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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

主治医LOVE

 仕事柄、患者さんに付き添って診察室に入ることがある。「作業所の責任者です」と言って名刺を出したりすれば、その場で意見を差し挟んだりすることができる。
 昔、ぼくが一病者だったときに、ある患者さんの友人として付き添って、診察に行ったことがあるけれど、診察室には入れてくれなかった。その時の悔しい思いが「肩書きさえあれば、無視されないのに!」と、精神保健福祉士(PSW)の資格を取る原動力になった。
 資格を取った前後に作業所をNPO法人化して、理事長になった。これで医者も無視できなくなって、まともに相手をしてくれるようになった。

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 こうして、患者さんに付き添うことができるようになり、診察室でほかの患者さんの主治医をゆっくり観察できるようにもなった。患者の訴えをさえぎって自説を押し付ける人もいれば、誤診だろうと思われるときに混乱してしまって、患者にあたる人もいる。これでは普通のおじさんだ。
 ぼくから見れば、「あの患者さんはなぜいつまでもあんなヤブ医者から離れないのだろう?」と多々疑問に思うこともある。実際に「ぼくの主治医はいいですよ」と紹介しても、また元の主治医に戻ることもある。「一番弱っていたときに優しい言葉をかけてくれたから」などと、腕の悪い主治医を擁護したりする。
 こういう人は、実は「今の主治医が好きなんだ」ということが最近わかった。精神科医は男が圧倒的に多いから、そういう場合は女性患者さんが多いのだが。男の患者さんで「男の主治医はイヤだ」と言う理由から、女性医師のいる病院に代わった人もいる。
 特に女性患者さんは、「主治医とは相性より愛情」かもしれない。ほかの主治医に走るのが、「薬が合わない」などという合理的な理由ではなく、「冷たくされた」などという理由も多い。主治医をかわってしばらく新しい医者に通っていても、いつの間にかもとの鞘に戻っていることもある。
 自分の言うことをいちいち否定せずに聞いてくれる人が、主治医のほかに世間にいるだろうか? 恋人だって、けんかすれば酷いことを言う。世知辛い世間とは別世界の主治医を好きになるのもムリはない。「誤診誤処方、何のその。好きになったら地獄の果てまで」。かくして診察室には妖しいムードが漂う。精神科医療の夜明けはまだまだ遠い。

 この女性患者との関係について、医者は黙して語らないが、もちろん医者が常に冷静な立場であるはずもなく、患者と恋に落ちる場合もあり、家庭を壊したりもすることもある。女性患者と婚約して一緒に暮らしていた精神科医を知っているが、彼女はガンで先立ってしまった。
 ある病者が胃を切るのに外科に入院したけれど、手術のために薬を切ったことが原因で術後不穏になってうろついたのを、カンカンに怒って、チューブが腹に付いたまま即刻退院させた外科医もいる。術後の説明で「腕のいい外科医だな」と思っていたのに、やっぱり普通のおじさんだった。
 しかし精神科では人間関係が一番大切なので、やっぱりある程度冷静でやさしく、懐の深い「人格者」であってほしいものだとは思う。ぼくは今の主治医に十分に満足感があるけれど、基本的にひとりの人間であることも知っている。


コメント


デイケアのメンバーの処方を聞くと
酷いのが多いですし、実際調子よくないと
いう人多いけど、あの先生はいい人だからと
任せる人多いですね。
一度、僕が処方に対してこれは酷いよと
言ったら、専門家でもないくせに偉そうな
こと言うなと言われました。
これ以上言っても敵扱いされるだけなので
これ以上は何も言わなかったけど。


投稿者: トキ | 2009年09月01日 22:34

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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