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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

差別ということ

 最近の格差社会化によって、若者のホームレス化が進行している。普通の生活をしていた時には「あそこまでは落ちぶれたくない」と思っていた人が、なりたくないホームレスになってしまったら、自分を激しく否認する気持ちが起きる。
 からだは路上で生活していても、気持ちは社会にいた時のままである。挫折感、屈辱感、無力感を受け止めきれないのだ。自分がホームレスと思われたくないから、ホームレスの人たちに近づかないし、身なりもホームレスに見られないように気をつける。
 炊き出しがあることを知っても、路上のおじさんたちと一緒に列に並ぶのはプライドが邪魔する。ホームレスと呼ばれ、社会の冷たい視線に耐える覚悟はない。しかし確実にお腹は減っている。「自分は一時的な状態だから、やつらとは一緒にしないでくれ」と葛藤する。でも次第にホームレス社会に引き寄せられていく。そして一見してホームレスとわかる身なりと雰囲気になっていく。デパートや公園でも「ここはあんたたちの居場所じゃない」と言われて、異物ゴミのように排除される(参考:フリーターズフリー、Vol.1)。

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 この心理は、ぼくが病者になったばかりの時のこころの動きとまったく同じだ。仕事さえできれば、病者仲間ともオサラバできる、入院したのは一過性のものなのだと、必死にアルバイトに精を出した時期もある。しかし30歳で再発して、「病気は一生ものだ」と諦め、病者として生きることを積極的に選んで、障害年金を受給した。
 最近の病者は派遣村報道で、いかに仕事がないかを思い知って、病気の状態が悪くても、あわてて食うために職探しに追われているという。派遣村報道は最悪の病者に対する就労圧力になっている。

 さて、ワーカーという仕事を選択した人たちは、心のどこかで「いいことをした」という自己満足な達成感があるだろう。どこかで「病者より上だ」と感じてしまう瞬間だってあるだろう。
 この差別の瞬間というものは、出会った瞬間に万人が「獣の目」で「自分より強者か弱者か」を判断して、「強者なら身構え、弱者なら見下す」けれど、0.55秒遅れで、「待てよ」という反省が意識的自己にあがってきて「弱者差別はいけない」と理性的になる、と精神科医の中井久夫は述べている。まあ「待てよ」が働かないで、差別的な言葉や行動にそのまま出てしまう人も多いだろうが。
 これらの一目で相手を品定めする「獣の目」は、どんなに良心的なワーカーでももっていると思う。万人は差別者だから。そして社会的弱者の病者だって自分より弱い人にはより厳しい差別者だ。

 こういった差別にワーカー自身が気づいた時にはどうすべきだろう。病者の受ける不利益からくる怒りを共有し闘うべきじゃないだろうか。障害者自立支援法の成立時に、「ワーカーはなぜ反対の声を上げないのか?」と思ったものだ。「所詮仕事上の付き合いがあるだけでしかないのだろう」と思った。無関心も差別だろう。みんな表面的には優しいけれど、病者と仕事抜きで本気で話すことはあるのだろうか。入院中に自分の悩みを本音で話してくれた看護師は、特に思い出深いものだ。
 もちろん、病者自身の同胞の病者に対する差別意識は酷いものがあるが、ワーカーもみえにくくなっている差別に向き合うべきではないのか? ワーカーとしてのアイデンティティーは差別に向かわなくていいのだろうか?
 本当のところは、ワーカーにはワーカーのマイペースがあり、ワーカーが本気で病者と向き合ったら自分が病者になるのではないのかと、自分が身につけてきた距離の取り方を守ろうとしているのではないのかとも思う。ミイラ取りがミイラ取りになっては大変だという場合もあるのではないのか。実際に精神病はうつるから。
 そしてワーカーは、自分たちだけで固まりがちである。他の作業所では、職員だけで忘年会をやったりすると聞いてびっくりしたことがある。ムゲンでは職員だけで飲んだことなどない。第一そんなことしたらメンバーから「自分も呼べ」と怒られそうな気がする。

