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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

福祉的就労の「労働者」(part1)

 就労継続支援A型の福祉的就労では、労働法規の最低賃金が保障されている。しかし、労災などの労働法規は必ずしも守られる必要はない。なぜなら、契約で「労働者」になるのではなく、自立支援法における「利用者」だからである。だから、利用者が利用料を施設に払うなんていう、馬鹿げた話になる。では、労働法規に守られた一般就労ではない福祉的就労に、どのような意味があるのだろうか?

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 一つの重要な意味は、「障害をオープンにして働けること」である。当然、職場での病状への配慮も期待できる。クローズにして一般就労すると、クスリもトイレで隠れて飲んだり、いくらきつくても「しんどいので休ませてくれ」とは言い出しにくい。多くの一般就労している障害者は休日が待ち遠しく、休日になると寝てばかりいて体力の回復を図っている、とも聞く。あまりにも余裕がないようにみえる。
 
 さて、就労継続支援A型では必ずしも8時間働く必要はなく、3時間全力で働いて時給を稼ぎ、後は休んでもいいともされている。そこまでして就労が大事なのだろうか? そんな働き方が自然だとはとても思えないけれども、施設側の時給を捻出するための経営の問題もあるのだろう。すでに障害者による施設ではなく、施設のための施設的考えだが。
 あと、障害年金をもらっている場合、就労継続支援A型などを卒業してオープンでの一般就労時に、主治医の「就労可能」という書面が必要となることも多い。ところが、障害年金の支給条件は、基本「働けないこと」だから、一般就労した途端に(正確には次の障害年金の診断書提出時に)障害年金が切られる可能性がある。せっかく一般就労しても、いつ調子を崩して会社を辞めなければならなくなるかわからない障害者にとって、これはあまりにもリスクが大きすぎる。
 では就労継続支援A型などには行かずに、いきなりハローワークなどの一般ルートから就労した場合にはどうなるか? この場合でも、障害年金がいつ切られるかびくびくしながら働くことになるだろう。障害年金をもらいながら厚生年金をおさめるという二重の生活をすることになるのだ。
 規定ではどうなっているかというと、年収350万円を超えたら、自動的に障害年金が切られることになっている。もっともその前に、厚生年金をおさめる段階で年金状況が調べられ、障害年金をもらっていることが会社にばれてしまい、ひどい会社ではクビになることもあるようだ。もちろんこのクビは、労働法規に違反しているから裁判すれば勝てると思うが、そこまでする人は滅多にいないだろう。
 現実に、「就労したい」と思っている人の圧倒的多くは、当然の権利である障害年金すら遠慮し、あるいは自分で自分が障害者だと認められなくて、障害年金の申請すらしていない。やはり社会に入っていくハードルが高く、差別も厳しい日本では、自分の障害を受容して障害とともに生きていくことは、とても困難である。
 ぼくも、自分を障害者だと認めたくなくって、30歳で仕事のストレスで再発入院するまで、障害年金を申請していなかった。再発してから「ああ、この病気は一生ものだ」と諦めて、障害者として生きていこうと障害年金を申請してもらうようになった。
 精神障害は、調子のよいときにはまったく障害者らしくなく元気だったりするから、自分の障害の受容がなかなかできない。しかし時期が巡って調子を崩すと、途端に何もできなくなったりする。このように、時期によって障害の重さが変化することも、障害の受容ができない大きな原因にもなっている。精神障害はストレスが重なると必ずといってよいくらい悪化するので、冷静に自分の変化を自分で観察してほしい。もちろん、生活の必要性であっさりと障害年金を申請することも多いだろうが、障害の受容という「覚悟」が必要なことでもある。
                                (part2に続く)


コメント


大阪の某市では、社会的雇用といって障がい者の賃金を市が恒久的に補填する制度があるそうです。市独自の施策を、国の制度にしようとし動きがあるみたいです。コスト的には、福祉的就労よりも低くなると試算されているそうです。


投稿者: moto | 2010年10月28日 19:12

障害年金が350万円で自動的に切られるのは、精神障がい者の場合、20歳以前に初診日がある方で、20歳以後に初診日がある方は、500万円くらいにならないと切られなかったと思います。本当にあげあし取り的ですみません。


投稿者: moto | 2010年10月28日 20:27

 蓑面市や滋賀県の社会的雇用については、part3で取り上げる予定ですので、お待ちください。
 所得制限については検索してみました。20歳前発病(ぼくがそうです)の所得制限は360万円のようです。それも半額は支給されるようです。全額停止になるのは、462万円のようです。調べる機会を与えてくれて、ありがとうございます。リンクします。
http://www.shougaiv.com/q20sai2.html
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1421896184


投稿者: 佐野 | 2010年10月30日 13:03

 「もちろん、生活の必要性であっさりと障害年金を申請することも多いだろうが、障害の受容という「覚悟」が必要なことでもある。」
 ・・・このコメント、深いものがあります。
 私の主人は統合失調症ですが、体調崩して給料が激減しても年金はかたくなに拒否していました。病院側も最初は本人が要らないといっているのだから、申請は・・・といって後ろ向きでしたが、家族一緒に暮らす為には年金がどうしても必要だった(生活保護の相談にいっても年金対象の人はそちらを優先してくださいといわれ本当に支援が何もなくたらいまわしでしたから。
 ひどいところでは、さっさと離婚したら、母子家庭でいくらでも支援がつきますよと言われたこともありました。)
 結局、私が強引に進めて、年金にたどり着きましたが、主人はこのせいで、体調崩し、入院も経験しました。でも、今は少しづつですが、やはりお金は必要と思ってくれているみたいです。でも、障害の受容は、たぶんできてないと思いますが・・・。でもちゃんと家族のために薬も飲んで、一日4時間ですが週4日パートにもいっています。
 不安はやはり、いつ年金が切られるかということです。佐野さんの記事を読んで、うちはまだまだ年収低いなと少し安心しました。


投稿者: たんぽぽ | 2010年11月03日 06:58

 本人の収入がですから、妻の年収は関係ありませんから。
 障害の受容は発病以前は普通にできていたのですから、本当に難しいことだと思います。ぼくも10年かかりましたから。でも年金がもらえてよかったです。
 母子家庭になれ、なんてホントに「ほっといてくれ!」ですね。


投稿者: 佐野 | 2010年11月08日 19:33

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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