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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

孤独を生ききるpart3

 ぼくも3月21日で57歳になった。ぼくが「自分が老いたなぁ~」と一番感じるときは、人の名前を思い出せないときだ。ムゲンに毎日のように来ている人の名前をとっさに思い出せないほど、記憶力がなくなってきている。ありがちな単語がどうしても出てこないこともある。あと階段を下りるときに、膝関節が痛くなるときもある。テレビCMでおなじみのヒアルロン酸が失われてきているのかもしれない。
 そして人との会話で一体感をもてないときや、人から拒否されたあとで、怒りとないまぜの醒めた気持ちで、ひしひしと寂しさに襲われることもある。若いときのように、孤独がこころの傷になることも少なく、あまり後も引かないのも、人間関係が比較的安定していることと、歳をとってこころの壁が厚くなってきているのかもしれない。あるいは孤独をこころにもち距離をとることによって、こころの傷になるのを防いでいるのかもしれない。むかしは人に言われたことで傷ついて、言った人としばしば縁を切ってきたものだ。

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 たぶん病者で、親友のいる人はとても少ないのではないだろうか? 「発病前からの友人とずっと付き合いのある人は、予後がよい」とも言われている。
 健常者の場合、親友といえば、普段はこころの壁で他人をブロックしているけれど、気のおけない親友の前ではこころの壁を取っ払って、子どものように無距離で付き合える、というものだろう。病者を振り返って、時と場合によって人との距離を自由に使い分けるような、器用なことができる人は少ないだろうと思う。とくに5年10年と入院生活が続けばたぶん無理だろう。
 こころの壁とはふつう、友人としての付き合いはじめは無距離でも、ときに嫌な思いも経験して、距離をとることを少しずつ覚え、壁が作られて行くのではないだろうか。あるいは、最初から警戒心をもって壁を作って、距離をとるのかもしれない。
 病者は友人付き合いのなかで、もまれている人は少ないだろうと思う。健常者が友人関係のなかで悩んでいる間、世界中を相手に闘っていたりしていたのだから。だから目の前の人と距離をとって、こころの壁でブロックするというようなことが、とても苦手だと思う。元々繊細な人が多く、歳をとってもこころの壁はとても薄い。入院病棟のなかでは、まるで昔から知っている人のように、無距離で話しかけてくる人も多い。話し終わってあちらへと離れて行く瞬間に、無限の距離を感じたりもする。無距離になりがちな人たちは、孤独に弱く、甘えて人間関係に依存しがちだと思う。そのために人間関係が荒れたりすることもあるだろう。逆に神経症的な人は、こころの壁が厚く、人との距離感があり過ぎ、孤独なようにも見える。顔つきも統合失調症者は無距離感によるであろう緊張感のない顔をしていることが多く、神経症的な人の顔には緊張感がみなぎっているようにみえる。
 さて統合失調症者のインポテンツ、薬の副作用だと言われているけれど、この無距離感もすごく関係しているように思う。女性を求める統合失調症者は、はじめの距離を徐々に埋めて行き、恋愛し、別れたあと距離をとることなどの、距離の使い分けが、とても苦手だろうと思う。だから生身の女性を思いきりあこがれに止めておくと、自慰では射精できても、現実に女性の体を前にしたときに、ロマンチックから急に現実に醒めて、インポテンツになるのかもしれない。また病者同士のカップルが多いことも、知り合うきっかけが多いという理由以上に、お互いに無距離で付き合えて、相性がいいこともあるのでは、とも思う。
 この無距離感が「統合失調症者は癒し系だ」と言われるゆえんだろうと思う。だれとでも無距離で付き合えば、癒しがほしいこころに傷のあるような人にとっては、病棟のなかでも救いになるのだろう。こころに傷のある人たちはこころの壁で拒絶されずつながれることが、とても安心なのだと思う。病者は過剰に優しすぎ、また自身も傷つきやすくPTSDにもなりやすいと思う。
 逆に言うと、統合失調症者のもつ過剰な人なつっこさがなくなり、親友を作ったりできるようになれば、つまり、こころのなかでも距離と孤独をもち続けることができるようになれば、「統合失調症は治ったも同然!」とも言えると思う。たとえ洗練されていなくても、それまでの過剰なやさしさは美点でもあったに違いない。

(part4へ続く)