 ワーカーの人たちは積極的に国に国家資格化を要求した。そしてワーカーの活動は、常に自分たちの居場所、活躍する場、つまりは飯のタネになるところを増やしていくのに熱心だ。もちろん、「それが病者のためになる」という信念ももっているけれど、ぼくには施設ばかり増やしても「差別に取り組む問題意識」がなければダメだろうと思うのだがどうだろう? もちろん自分自身も差別者であるということにも解っているうえで。
 結局、病者が周りから認められたい欲求が強いように、彼ら彼女らも自分の生活を守りながらも、社会からも専門職として認められたいのだ。新しい職種だし多くのワーカーはそれほどに自分たちに自信が乏しいのかもしれない。ワーカーの協会の組織率の低さをみても、専門家としてのプライドは少ないようにもみえる。実際はプライドなど、何も仕事の現場の役には立たないのだが。

 ワーカーという仕事は、自分の仕事をなくすことを目的に仕事する。なぜなら、病者が自立すれば存在する必要がないからだ。今は貧困の進行によってマスコミも差別問題を取り上げる余裕もなさそうだが、病者が今以上に排斥された時、本当に病者の権利を守る弁護士として身を挺して立ち上がることができるだろうか? 
 ライシャワー事件をきっかけに病者の隔離収容が始まった。大阪池田小事件をきっかけに医療観察法が始まった。病者は将来どのような境遇に置かれるかわからない。あるいは、身近なところで普通に人権侵害が起こっているかもしれない。例えば今障害者自立支援法廃止に向けて、全国の障害者が裁判闘争に立ち上がっている。そんな時にこそ何をするかで、ワーカーの存在価値が大きく試されると思うのだが、どうだろう?


コメント


地元の社会福祉士会の集まりに出たときのことですが、車いすユーザーの身体障害者の方で自立生活のための会社をやっている人と話したのですが、障害者自立支援法はワーカーが利用者のために良かれとして熱心に行動すると自分自身の首を絞めてしまう制度になっているといっていました。ワーカーが利用者と共闘しようにもできないように国というか権力はしようとしたみたいですね。


投稿者: 祖父江元宏 | 2009年02月05日 11:18

 そうなんですよ。就労したい障害者をはげまして熱心に施設でケアすればするほど,障害者の負担はおもくなります。
 でもワーカーの人たちは、自分の生活がかかってないから、自立支援法には反対しないのだろうと思います。


投稿者: 佐野 | 2009年02月05日 17:30

 それからグループホームの運営を円滑に行おうとすると、入院とかで部屋に空きができたときに新しい病者を入れざるを得ず、入院した人は戻るところがなくなる、ということもあります。


投稿者: 佐野 | 2009年02月05日 17:55

人を見定める獣の目
今も昔もずっとそれはありました。
特に介護している時に嫌というほど
体験しました。
いつも自己嫌悪に陥りました。

僕にとって人間関係が辛くなる
原因のひとつになってます。


投稿者: トキ | 2009年02月06日 19:03

 人間も元は洞穴に住み、狩猟生活をしていたころの野生起源の本能が「獣の目」なんだと思います。


投稿者: 佐野 | 2009年02月07日 11:40

 病気の人と一緒に飲みに行くスタッフを2人知っています。
 (私が利用している所ではありませんが、数回は一緒に飲みに行ったと思います。)
 その一人が言っていたのは
「利用者と一緒に飲みに行くと上司に怒られるんだよ。」
 ということです。
 もう一人のスタッフも、上司から
「アイツの”一緒に飲みに行く”のはダメだと思う。」
 と言われているのをちょっと聞いた事があります。
 病気の人と一緒に飲みに行く人は「異端者」らしいです。

 「病気の人と一緒に倒れて何が悪いの?」
 とも言っていたのが、すごく印象に残っています。
 でも、そういう「異端者」は病気の人に人気があります。


投稿者: Live | 2009年02月08日 20:45

 異端者か〜!?共に生きるということは、寄り添うことであり、病者が倒れたら共に倒れるというのは、正しいですよ。倒れたときに、病者の力を借りることだって、いいじゃないですか。
 「人間」付き合いってそんなもんですよ。やたら事例検討会とか開いて、議論するよりよっぽど健全です。


投稿者: 佐野 | 2009年02月09日 09:15

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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