
第87回 東日本大震災にて
2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。地震と津波、それに加えて原発事故の放射能によって東北地方は大きな被害を受けました。私もその日以後、被災地を3度見舞いました。
最初に行ったのは5月の連休の時、特に被害がひどいと聞いていた南三陸町でした。仙台に一泊して翌朝早く東北道を北上し、迂回して南三陸町に着きました。そこから見た光景はテレビや新聞の報道とはまったく違っていました。海岸に近づくと、3階建てのビルの上に大きな遊覧船が形を保ったまま乗っかっています。大きな船がビルの屋上に乗りあげているのです。町はあとかたもなく、そこかしこにがれきが積み上げられていました。
前方には4階建ての公立志津川病院があるのですが、全館廃屋のままとなっていました。当時、そこには107人の入院患者がおり、4階まで津波が押し寄せ、屋上に逃れた人だけがヘリコプターに助けられましたが、72人の方々は亡くなったり行方不明になりました。病院は、レントゲンの機械もベッドも全部壊れた窓から流されて、がれきがそこにあるだけなのです。
病院の内科の医師に案内していただき避難所も訪れました。避難された方々は段ボール箱で自分たちのスペースを囲って寝具や食料や衣類など入れていました。隣同士の会話も何もありません。まだ寒い時期なのにトイレが近くにないのですから、「トイレに行くのがとても大変だ」と言って、お年寄り水を飲まないようにしているので脱水症状を起こしてしまいます。
その避難所を見た後、私の訪問の1週間前に、天皇皇后両陛下が慰問に行かれた歌多津中学校に伺いました。私が訪問することは事前に連絡もしていない突然の訪問だったのですが、私に同行したNHKのスタッフが「日野原先生ですよ」と言ったところ、避難所のいた人たちが「ああ、日野原先生だ」と言って大変喜ばれ、みんな大きな声を上げて私のところに集まってこられました。
ところがその方々の中に男性は見かけません。もちろん働ける男性は外での復旧作業に従事しているからでしょうが、高齢の男性は自分の避難場所に閉じこもったままのようです。それにくらべると年はとっていても女性は「日野原先生、日野原先生」と握手を求めてこられます。その方たちの目の輝きを見ていますと、この女性たちがいれば復興は間違いないと確信しました。どうもこれからの日本を変えるのは、女性の力ではないかと思ったりもしました。
2度目の被災地の訪問は、原発事故の被害を受けた人たちがおられる福島の避難所です。100人ほどの人たちが、子どもたちを連れて集まっておられました。ここにいる方たちには、どこに住み、どこで働き、子どもたちはどこの学校に通うのかというような先の見通しがつかないのです。「もうここにはいたくないけど、行くところもない」と不安な気持ちでおられるようです。
私とともに訪問した歌手の池田美穂さんが、「夕焼け小焼け」や「上を向いて歩こう」などの歌を歌いました。そして最後には、集まったみなさんに向かって、「私が指揮をしますから、みんなで歌いましょう」と、誰もが知っている歌「故郷」を「うさぎ追いし……」と歌いました。避難している方々は一緒に歌ったのち、「今日は本当に心が安らかになって良かった」と喜んでくれました。音楽、とくに一緒に歌ったり演奏したりするということは、人と人との心を結びつけるものだということを改めて認識したひとときでした。
今回の震災では、外国からたくさんの援助をいただきました。米国や中国、ロシアなどの大国からばかりでなく、ネパールやブータンなど小さな国からも来てくれたのです。
それなのに、どうして世界は核兵器をもち、人殺しをする戦争をやめないのでしょうか。東日本大震災に対して示してくれた世界中の人たちの愛のこころを、ぜひ世界の平和を実現するためにも広げてほしいと思います。お互いに愛するということ、けんかをしても仲直りをするということ、それを国と国との間にも広げることができればいいと思います。
イエスが誕生したとき、「天には栄光、地には平和」という天使の声がベツレヘムの町にいた羊飼いに告げたといわれています。平和こそが私たちの究極のゴールなのです。
これが今年の最後の更新になります。よいお年をお迎えください。
