
第101回 福沢諭吉の習慣論
私が理事長を務める聖路加国際病院と慶應義塾はとても深い関係があります。それは、1858年、今から150年ほど前に、福沢諭吉は現在の聖路加国際病院の一画に、慶応義塾の前身となる蘭学塾を開きました。病院のある東京都中央区明石町には、諭吉の故郷である九州・中津藩の中屋敷があったのです。
聖路加国際病院の横に小さな広場がありますが、そこに「慶応義塾発祥の地。安政5年、福沢諭吉この地に学塾を開く」と書かれた記念石碑があり、これは慶応義塾の創立100年を記念してつくられたものです。
福沢諭吉は、オランダ語を学ぶために長崎に行き、それから大阪の緒方洪庵の適塾で蘭学を学びました。そして、25歳のときに築地に蘭学塾を開いて、若い塾生の教育に当たりますが、どうしても欧米を見てみたいという意欲に燃えて、咸臨丸でジョン万次郎と一緒にアメリカに渡り、アメリカの各地を訪れて近代文明に触れます。帰国後、1871年に慶應義塾を現在の港区三田に移転させたのです。
『学問ノススメ』『文明論の概略』などたくさんの著書を著していますが、その中に『教育ノ事』と題した論文があります。ここでは、「家庭で学ぶことが、学校で教わることよりも大事である」と述べています。つまり、子どもたちがよい生活習慣を身につけるのは家庭であって、そのモデルは両親であるということです。「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」「教うるより習いという諺があり。けだし習慣の力は教授の力よりも強大である」とあります。
さて、福沢諭吉は、武士といっても貧しい家に生まれましたから、薪割りや水汲みなどどうしても体を使わなくてはなりません。それが習慣になって、諭吉は生涯体を動かすことを好みました。宵は早く寝て、朝早く起き、食事前に1時間に4kmばかり歩いて、午後になれば居合い抜きをしたり、米をついたりします。一日に三度の食事のほかに、めったに間食をしませんでした。
その一方で、諭吉はお酒がとても好きでした。『福翁自伝』には、「32、3歳の頃、…こう飲んではとても寿命を全うすることはかなわぬ。…アレはよくない。苦しかろうが、やめるが上策だ。…次第次第に減量して、やや 穏やかになるまでには3年もかかりました。…私のような無法の大酒家でも、…とうとう酒欲を征伐して勝利を得たから、…そろそろやれば、節酒も禁酒も、きっとできましょう」と述べられています。
習慣論といえば、私が尊敬するアメリカの医師ウィリアム・オスラーは「習慣がつくる、心も体も」と述べています。福沢諭吉とウィリアム・オスラーは40年の時代差はありますが、ほぼ同じ時代を生きた人です。世界の西と東でおなじように「習慣の大切さ」に着目しているのは面白いと思います。
私が、長い間厚労省が「成人病」と呼んできた病気を「生活習慣病」と改めさせたのも、長い間のよくない生活習慣が糖尿病や高血圧などの病気の原因になるのだから「生活習慣病」と名付けるのがよいと提案したのも、福沢諭吉やオスラーの習慣論に大きな示唆を受けたからなのです。
聖路加国際病院の横に小さな広場がありますが、そこに「慶応義塾発祥の地。安政5年、福沢諭吉この地に学塾を開く」と書かれた記念石碑があり、これは慶応義塾の創立100年を記念してつくられたものです。
福沢諭吉は、オランダ語を学ぶために長崎に行き、それから大阪の緒方洪庵の適塾で蘭学を学びました。そして、25歳のときに築地に蘭学塾を開いて、若い塾生の教育に当たりますが、どうしても欧米を見てみたいという意欲に燃えて、咸臨丸でジョン万次郎と一緒にアメリカに渡り、アメリカの各地を訪れて近代文明に触れます。帰国後、1871年に慶應義塾を現在の港区三田に移転させたのです。
『学問ノススメ』『文明論の概略』などたくさんの著書を著していますが、その中に『教育ノ事』と題した論文があります。ここでは、「家庭で学ぶことが、学校で教わることよりも大事である」と述べています。つまり、子どもたちがよい生活習慣を身につけるのは家庭であって、そのモデルは両親であるということです。「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」「教うるより習いという諺があり。けだし習慣の力は教授の力よりも強大である」とあります。
さて、福沢諭吉は、武士といっても貧しい家に生まれましたから、薪割りや水汲みなどどうしても体を使わなくてはなりません。それが習慣になって、諭吉は生涯体を動かすことを好みました。宵は早く寝て、朝早く起き、食事前に1時間に4kmばかり歩いて、午後になれば居合い抜きをしたり、米をついたりします。一日に三度の食事のほかに、めったに間食をしませんでした。
