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永島徹の「風」の贈り物

ともに考える時間があるからこそ…

 「今日も寒いね」
 Gさんからの元気な挨拶がありました。私も「本当ですね。やっぱり今年の冬は冷えますねぇ~」そんな会話を定期的にするようになってから、1年が過ぎました。
 Gさんと出会ったのは昨年の冬。私が地元の介護予防教室をしているときに、Gさんの奥さんから「相談したいことがある」とのこと。Gさんの認知症についての話でした。
 腎機能が悪かったGさんは入退院を繰り返していましたが、数年までサービス業(とても評判のよい飲食業を営んでいました)に日夜励んできたのです。そのGさんが、昨年の冬、再度腎機能が低下した際に、改めていろいろと全身の検査をしてもらったそうです。
 すると脳萎縮が診られるとのことで、後日専門医を受診。下された診断は、アルツハイマーの初期から中期というものでした。
 腎機能の状況もみながらアルツハイマーについても考えなければならなくなった奥さんは、診断を聞かされたとき、これまでと違う夫の様子に不安を感じていたものの、「まさか、夫が認知症…」とショックを受けました。それでも「夫のために」と情報を集め、いろいろ試してきたそうです。

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 その後、毎月面接をしながら、Gさんの生活の様子を回想してきました(アルツハイマーの告知はされていました)。
奥さん あなた、先週法事に行った帰りのことを永島さんに話したらどうですか?
Gさん 先週の話?
永島 先週何かあったのですか、Gさん?
Gさん 先週ねぇ…。え~っとぉ~?…あっ、そうだ! そうそう、○○ちゃん(知人)と法事にいった帰り、食事をしに店に寄って、ちょっとトイレにいったら、今度は自分の食事している席にもどれなくなっちゃってね。『あれーっ、どうしたんだ』ってなってね。まいったよ。

 笑いながら恥ずかしそうに話しているものの、Gさんの目は不安に満ちていました。

永島 『あれーっ、どうしたんだ』って思ったときは、何が何だか分からなくなって、頭が真っ白になったような感覚になっちゃいますよね。
Gさん そうなんだよ。とにかくいゃだね、あの気持ち。

 面接では、出来事を回想しその時に抱いた気持ちを再確認後、これからの対策について話し合います。
 毎回このようなことをしながら、Gさんの日常生活の新たな手段・方法を考えてきました。もちろん、傍らにいる奥さんも、いろいろとアイデアを一緒に考えていきます。そうすることで、介護者である奥さんもこれからの生活方法などを見つけ出していくのです。
 時には遠方の子ども達も加わり、父親の心身の変化に驚くこともありますが、起きている現実を見つめどうしたらよいかをともに考えていきます。
 Gさんのアルツハイマーは徐々に進行しています。無性にイライラしていると思うときがあると家族も話します。しかし、常に今のGさんの心身の状況に合う方法や手段を、Gさん、妻、子ども達が一緒に考えていく姿は、家族が力を合わせて新しい生活の足場を創っているようでした。そして、面接の終わりにはいつも、Gさんの決めぜりふが出てくるのです。
 俺は、長い間休みを忍んで、妻とともに働いてきた。それなのに身体を壊してしまうとは情けないし、つらい。だけれども、今になってありがたいと思うことは、「健康」と「家族」だね。こんな親父にも、良くできた子ども。そして妻がいるというのは、本当にありがたいと思う。
 そんな話を伺いながら、私もいつも心の中で思います。
 「この家族を築いてきたのは、他でもなくGさんと家族一人ひとり。そして、Gさんを慕っている仲間達でしょう。誰一人として欠けてはならないGさんの大切な結晶ですね」
 雪の結晶は、手にすると溶けてなくなってしまいますが、Gさんの手に入れた大切な結晶は、決して溶けてなくなることはないでしょう。深い絆で結ばれているGさんとご家族の思いを感じる私でした。


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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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著者:永島徹
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