最初に行ったのは5月の連休の時、特に被害がひどいと聞いていた南三陸町でした。仙台に一泊して翌朝早く東北道を北上し、迂回して南三陸町に着きました。そこから見た光景はテレビや新聞の報道とはまったく違っていました。海岸に近づくと、3階建てのビルの上に大きな遊覧船が形を保ったまま乗っかっています。大きな船がビルの屋上に乗りあげているのです。町はあとかたもなく、そこかしこにがれきが積み上げられていました。
前方には4階建ての公立志津川病院があるのですが、全館廃屋のままとなっていました。当時、そこには107人の入院患者がおり、4階まで津波が押し寄せ、屋上に逃れた人だけがヘリコプターに助けられましたが、72人の方々は亡くなったり行方不明になりました。病院は、レントゲンの機械もベッドも全部壊れた窓から流されて、がれきがそこにあるだけなのです。
病院の内科の医師に案内していただき避難所も訪れました。避難された方々は段ボール箱で自分たちのスペースを囲って寝具や食料や衣類など入れていました。隣同士の会話も何もありません。まだ寒い時期なのにトイレが近くにないのですから、「トイレに行くのがとても大変だ」と言って、お年寄り水を飲まないようにしているので脱水症状を起こしてしまいます。
その避難所を見た後、私の訪問の1週間前に、天皇皇后両陛下が慰問に行かれた歌多津中学校に伺いました。私が訪問することは事前に連絡もしていない突然の訪問だったのですが、私に同行したNHKのスタッフが「日野原先生ですよ」と言ったところ、避難所のいた人たちが「ああ、日野原先生だ」と言って大変喜ばれ、みんな大きな声を上げて私のところに集まってこられました。
ところがその方々の中に男性は見かけません。もちろん働ける男性は外での復旧作業に従事しているからでしょうが、高齢の男性は自分の避難場所に閉じこもったままのようです。それにくらべると年はとっていても女性は「日野原先生、日野原先生」と握手を求めてこられます。その方たちの目の輝きを見ていますと、この女性たちがいれば復興は間違いないと確信しました。どうもこれからの日本を変えるのは、女性の力ではないかと思ったりもしました。
2度目の被災地の訪問は、原発事故の被害を受けた人たちがおられる福島の避難所です。100人ほどの人たちが、子どもたちを連れて集まっておられました。ここにいる方たちには、どこに住み、どこで働き、子どもたちはどこの学校に通うのかというような先の見通しがつかないのです。「もうここにはいたくないけど、行くところもない」と不安な気持ちでおられるようです。
私とともに訪問した歌手の池田美穂さんが、「夕焼け小焼け」や「上を向いて歩こう」などの歌を歌いました。そして最後には、集まったみなさんに向かって、「私が指揮をしますから、みんなで歌いましょう」と、誰もが知っている歌「故郷」を「うさぎ追いし……」と歌いました。避難している方々は一緒に歌ったのち、「今日は本当に心が安らかになって良かった」と喜んでくれました。音楽、とくに一緒に歌ったり演奏したりするということは、人と人との心を結びつけるものだということを改めて認識したひとときでした。
今回の震災では、外国からたくさんの援助をいただきました。米国や中国、ロシアなどの大国からばかりでなく、ネパールやブータンなど小さな国からも来てくれたのです。
それなのに、どうして世界は核兵器をもち、人殺しをする戦争をやめないのでしょうか。東日本大震災に対して示してくれた世界中の人たちの愛のこころを、ぜひ世界の平和を実現するためにも広げてほしいと思います。お互いに愛するということ、けんかをしても仲直りをするということ、それを国と国との間にも広げることができればいいと思います。
イエスが誕生したとき、「天には栄光、地には平和」という天使の声がベツレヘムの町にいた羊飼いに告げたといわれています。平和こそが私たちの究極のゴールなのです。
これが今年の最後の更新になります。よいお年をお迎えください。
(2011年12月19日)
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | もっと知りたい最新歯科医療――あなたの健康を生み出すオーラル・ヘルスケア |
【講師】 | 松本宏之先生(東京医科歯科大学歯学部附属病院総合診療科クリーンルーム歯科外科) |
【日程(全2回)】 |
第1回:2011年12月13日(火)13:30〜15:30 第2回:2012年1月17日(火)13:30〜15:30 |
