第29回 患者中心の病気の予防と医療(7)
EBMの登場
1997年にD.L.サケット(D.L.Sackett)などの提唱する「科学的根拠に基づく医療」といわれるEvidence based Medicine(EBM)が登場したのです。EBMは個々の患者に最も確率の高い、妥当性のある診断法や治療法、評価の方法を考えることで、患者のニーズや、患者のもっている診療上の疑問に答えて、患者のクオリティ・オブ・ライフを維持します。この考えが今、医学に大きな影響をもたらしています。
医療は、今まで何かの根拠により診断し、その診断によって既存の治療法のなかからいちばん適切に使える方法を選んで実行してきたのですが、なぜ今さら根拠などというのでしょうか。
EBMでは、今何をしたら患者の最終的な健康状態という結果がよくなるか、患者にとってのベストは何かという結果論を重視して、何を選ぶかという選択をします。たとえば、がん治療の場合、外科的治療をするのか、化学療法をするのか、内科的治療をするのかという選択をして、そして、そのなかでもっともクオリティ・オブ・ライフが落ちないような方法を探るのがEBMの臨床的なアプリケーションというわけです。
医療は、今まで何かの根拠により診断し、その診断によって既存の治療法のなかからいちばん適切に使える方法を選んで実行してきたのですが、なぜ今さら根拠などというのでしょうか。
EBMでは、今何をしたら患者の最終的な健康状態という結果がよくなるか、患者にとってのベストは何かという結果論を重視して、何を選ぶかという選択をします。たとえば、がん治療の場合、外科的治療をするのか、化学療法をするのか、内科的治療をするのかという選択をして、そして、そのなかでもっともクオリティ・オブ・ライフが落ちないような方法を探るのがEBMの臨床的なアプリケーションというわけです。
患者中心の医療
患者中心(ペイシェント・オリエンテッド)のリサーチは、疾患中心(ディジーズ・オリエンテッド)のリサーチとは目的や対象や傾向が違います。ディジーズ・オリエンテッドのほうは疾患ごとに細分化していく一方ですが、ペイシェント・オリエンテッドのほうは、患者のQOLにとってどのようにしたらよいかという全体性・総合性をとらえることが健康(ヘルス)であるという立場をとるのです。
私たちの人生には、たとえ身体に欠陥があっても、心が健康感を覚える、そういう気持ちをもちたいものです。最後まで完全に健康であることは期待できないとしても、たとえ肉体という土の器が壊れても、そのなかにたたえる水が豊かなものであれば、感謝して生きることができるのではないか。医療者は患者の生活を考えることによって、本当の医学が生まれていくともいえるのではないでしょうか。
私たちの人生には、たとえ身体に欠陥があっても、心が健康感を覚える、そういう気持ちをもちたいものです。最後まで完全に健康であることは期待できないとしても、たとえ肉体という土の器が壊れても、そのなかにたたえる水が豊かなものであれば、感謝して生きることができるのではないか。医療者は患者の生活を考えることによって、本当の医学が生まれていくともいえるのではないでしょうか。
健康の増進
このごろの医学は健康の増進ばかりを考えていますが、1984年にWHOは『健康増進の原則と戦略』と題して、以下のような発言をしています。
「個人や社会がめいめいの健康をコントロールし、それぞれの問題を分析し、自分たち自身の解決を決定させることである。
すなわち、第一は、医療のプロは命令者でなくパートナー、一般の人々のパートナーとなって、人々の考えや気持ちのニーズに敏感でなくてはならない。
第二は、健康な環境というものは、危険なものがないというだけではなく、学習や仕事への踏み出す力、インパクトを与え、すべての人々がレジャーやレクリエーション活動に参加する機会を与えるものでなくてはならない。
第三として、人々はそれぞれ自身のニーズをはっきりさせ、それを表現でき、そして健康情報を理解し、自分が使えるような激励を受けるべきである。
第四には、皆が自分たちの生活をコントロールできるのだという自信をもつようになれば、その健康は育まれて増進する」
これからの健診は、ただ、受診者が健診を受ければいいということではありません。自覚症状や他覚症状を問わず受診者みずからがみずからのデータを医療者に提供し、その結果については受診者一人一人がセルフケアをする時代なのです。
医師はそれを評価します。そして、よりよい生活習慣の記録をつくります。今まで熱や脈拍、あるいは体重などのバイタルサインの記録はあったのですが、生活習慣のバイタルサインというものは、患者自身が記録しなければ医師はそれを見ることも読むこともできません。健診を引き受ける側には、そういうデータを根拠(エビデンス)のあるものとして提供できるように患者や家族を教育するという教育的な義務があります。