その一方で、諭吉はお酒がとても好きでした。『福翁自伝』には、「32、3歳の頃、…こう飲んではとても寿命を全うすることはかなわぬ。…アレはよくない。苦しかろうが、やめるが上策だ。…次第次第に減量して、やや 穏やかになるまでには3年もかかりました。…私のような無法の大酒家でも、…とうとう酒欲を征伐して勝利を得たから、…そろそろやれば、節酒も禁酒も、きっとできましょう」と述べられています。
習慣論といえば、私が尊敬するアメリカの医師ウィリアム・オスラーは「習慣がつくる、心も体も」と述べています。福沢諭吉とウィリアム・オスラーは40年の時代差はありますが、ほぼ同じ時代を生きた人です。世界の西と東でおなじように「習慣の大切さ」に着目しているのは面白いと思います。
私が、長い間厚労省が「成人病」と呼んできた病気を「生活習慣病」と改めさせたのも、長い間のよくない生活習慣が糖尿病や高血圧などの病気の原因になるのだから「生活習慣病」と名付けるのがよいと提案したのも、福沢諭吉やオスラーの習慣論に大きな示唆を受けたからなのです。
(2013年1月21日)
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 一般財団法人ライフ・プランニング・センター 第40回財団設立記念講演会 |
【プログラム】 |
講演1「21世紀型の”よく生きる”とは―グローバル個人主義―」講師:鈴木典比古先生 演奏「音楽療法士による演奏とセッション」林谷嘉子氏 講演2 「創めることは 生きかたを変えること」 講師:日野原 重明先生 |
【講師】 |
鈴木典比古(すずき のりひこ)先生(公益財団法人大学基準協会専務理事,前国際基督教大学学長。経営学博士。研究分野は国際経営論) 日野原重明(ひのはら しげあき)先生(聖路加国際病院理事長・同名誉院長。(財)ライフ・プランニング・センター理事長) 林谷嘉子(ピースハウス病院音楽療法士) |
【日程】 | 2013年5月25日(土)13:00〜16:15 |
【定員】 | 800名 |
【会場】 |
笹川記念会館 国際会議場 *都営浅草線・泉岳寺駅より徒歩5分 *JR田町駅より徒歩10分 |
【参加費】 |
1,000円 *事前に往復ハガキでの申し込み(5/15消印有効、ただし満席になり次第締め切り)。 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:30)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265−1907 FAX(03)3265−1909 〒102−0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 高齢者と薬について―訪問薬剤師として患者さんから学んだこと― |
【講師】 | 寺山泰郎(タカノ薬局鎌倉店,訪問薬剤師) |
【日程】 | 2013年4月16日(火)14:00〜16:00 |
【定員】 | 500名 |
【会場】 |
健康教育サービスセンター 地下鉄・永田町駅下車徒歩4分 |
【参加費】 |
500円 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:30)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265−1907 FAX(03)3265−1909 〒102−0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
- この連載に関するお問い合わせ先
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◆「新老人の会」に関するお問い合わせ先◆
財団法人ライフ・プランニング・センター「新老人の会」事業部
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5F
TEL:03-3265-1907
FAX:03-3265-1909
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◆日野原重明先生が顧問をつとめている「NPO法人医療教育情報センター」に関するお問い合わせ先◆
医療教育情報センター事務所
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-27-16 ハイシティ代々木303
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