【会場】 |
健康教育サービスセンター 〒102-0093千代田区平河町2-7-5砂防会館5階(地下鉄・永田町駅下車徒歩4分) |
【定員】 | 60名 |
【参加費】 | LPC会員2,000円/非会員3,000円 |
【申込みおよび問合せ先(平日9:00〜17:30)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 患者学講座――尊厳を支える生の実現のために |
【日程】 | 2012年1月27日(金)10:00〜16:15 |
【プログラム】 |
(1)10:00〜10:45「社会と医療」講師:渡邉大輔(成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員) (2)10:45〜11:30「臨床の場で医療者は何をし、何を思うか」講師:高橋理(聖路加国際病院医師) (3)11:30〜12:00午前の部、質疑応答 (4)12:50〜13:35「がん患者支援活動HOPEの活動で何をし、何を思うか」講師:桜井なおみ(特定非営利活動法人HOPE★プロジェクト理事長) (5)13:35〜14:20「患者としての尊厳は」講師:野村祐之(青山学院大学講師) (6)14:35〜15:20「終末期医療の場でのスピリチュアルペイン」(講師:田中良浩 「ピースハウス」チャプレン) (7)15:20〜16:15午前の部、まとめ |
【会場】 |
健康教育サービスセンター 〒102-0093千代田区平河町2-7-5砂防会館5階(地下鉄・永田町駅下車徒歩4分) |
【定員】 | 40名 |
【対象】 | 一般 |
【参加費】 | 2,500円(LPC会員2,000円) |
【申込みおよび問合せ先(平日9:00〜17:30)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
■セミナーのお知らせ
【テーマ】 | 基礎から学ぶフィジカルアセスメント――リンパ浮腫とリンパドレナージ |
【日程】 | 2012年2月18日(土)10:00〜16:00 |
【プログラム】 |
10:00-12:00 「リンパ浮腫と治療の基礎について」廣田彰男(医学博士/広田内科クリニック理事長) 13:00-16:00 「在宅や訪問でいかせるリンパドレナージ」河内香久子(看護師/介護支援専門員/鍼灸・マッサージ師/シーズさわやかデイサロン) |
【会場】 |
剛堂会館 東京都千代田区紀尾井町3-27 (地下鉄・有楽町線「麹町」駅下車徒歩3分) |
【定員】 | 50名 |
【対象】 | 看護師、訪問看護師、看護教員など |
【参加費】 | 7,000円(LPC会員5,000円) |
【申込みおよび問合せ先(平日9:00〜17:30)】 (財)ライフ・プランニング・センター TEL(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階 HP:http://www.lpc.or.jp/health_edu/seminer.htm メールアドレス:lpc_seminar@lpc.or.jp |
- この連載に関するお問い合わせ先
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◆「新老人の会」に関するお問い合わせ先◆
財団法人ライフ・プランニング・センター「新老人の会」事業部
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5F
TEL:03-3265-1907
FAX:03-3265-1909
ホームページ:http://www.lpc.or.jp/senior_soc/ -
◆日野原重明先生が顧問をつとめている「NPO法人医療教育情報センター」に関するお問い合わせ先◆
医療教育情報センター事務所
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-27-16 ハイシティ代々木303
TEL:03-5333-0083
FAX:03-5333-0084
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