
第103回 医療のシステムをどう変えなくてはならないか(2)
知識のある看護師ができることと分業
10年ほど前から、医療のなかで「クリティカルパス」という取り組みが始まりました。クリティカルパスというのは、胃がんや肺がん、脳梗塞、肺炎などの疾患や手術の方法ごとに、治療・検査・看護・処置・患者さんへの生活指導などを、入院から退院まで、時間軸に沿って一覧できるようにした治療計画書です。「クリニカルパス」や簡略されて「パス」「ケアマップ」ともいい、今では大きな病院で使用されています。皆さんのなかにも、ご家族が入院されたときなどに、入院から退院まで、どのような検査や治療が行われるか、イラスト入りで分かりやすく示した表を渡された方がいると思います。
このクリティカルパスは、もともと1950年代に軍事技術として開発されたものです。ある特定の特別な任務を遂行する軍隊のことをタスクフォースといいますが、それが一般化して、ビジネスや政治の世界でも、一時的に目的を遂行するチームや団体として使用されています。それが医療の世界に導入されたのです。これにより入院から退院まで、どの時期に分業になった医療職が、どう関わるかが図表で明確になりました。
ところで戦争が起こると傷病兵が多くなり医師の手が足りなくなります。治療が必要な人が多く、時間的に間に合わなくなるので、衛生兵が手術することになります。
私は、昭和12年に医学部を卒業して、その後2年間、京都にある伝染病の病院で研修を受けていました。そこでは2人の医師が当直していましたが、多いときには70人もの赤痢や疫痢の患者さんが診療を受けに来ます。70人のカルテを書いて、便を検査したりしていました。
当直ですから内科以外の患者も来院します。外傷の患者が来たら、私は内科が専門で外傷の治療などをしたことがありませんから大変でした。ベテランの看護師(当時は看護婦です)が「日野原先生、ここで縫いますか」「手術室には間に合わないから」「呼吸停止しているから」「このナースステーションで気管切開をやります」と言って、すぐに始めるのですが「先生、ここを切ってください」「もっともっと深く切ってください」「このメスでこれを切ってください」「もっと強く、強く、強く」と、看護師が気管切開の方法を教えてくれていたのです。
初めは1時間半かかったのですが、ふた月の間に30例やったら10分でできるようになりました。病棟に行くと、ショックで血圧が下がるから、血管が皮膚に出ない患者さんがいます。そうすると、病棟の看護師が、「切開をして、糸のような静脈を出して、それに針を入れる」と説明します。そのようにして点滴を行いましたが、点滴をするときは切開をすることを病棟の看護師に教わったのです。
これはベテランの看護師は現場にいて技術があったからできたわけです。それにもかかわらず、看護は保健師助産師看護師法で昭和26年から静脈注射が禁止されるなど、全く逆行しているような状態でした。 私は、研修時代に看護師に教えられて、それから研究生活に入ったわけです。看護師にそのような歴史があるのは、現場で生じた知恵と技術があるからでした。
ところが医療がだんだん分業になってくると、夜勤時にまず医師の診察が必須になります。知識のある看護師がいれば、担当の医師がすでに帰ってしまっても、医師のオーダーがよくない、この不整脈はジギタリスの中毒かもしれない、これはひょっとしたらカリウムが低くなっているのではないかと考えて「ジギタリスを少しやめてみましょう」と判断できます。患者さんに医師と相談なしに処方して、あとで医師に報告をすればいいのです。しかし、医師のオーダーを聞かないと処方できないことになっています。その結果、必要な医師の数が少なくカウントされてしまうのです。
このクリティカルパスは、もともと1950年代に軍事技術として開発されたものです。ある特定の特別な任務を遂行する軍隊のことをタスクフォースといいますが、それが一般化して、ビジネスや政治の世界でも、一時的に目的を遂行するチームや団体として使用されています。それが医療の世界に導入されたのです。これにより入院から退院まで、どの時期に分業になった医療職が、どう関わるかが図表で明確になりました。
ところで戦争が起こると傷病兵が多くなり医師の手が足りなくなります。治療が必要な人が多く、時間的に間に合わなくなるので、衛生兵が手術することになります。
私は、昭和12年に医学部を卒業して、その後2年間、京都にある伝染病の病院で研修を受けていました。そこでは2人の医師が当直していましたが、多いときには70人もの赤痢や疫痢の患者さんが診療を受けに来ます。70人のカルテを書いて、便を検査したりしていました。
当直ですから内科以外の患者も来院します。外傷の患者が来たら、私は内科が専門で外傷の治療などをしたことがありませんから大変でした。ベテランの看護師(当時は看護婦です)が「日野原先生、ここで縫いますか」「手術室には間に合わないから」「呼吸停止しているから」「このナースステーションで気管切開をやります」と言って、すぐに始めるのですが「先生、ここを切ってください」「もっともっと深く切ってください」「このメスでこれを切ってください」「もっと強く、強く、強く」と、看護師が気管切開の方法を教えてくれていたのです。
