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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

一緒にいてもひとり(part2)

 今週も、『一緒にいてもひとり』(カトリン・ベントリー著、東京書籍)の感想について。
 ギャビンは経済的に養ってくれる誠実な夫であり、素敵な家も与えてくれた。ギャビンはいつも自分の話を聞いてほしがったが、カトリンが話す番になったときは、夫はすぐに話に興味を失った。ギャビンは、自分が興味をもたない「感情」について話すのは無駄だと考えていた。話を聞く際には、相手の目を見ると気が散るので、ギャビンは目をそらせていた。彼の感情は目に現われなかった。「ぼくは君の心配事まで聞きたくない。ぼくは自分のことだけで精一杯なんだ」。
 ぼくは今まで「人間は感情の動物だ」と思っていたけれど、どうも違うようだ。しかしギャビン自身はよく怒りを爆発させてはいる。感情を小出しにすることが苦手なようだ。

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 ギャビンは友人の飼っていた犬が死んだときに「これは幸運だと思うべきだよ。所詮、犬には何の使い道もない。心配事を増やすだけだよ」と言った。カトリンはギャビンがアスペルガーであることを知る前には、彼の無神経さに本当にうろたえていた。
 「ぼくはそんなに(興味のある話題では)うまくしゃべれるのに、人の話を理解するのに苦労しているとは思っていないんだ。だからぼくは会話を支配し続けるんだ」
 たしかに身近にも、連想に任せてのべつくまなくしゃべりつづける人がいると感じる。
 ギャビンがピザをとってくれたことがあった。みんな腹ぺこなのでピザの配達を待ちきれなかった。やっと届いてふたを開けると、チーズが段ボールのフタに少しくっついていた。他の人は「大丈夫よ」と言ったけれど、ギャビンは我慢できずに「こんなもの絶対に食べない」と言って配達員に突き返し、みんな再配達が届くまで、さらに45分待たされることになった。
 統合失調症の人は空気を読む能力に長けていて、読み過ぎて被害妄想に陥る。アスペルガーの人は空気を読めないけれど、とても理性的で論理的だ。時に冷酷なまでに冷静な人にぼくは長い間苦手意識があったけれど、性格がぼくと正反対だったのだ。

 ギャビンは外で長時間働き、カトリンは家で2人の幼な子と格闘した。「一緒にいてもひとり」は、ギャビンにとっては楽で合理的なのだろうが、コミュニケーションを求めているカトリンは深く孤独を感じている。子どもたちに下痢が続いても、ギャビンには「手伝わなくては」という気持ちはまったく起きなかった。
 2人は平等に分担している。自分は金を稼ぎ、妻はその他すべてをするというのが、ギャビンの考えだった。夫婦が助け合わない日本社会の家庭内では、縦のものを横にもしないがんこオヤジの大部分が、アスペルガーっぽいのではないかという気がする。
 ある晩カトリンは、夕食にギャビンの大好物のローストラムを作った。食べ始めようとすると、よちよち歩きの子どもの一人がトイレに行った。ガタンと大きな音がしたので行ってみると、子どもは倒れて血が出ていた。ギャビンに「救急箱を持ってきて」と言うと、ギャビンは言った。「今ぼくはローストラムを食べているんだ。子どもの頃ローストラムはごちそうだった。夕食の途中で子どもが落ちたなら、それは子どもの問題だ。そもそもトイレに行かせた君がバカなんだ。何とかしろ。誰にも夕食の邪魔をさせないぞ」。
 ギャビンはいつも、いつもと同じであることを要求した。物事が計画どおりに進むことを要求した。そうでないと、ストレスからイライラが高じる。part1に書いた、モラハラ夫を思い出さないだろうか? アニメでいうとエヴァンゲリオンの綾波を思い出す。
(part3に続く)


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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