出なかった山地氏は人格障害であり、矯正は不可能」と断じた。「感情のない状態」はあっても、「感情のない人間」などいるのだろうか?

 良い縁がなかった、人間関係に恵まれなかったとしか言いようがないと思う。山地氏は「自分は生まれてくるべきではなかった」という救いようのない深い孤独の言葉を吐いた。「社会が何とかできなかったのだろうか!」という思いを強くする。ここまで絶望して、はたして人は生き続けるエネルギーがわいてくるものだろうか……。
 「生まれてこなかったほうが良かったずら」というジョージ秋山原作のマンガの主人公、「アシュラ」の言葉に、ぼくは子どもの頃読んで、衝撃を受けたことがある。「アシュラ」は人肉を食べないといけないほど飢饉があった平安時代が舞台になっていて、PTAから堂々「有害コミック」に指定されていた。神戸の連続児童殺傷事件の少年(以前のブログでとりあげた)も、レッサーパンダ帽の寝屋川事件(注)の少年も「自分は生まれてくるべきではなかった」と語った。このままでは救いがない。 
 人間は深い絶望や孤独を味わうと明るく生きるようになると言うけれど、ここまで生きる足下が崩れると、立ち直るきっかけも気力もないのだろう。

(part2へ続く)

(注)「十七歳の自閉症裁判―寝屋川事件の遺したもの 」(岩波現代文庫) 佐藤幹夫著に詳しい分析がある。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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