初めは1時間半かかったのですが、ふた月の間に30例やったら10分でできるようになりました。病棟に行くと、ショックで血圧が下がるから、血管が皮膚に出ない患者さんがいます。そうすると、病棟の看護師が、「切開をして、糸のような静脈を出して、それに針を入れる」と説明します。そのようにして点滴を行いましたが、点滴をするときは切開をすることを病棟の看護師に教わったのです。
これはベテランの看護師は現場にいて技術があったからできたわけです。それにもかかわらず、看護は保健師助産師看護師法で昭和26年から静脈注射が禁止されるなど、全く逆行しているような状態でした。 私は、研修時代に看護師に教えられて、それから研究生活に入ったわけです。看護師にそのような歴史があるのは、現場で生じた知恵と技術があるからでした。
ところが医療がだんだん分業になってくると、夜勤時にまず医師の診察が必須になります。知識のある看護師がいれば、担当の医師がすでに帰ってしまっても、医師のオーダーがよくない、この不整脈はジギタリスの中毒かもしれない、これはひょっとしたらカリウムが低くなっているのではないかと考えて「ジギタリスを少しやめてみましょう」と判断できます。患者さんに医師と相談なしに処方して、あとで医師に報告をすればいいのです。しかし、医師のオーダーを聞かないと処方できないことになっています。その結果、必要な医師の数が少なくカウントされてしまうのです。
(2013年4月15日)
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 一般財団法人ライフ・プランニング・センター 第40回財団設立記念講演会 |
【プログラム】 |
講演1「21世紀型の”よく生きる”とは―グローバル個人主義―」講師:鈴木典比古先生 演奏「音楽療法士による演奏とセッション」林谷嘉子氏 講演2 「創めることは 生きかたを変えること」 講師:日野原 重明先生 |
【講師】 |
鈴木典比古(すずき のりひこ)先生(公益財団法人大学基準協会専務理事,前国際基督教大学学長。経営学博士。研究分野は国際経営論) 日野原重明(ひのはら しげあき)先生(聖路加国際病院理事長・同名誉院長。(財)ライフ・プランニング・センター理事長) 林谷嘉子(ピースハウス病院音楽療法士) |
【日程】 | 2013年5月25日(土)13:00〜16:15 |
【定員】 | 800名 |
【会場】 |
笹川記念会館 国際会議場 *都営浅草線・泉岳寺駅より徒歩5分 *JR田町駅より徒歩10分 |
【参加費】 |
1,000円 *事前に往復ハガキでの申し込み(5/15消印有効、ただし満席になり次第締め切り)。 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 高齢者と薬について―訪問薬剤師として患者さんから学んだこと― |
【講師】 | 寺山泰郎(タカノ薬局鎌倉店,訪問薬剤師) |
【日程】 | 2013年4月16日(火)14:00〜16:00 |
【定員】 | 50名 |
【会場】 |
健康教育サービスセンター 地下鉄・永田町駅下車徒歩4分 |
【参加費】 |
500円 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 模擬患者ボランティア養成講座―入門講座 |
【プログラム】 | LPCと模擬患者についての基本的な理解「模擬患者ボランティアのQ&A」(講師:福井みどり) LPC模擬患者ボランティア活動の紹介他(講師:LPC模擬患者ボランティア) 看護教育における模擬患者の役割(講師:荒添 美紀) 医学教育における模擬患者の役割(講師:原田 芳巳) 模擬患者ボランティアの体験学習(講師:LPC模擬患者ボランティア) LPC模擬患者ボランティアになるために(講師:福井みどり) |
【対象】 | 一般(通学可能な方) |
【日程】 | 全2回 2013年5月24日(火)・31日(火) |
【定員】 | 30名 |
【会場】 |
砂防会館5階 (地下鉄「永田町駅」下車 徒歩4分) |
【参加費】 | 3,000円(LPC会員2,000円) |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 介護サポーター養成講座〜こころまで届くケアを実践する日野原重明先生の理念とともに〜介護基本コース |
【プログラム】 | 開会挨拶(日野原 重明) 介護保険制度について(小原 和代) 加齢と疾病(高橋 理) 高齢者を取り巻く状況I 「高齢者がそのひとらしく過ごせる場所はどこか」(土本 亜理子) 高齢者を取り巻く状況II 事例を中心に(中島 真樹) 高齢者の栄養と食事(安藤 美智恵) 口腔内の健康管理(太田 勝美) 運動機能低下により起こる障害とその予防(関口 剛) 尿失禁の話(NPO法人日本コンチネンス協会コンチネンスアドバイザー) よりよい人間関係(水野 修次郎) 人間の尊厳と死に方―平穏死について(石飛 幸三) |
