第63回 医学のアート(art)とサイエンス(science)
医学と音楽はとてもよく似ています。
音楽家による楽器演奏はパフォーマンスと呼ばれますが、では、医師によるパフォーマンス(演技)とはどのようなことでしょうか。
優れた演奏には、いわゆる楽理といわれる音楽の理論的解釈と、作曲された楽譜、そして質のよい楽器が必要ですが、それだけでは聴く人を感動させることはできません。いちばん大事なことは、それらをもとにしてどのように演奏者がその音楽を奏でるかという演奏のパフォーマンスです。つまり、演奏家のアート(技=わざ)は、音楽理論と楽器・楽譜を高いレベルの技術で統合して演奏することによって人を感動させることができます。
それと同じように、優れた診療には深い医学知識と質の高い検査データ、そして治療のための高度な医療機器が必要ですが、やはり何よりも大切なのはそれを適用する医療者のパフォーマンス、つまりアートなのです。医療者の行うアートとは、医学知識や検査データ、そして近代医療を統合した上で病人にタッチして癒すパフォーマンスだと思います。
もともと医学は「アート・オブ・メディシン」と呼ばれてきました。私の尊敬するカナダ人医師、ウィリアム・オスラー先生(1849〜1919年)は、「医学はサイエンス(科学)に基礎をおくアート(技)である」と述べています。
古代の医学には、サイエンスはほとんど存在しませんでしたから、医術は個人のパフォーマンスとして提供されていました。それこそが癒しのアートでした。しかし、その後の医学の発展によって次第にサイエンスが強調されるようになり、20世紀後半には科学重視の傾向が増してきてアートによって得られる「病む人間への癒し」が軽視されがちになりました(図)。現在はその反省もあって、「いのちの質」が問われる医療の視点にも目が向けられるようになってきました。
いかに科学が進歩しても、医学はサイエンスに裏づけられたアートに変わりがないことを、臨床医は忘れてはなりません。
音楽家による楽器演奏はパフォーマンスと呼ばれますが、では、医師によるパフォーマンス(演技)とはどのようなことでしょうか。
優れた演奏には、いわゆる楽理といわれる音楽の理論的解釈と、作曲された楽譜、そして質のよい楽器が必要ですが、それだけでは聴く人を感動させることはできません。いちばん大事なことは、それらをもとにしてどのように演奏者がその音楽を奏でるかという演奏のパフォーマンスです。つまり、演奏家のアート(技=わざ)は、音楽理論と楽器・楽譜を高いレベルの技術で統合して演奏することによって人を感動させることができます。
それと同じように、優れた診療には深い医学知識と質の高い検査データ、そして治療のための高度な医療機器が必要ですが、やはり何よりも大切なのはそれを適用する医療者のパフォーマンス、つまりアートなのです。医療者の行うアートとは、医学知識や検査データ、そして近代医療を統合した上で病人にタッチして癒すパフォーマンスだと思います。
もともと医学は「アート・オブ・メディシン」と呼ばれてきました。私の尊敬するカナダ人医師、ウィリアム・オスラー先生(1849〜1919年)は、「医学はサイエンス(科学)に基礎をおくアート(技)である」と述べています。
古代の医学には、サイエンスはほとんど存在しませんでしたから、医術は個人のパフォーマンスとして提供されていました。それこそが癒しのアートでした。しかし、その後の医学の発展によって次第にサイエンスが強調されるようになり、20世紀後半には科学重視の傾向が増してきてアートによって得られる「病む人間への癒し」が軽視されがちになりました(図)。現在はその反省もあって、「いのちの質」が問われる医療の視点にも目が向けられるようになってきました。
いかに科学が進歩しても、医学はサイエンスに裏づけられたアートに変わりがないことを、臨床医は忘れてはなりません。
図 医学(アートとサイエンス)の行方
大学院医科大学の設立を
ところで、「サイエンス」を「科学」と翻訳したのは、明治初期の思想家、西周(1829〜1897年)でした。その後、科学は物理・化学・博物学・天文学などの自然科学と、心理学・歴史学・社会学・倫理学・文学などの人間性を研究する人文科学とに分化しました。
医学は、大きくは自然科学に分類されますが、人文科学にも通じています。医療に従事する人たちは、人文科学で感性を磨き、アート(技)にも長じなければなりません。ただ理数系が得意だからとか、理科系の成績がよいからといって医学部に進学し、医師になるのは大きな間違いです。
何よりも豊かな人間性と医師としての使命感がなければなりません。高校で数学や物理・化学の成績が良くて偏差値の高い学生を医学課程に送り出す日本の教育システムは問題です。
日本でも、大学で一般教養をしっかり身につけた上で、さらに医師になりたいと思うのであればそれから医学部を志願するという米国やカナダのような教育システムを採用してはどうでしょう。
そして、医学部への入学試験の際にも、何人もの教官によって時間をかけた面接を行い、本当に医師としての適性があるかどうかを判断して入学させるようにすべきだと思います。
私は、聖路加看護大学と協力しながら、聖路加国際病院と附属の聖ルカライフサイエンス研究所を中心に、米国のメイヨー医科大学やクリーブランド医科大学のような北米型の医学校、すなわち大学院医科大学をつくりたいと準備をしているところです。
医学は、大きくは自然科学に分類されますが、人文科学にも通じています。医療に従事する人たちは、人文科学で感性を磨き、アート(技)にも長じなければなりません。ただ理数系が得意だからとか、理科系の成績がよいからといって医学部に進学し、医師になるのは大きな間違いです。
何よりも豊かな人間性と医師としての使命感がなければなりません。高校で数学や物理・化学の成績が良くて偏差値の高い学生を医学課程に送り出す日本の教育システムは問題です。
日本でも、大学で一般教養をしっかり身につけた上で、さらに医師になりたいと思うのであればそれから医学部を志願するという米国やカナダのような教育システムを採用してはどうでしょう。
そして、医学部への入学試験の際にも、何人もの教官によって時間をかけた面接を行い、本当に医師としての適性があるかどうかを判断して入学させるようにすべきだと思います。
私は、聖路加看護大学と協力しながら、聖路加国際病院と附属の聖ルカライフサイエンス研究所を中心に、米国のメイヨー医科大学やクリーブランド医科大学のような北米型の医学校、すなわち大学院医科大学をつくりたいと準備をしているところです。
(2010年4月19日)
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