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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

アダルトチルドレン(part2)

 不幸な子どもが大人になって、自己に直面して自己改革することなく子どもを育てると、また「できれば親にならないほうがいい」親になってしまう。こうしてアダルトチルドレンは、またその子をアダルトチルドレンにしてしまうことも多い。弱者の親がさらに自分の子どもを虐待し追い込む。
 大人のいじめもそうだ。職場が過酷なほど、いじめが発生する。知人に、保育園での職員からのいじめで仕事を辞めざるを得なかった保母さんがいるが、辞めたらとても元気になった。しかし、家庭での虐待の場合は、なかなか逃げることができない。

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 児童虐待の相談対応件数は全国で、平成2年には1100件あまりだったのが、平成11年には1万件を突破し、平成19年には4万件を超えた。もちろん社会的関心の高まりに伴って、より虐待が発見されやすいように法改正が重ねられたことの影響だが、今まで水面下にあった虐待がこうして表面にあぶり出されてきただけではなく、実際にも増えているのかもしれない。もちろん、アダルトチルドレンは親の虐待によって生み出されることが多い。
 アダルトチルドレンは自分に自覚があれば、アダルトチルドレンだといわれるが、一人ひとりが抱える症状はそれぞれが違う。親と多少の葛藤があるのは普通だろうし、逆に葛藤がなければ育たない。こころに傷のない人など一人もいない。特に子ども時代には広く、夜驚(フラッシュバック)、悪夢(PTSD)などがある。しかしアダルトチルドレンの数だけ虐待が存在し、それぞれが後遺症を抱え、大きくなっても自分のルーツをなかなか肯定できないで、根無し草として生きていることも事実だ。

 酒鬼薔薇聖斗も秋葉原事件の加藤容疑者も、被虐待児として育った。もちろん虐待されて育っても、罪を犯さない人のほうが圧倒的に多い。この差は何だろうという当然の疑問があるが、大きくなり不幸で生きづらいという人が多いのは少なくとも事実だろう。そのなかで、偶然の積み重ねで、ある人は罪を犯し、ある人はこころの病を患い、あるいは、一般人にまぎれて生きる場合もあるのだろう。
 ぼくはヒトラー虐待児説を支持しているけれど、虐待した父とこころの中で同一化して権力者になり、史上最大の犯罪者になった。酒鬼薔薇聖斗もヒトラーを崇拝していたようだが、どちらにも振れやすい子ども、とくに被虐待経験のある子どもは、ヒトラーの自伝など読むべきではないのに、母親が買い与えたらしい。びっくりである。大人物になってほしかったようだ。

 純粋な虐待による生きにくさの多くは、思春期の間に顕在化して暴力的になることが多い。さらに社会に出ると、今度は派遣をはじめとする底辺労働が待っている。そのなかで、生活の苦しさや人間扱いされないことから、元々低い自尊心をさらに奪われ、沸々とした怒りを溜め込む場合もあるだろう。人をなかなか信用できないために、発散も難しいかもしれない。それまで持っていた親に対する怒りは、容易に社会への怒りに変わる。怒りが暴発したのが秋葉原事件の加藤容疑者ではないのだろうか。
 通りすがりの人に怒りを向ける前に冷静になってほしい。「一握りの一部の勝ち組(不況下でも儲けている人はいるはずだ)と数多くの負け組を作った社会が悪い」。本当の敵は「システム」の勝ち組である金持ち支配層だ。身近な派遣や生活保護受給者や外国人ではまったくなく、ましてや通りすがりの人でもない。マネーゲームに興じるギャンブラーたちが動かし儲ける社会が、いい社会のはずはない。
 家庭内暴力や自殺に向けるエネルギーがあれば、生活が苦しい怒りを経団連にぶつければいい。ひきこもっている人も、一家心中を考える前に怒ったらいい。親を介護していたひきこもり者が介護に疲れ、殺害する事件も起きている。
 これが社会への異議申し立てになれば、自分だけでなく多くの元アダルトチルドレンと連帯できる。他者との回路が開く。自分の生きづらさは自己責任から免責され、自分を肯定でき、生きる活力にもなる。自分が貧乏していることが、生活が苦しいことが、他者を救うことになる。

 「アダルトチルドレンは怒りの表明によって自己否定のほかに失うものは何もない。彼ら彼女らが獲得するのは世界である。全国のアダルトチルドレン、団結せよ!」

参考文献
『対談 生き抜くこと』(雨宮処凛・香山リカ、七つ森書館)
『共産党宣言』(マルクス・エンゲルス、岩波文庫)


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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