【対象】 | 一般(通学可能な方) |
【日程】 | 2013年6月11日(火)〜7月9日(火) |
【定員】 | 40名 |
【会場】 |
砂防会館5階 (地下鉄「永田町駅」下車 徒歩4分) |
【参加費】 | LPC会員・「新老人の会」会員:10,000円 非会員:13,000円 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 2013年カウンセリングセミナー(全2回)――アタッチメント(愛着)が人との関係に及ぼす問題点と改善法 |
【プログラム】 | ・アタッチメント(愛着)とは何か,心理的意味と人間関係への影響,アタッチメントの4つのタイプの特徴と現在の人間関係との関わり ・アタッチメントを健全にすることで人間関係の弱点を克服する方策,アタッチメントの段階と人との関係の改善の道 |
【対象】 | 一般(通学可能な方) |
【講師】 | 丸屋真也(IFM家族・結婚研究所 代表・相談室長。元(財)ライフ・プランニング・センター臨床心理ファミリー相談室室長。臨床心理学博士。牧会学博士。神学修士(Th. M)) |
【日程】 | 全2回 2013年6月21日(金)・7月19日(金) |
【定員】 | 50名 |
【会場】 |
砂防会館5階 (地下鉄「永田町駅」下車 徒歩4分) |
【参加費】 | 5,000円(LPC会員4,000円) |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 自己管理とその実践への戦略5回シリーズ――中高年の健康管理に必要なスキルアップトレーニング |
【プログラム】 | バイタルサインのとらえ方(道場 信孝・石清水由紀子) 健康管理に役立てる栄養状態のとらえ方(平野 真澄) メンタルヘルスに関わる症状と家族の対応(福井みどり) 緊急時・急変時の対応―私たちにできること(聖路加国際病院救急部医師) 生涯にわたる健康の自己管理および高齢者の脆弱化(道場 信孝・日野原重明) |
【対象】 | 一般(通学可能な方) |
【日程】 | 全5回 2013年7月16日(火)〜7月30日(火) |
【定員】 | 50名 |
【会場】 |
砂防会館5階 (地下鉄「永田町駅」下車 徒歩4分) |
【参加費】 | LPC会員5,000円(介護サポーター養成講座の受講生は3,000円) 非会員 7,000円 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 介護サポーター養成講座〜こころまで届くケアを実践する日野原重明先生の理念とともに〜介護技術コース |
【プログラム】 | 快適な住宅環境整備と福祉用具の活用(志垣 健一朗) 介護者のボディメカニクス(小沼 美奈子) 車いすへの移動の介護/車いすでの移動の介護(志垣 健一朗) 歩行介助・外出の介護(志垣 健一朗) 体位交換と衣類の着脱(村尾 逸子) 身体の清潔と入浴援助(村尾 逸子) 食事の介助・口腔ケア(上野 まき子) 排泄の援助 トイレ・おむつ(NPO法人日本コンチネンス協会コンチネンスアドバイザー) 施設見学(10月)聖路加国際病院・練馬キングス・ガーデン・ケア・アカデミー葉っぱのフレディ |
【対象】 | 一般(通学可能な方) |
【日程】 | 2013年9月3日(火)〜9月24日(火)・10月(日時未定) |
【定員】 | 25名 |
【会場】 |
砂防会館5階 (地下鉄「永田町駅」下車 徒歩4分) |
【参加費】 | LPC会員・「新老人の会」会員:10,000円 非会員:13,000円 |
【関連URL】 | http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm |
【主催・問い合わせ先(平日9:00〜17:00)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
- この連載に関するお問い合わせ先
-
◆「新老人の会」に関するお問い合わせ先◆
財団法人ライフ・プランニング・センター「新老人の会」事業部
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5F
TEL:03-3265-1907
FAX:03-3265-1909
ホームページ:http://www.lpc.or.jp/senior_soc/ -
◆日野原重明先生が顧問をつとめている「NPO法人医療教育情報センター」に関するお問い合わせ先◆
医療教育情報センター事務所
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-27-16 ハイシティ代々木303
TEL:03-5333-0083
FAX:03-5333-0084
ホームページ:http://www.c-mei.jp/