そこで、医療者は生活習慣を知るために、ライフスタイルの問題(プロブレム)リストをつくります。たとえば、受診者の食事に問題がある場合には、その人にその原因は何であるかと聞きます。その行動を改善する戦略は誰が作り、誰が指導するかということを相談し合います。また、どうすればタバコをやめることができるか、夫婦が別居している場合にはどういうカウンセリングが必要であるかということを相談します。
健診には、医療者は受診者の生活の状況を正確に把握した上で指導するというプログラムが組み入れられていなくてはなりません。
「個人や社会がめいめいの健康をコントロールし、それぞれの問題を分析し、自分たち自身の解決を決定させることである。
すなわち、第一は、医療のプロは命令者でなくパートナー、一般の人々のパートナーとなって、人々の考えや気持ちのニーズに敏感でなくてはならない。
第二は、健康な環境というものは、危険なものがないというだけではなく、学習や仕事への踏み出す力、インパクトを与え、すべての人々がレジャーやレクリエーション活動に参加する機会を与えるものでなくてはならない。
第三として、人々はそれぞれ自身のニーズをはっきりさせ、それを表現でき、そして健康情報を理解し、自分が使えるような激励を受けるべきである。
第四には、皆が自分たちの生活をコントロールできるのだという自信をもつようになれば、その健康は育まれて増進する」
これからの健診は、ただ、受診者が健診を受ければいいということではありません。自覚症状や他覚症状を問わず受診者みずからがみずからのデータを医療者に提供し、その結果については受診者一人一人がセルフケアをする時代なのです。
医師はそれを評価します。そして、よりよい生活習慣の記録をつくります。今まで熱や脈拍、あるいは体重などのバイタルサインの記録はあったのですが、生活習慣のバイタルサインというものは、患者自身が記録しなければ医師はそれを見ることも読むこともできません。健診を引き受ける側には、そういうデータを根拠(エビデンス)のあるものとして提供できるように患者や家族を教育するという教育的な義務があります。
そこで、医療者は生活習慣を知るために、ライフスタイルの問題(プロブレム)リストをつくります。たとえば、受診者の食事に問題がある場合には、その人にその原因は何であるかと聞きます。その行動を改善する戦略は誰が作り、誰が指導するかということを相談し合います。また、どうすればタバコをやめることができるか、夫婦が別居している場合にはどういうカウンセリングが必要であるかということを相談します。
健診には、医療者は受診者の生活の状況を正確に把握した上で指導するというプログラムが組み入れられていなくてはなりません。
新しい保健指導
厚生労働省は、生活習慣病対策としてさまざまな施策を推進してきましたが、改善はみられない、もしくは悪化していると指摘しています。そのようななかで、近年、内臓脂肪細胞の増大が糖・脂質の代謝の異常、高血圧、糖尿病や心血管の病気などを引き起こす原因となっていることが分かりました。
そこで、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)に着目した生活習慣病予防のための標準的な健診・保健指導を実施しました。それが、新しい保健指導であり、特定健診といわれるものです。
これは、健診を受けた人全員に、生活習慣病の予防などの知識を提供します。そして健診の結果、生活習慣病になるリスクが高い人に対して、生活習慣を変えるようにサポートする指導をすることで、予防への動機づけを支援したり、また具体的なプログラムをたてたりするわけです。
これらは、私たちがこれまで提唱してきたことが施策として実現されるようになったともいうことができます。
そこで、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)に着目した生活習慣病予防のための標準的な健診・保健指導を実施しました。それが、新しい保健指導であり、特定健診といわれるものです。
これは、健診を受けた人全員に、生活習慣病の予防などの知識を提供します。そして健診の結果、生活習慣病になるリスクが高い人に対して、生活習慣を変えるようにサポートする指導をすることで、予防への動機づけを支援したり、また具体的なプログラムをたてたりするわけです。
これらは、私たちがこれまで提唱してきたことが施策として実現されるようになったともいうことができます。
(2008年6月2日)
- 日野原先生が顧問をつとめている特定非営利活動法人医療教育情報センターからの市民公開シンポジウムのお知らせ
-
【テーマ】第6回 市民公開シンポジウム「現代の養生訓―健康に生きる」
現代に生きる我々はどのようにして病気を予防し、いつまでも健康でいることができるのかを考えます。
【開催日時】平成20年6月14日(土)12時30分より(12時開場)
【会場】ベルサール西新宿
【参加料】入場無料
※詳細は以下をご参照ください。
医療教育情報センターのホームページ http://www.c-mei.jp/
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