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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

少数派であること(part1)

 今日はふーさんと居酒屋で飲んでいる。クリスちゃんも一緒だ。ふーさんはビールをハイスピードで明けている。ぼくはいも焼酎の水割りをちびりちびりやっている。クリスちゃんはホッピーを飲んでいる。ふーさんは既に赤い顔をして饒舌だ。

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 ふーさん「多くの人は、他人の変わった嗜好や偏ったところは『広いこころ』で十分な理解を示しながらも、一方で、こと自分に関しては『多数派で人とは違わない中の一人でありたい、一人であるはずだ』と、こころから思っているものだよ」
 「多数派を外れそうになったときに、何とか多数派から外れないようにと真剣に悩むね。多数派の中にいるほうが楽ちんだから」
 ふーさん「ホントに、どろどろと泥沼のように悩み続ける人もいるね。大きく外れるのは怖いからね」
 クリスちゃん「不登校も少数派ですよ。周りについていけず、どんどん遅れていくことに焦ってばかりでしたよ」
 「でも多数派とは、マスコミ情報や世間の空気を読んで思い描いているイメージだけで、その人の頭の中にしかないものだね。たぶん3人集まって『多数派とは?』という話をすれば、3人とも違ったイメージだね。違う世間を生きているから。なかには、『普通なんてどこにもない。多数派なんて存在しない』と本質を言い当てる人だっているかもしれない」
 クリスちゃん「世間には、ひきこもる人とそうでない人たちの2種類がいるって思っていました。でも、就職できて自分も世間の一員になっても、やっぱりどこか少数派意識をもっていますね。自分は世間知らずだって。昔は自分の将来のことばかり心配して、ひきこもりから動けなかったけれど、今は『今一生懸命になるしかない』って変わりました」
 ふーさん「そうじゃ、今がすべてじゃ。過去も未来もない」

 ふーさん「ところで、日本は『隣の田んぼを見て、うちもそろそろ田植えをするか』という農耕民族だから、『田植えをしない少数派』は暮らすのが大変じゃろうな」
 「ぼくのような少数派である障害者が、あれほど『就労したい』という願いをもつ、こころの奥底にある最大の理由は、『自分も多数派にまぎれたい』という願望だよね」
 ふーさん「メンタルな障害者とか特にそうだろうね。見た目で障害がわからないから」
 クリスちゃん「ひきこもっている人も、一番の願いは『就職したい!』です。やっぱり稼いで自立したいです」
 「ぼく自身、発病した若い頃、多数派から外れかかったときに、ずっと多数派の一員でありたいと心底思っていましたよ。『一生病気を背負って生きる。一生仕事ができない』なんて考えたくもなかった。統合失調症であることを認めたくなくて、何度も仕事に挑戦しては、何度も挫折を繰り返していました」
 ふーさん「な〜るほど」
 クリスちゃん「わたしは兄が熱帯魚を飼っていて、マットグロッソ(ふーさんのお店)に以前時々通っていて知っていたから、ふーさんに『雇ってください!』ってお願いしたの。足の先から頭のてっぺんまで勇気を振り絞って言ったんです。言い出すまでずいぶん悩みました。そしたらちょうど人手が必要だったの。もう1年働いているけれど、『仕事が遅い!』ってふーさんからよく言われる。わたし一生懸命やっているのに…。お店は『仕事の遅いわたしなんか辞めさせて、新しい人を雇ったほうがいいんだろうな』って考えて何度も辞めようと思ったのに、そのたびにふーさんに引き止められて…」
 ふーさん「クリスちゃんに辞められると困るというのは、本音ですよ。クリスちゃん、シシャモ食うか? シシャモ! 子持ちの」
 クリスちゃん「わたし超好きです」
 ふーさん「お兄さん、シシャモ一皿!」
                                (part2に続く)


コメント


 日本人って、ほんと、人と同じじゃないと安心できない人が多いよね。呉秀三先生の言葉からもう何十年もたっているのにね。
 多数派って、実際はあってないような幻みたいな、勝手に作り上げられちゃったもののような気がする。たとえば、「昔のホームドラマに出てくる家庭」が、実際には多数派じゃないのに多数派ってみんなが思っている、みたいな。
 金子みすずさんの「みんなちがって、みんないい」をみんなが思い出せば、日本も変われるんじゃないかな。誰もが「差別される」「仲間外れにされる」って神経質になりすぎ。実際、差別も、偏見もあるから、しょうがないんだけど。まずは、誰もが、「人を差別しない」ってところから始めないと、いけないと思う。
 まぁ、それができれば、苦労しないよね。


投稿者: めんどり | 2010年10月07日 11:52

 多くの若者、引きこもりの人も含めて、将来の目標が「サラリーマン」になること。ってあまりにも紋切り型の夢しか持てていない。そういう社会なんだ、現実を見ろ、って言われるかもしれないけれど、もっと破天荒な人生があってもいいと思うのに。
 孤独は引き受けないといけないかもしれないけれど。孤独と孤立は全く違う。人は孤独には耐えられるけれど、孤立には耐えられないと思う。「人を差別しない」は基本だけれど、どこまで許せるかは、その人のこころのキャパの問題、こころの余裕の問題だと思います。


投稿者: 佐野 | 2010年10月07日 19:20

佐野先生、ありがとうございます。先生のコメント、深いですね。私は自分を振り返って、心のキャパシティを大きく持とうと思います。「人を許す」ってことは難しいけれど、精進しようと思いました。


投稿者: めんどり | 2010年10月12日 09:02

先生はやめてくださいよ。「先生と言われるほどのバカはなし」という川柳もあります。(笑 
人を許すことは難しいことです。普通は殴りたくなったりするものです。
こころのキャパを広くするには、頑張らないことも大切です。頑張ってしまうとこころに余裕がなくなり、相手を傷つける言葉を吐いたりしがちですね。だから普段からさぼって、自分を甘やかすことが、とくに頑張ってしまう人には、大切かもしれません。


投稿者: 佐野 | 2010年10月12日 19:28

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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