コメント


こんにちは。久しぶりに投稿します。

>病者は友人付き合いのなかで、もまれている人は少ないだろうと思う。健常者が友人関係のなかで悩んでいる間、世界中を相手に闘っていたりしていたのだから。

 そう思います。私の主人も統合失調症ですが、病院にかかるずっと前まだ、お付き合いも始まってないときに主人と仲良くなりたいと思って、何かと話しかけていたころ、主人に言われたことがあります。
 主人いわく、「みんな最初は自分がプログラマーであり総務でパソコンをいろいろ教える立場にあったり、ちょっとスポーツが出来ようように見えるからといって親しくなろうとする人がたくさんいるけれど、みんなしばらく付き合うと自分から離れていくんだよね。友人も彼女もそう。自分の性格がわかってくると、みんな離れていく。〇〇(たんぽぽ)さんもきっとそうだよ。だから、あまり期待して近寄らないほうがいいよ。」
 と最初はその意味がわからず、仲良くなろうとしていましたが、次第に主人の抱えている心の苦しさがわかるにつれ、友人が離れていくというより、佐野さんの言うように距離感がうまく取れなくなって、傷ついて自分から縁を切ったり切られたりしてたことがわかったように思います。
 主人が今も孤独であることには変わりはないけれど、そばに妻である自分と子どもが二人いることが少しでも、孤独を癒してくれる存在になっていればいいなと思います。


投稿者: たんぽぽ | 2011年03月31日 10:05

 距離感がつかめなくて、傷ついたり、傷つけたりすることで調子をくずすことが、病者のかかえる生きづらさの中で、一番大きなものかもしれません。健常者だってそう器用に距離を使い分けられている訳ではないと思いますが、器用な病者もまた、とても少ないと思います。


投稿者: 佐野 | 2011年03月31日 20:45

お世話になります。
>健常者だってそう器用に距離を使い分けられている訳ではないと思いますが・・・

そうだと思います。私自身、人間関係でつまずくことも多々あります。年をとるにつれ、自分を守るのが上手になっただけかもしれません。


投稿者: たんぽぽ | 2011年04月01日 23:39

 病者は無警戒にこころをさらしてしまって、自分を守ることがとても下手です。ぼくの主治医は「嘘をついてもいいから、自分を守れ」と言いました。


投稿者: 佐野 | 2011年04月02日 23:30

 うそも時には大事なんですね。「病者は無警戒にこころをさらしてしまって、自分を守ることがとても下手です。」・・・私の主人もうそはつけません。とても正直な人です。でも、とてもやさしい人です。主人の表裏のないところが、とても居心地よいのだと思います。
 だからこそ、主人が荒々しくなり、暴言や暴れるとき、何かあるのでは、ただのDVではないと感じたのだと思います。私も主人に出会うまで、いろいろ無気力になりそうなところ、主人とともに生きていこうという生きがいを見つけれて良かったのだと思います。共依存は良くないのかも知れませんが、夫婦二人でやっと生きていけている感じです。

 ところで、今度作業所を除きにいっても良いでしょうか?仕事が週3日に減り、平日も時間が取れるようなってきましたので。月曜日あたり午前か午後に行きたいと思います。
 私の目標は、主人と一緒に、身近な地域に居場所を作っていくことです。そこは、障がいの有無に関わらず、子どもからお年寄りまで誰でもが訪れ、必要に応じて相談も出来るフレキシブルな支援センター、サロンのようなもの、介護の世界でいえば富山型のような場所を作ることです。地域に孤立者を出さないよう、みんな誰かとつながれるようになるといいなと思っています。
 居場所としては、当事者が中心になって活動している、ムゲンがとても気になっています。ムゲンのことはまだ、あまり良く知りませんが、それでも、お手本にもしていきたいと思う何かを感じています。専門家主導ではなく、当事者主導で出来るといいとおもいます。理想かもしれませんが、目標です。


投稿者: たんぽぽ | 2011年04月11日 17:42

いつでも来て下さい。11時半頃、お昼ご飯です。予約すれば、食べられますよ。ムゲンの電話番号です。
089-996-7701


投稿者: 佐野 | 2011年04月13日 22:12

ありがとうございます。訪問するときは、事前にその番号に電話させていただきますね。


投稿者: たんぽぽ | 2011年04月16日 22:08

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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