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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

援助者のタイプ

 ワーカーに必要とされるものに、年金や生活保護の知識がある。これは仕事を通じて自然に増えるものだし、松山でも、中堅のワーカーたちにまで頼られている年金のプロがいる。わからなければ、聞けばいいだけだ。
 それよりもワーカーに必要とされるものに、「人間関係へのスタンス」があると思う。病者の言葉に振り回され、あれこれ動き回るワーカーと、人間的にしっかりしていて、病者の言葉に簡単には振り回されないワーカーと、どちらがいいワーカーだろうか?

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 ぼくは、資格のない若い時から、ピアワーカーという自覚すらないまま、仲間の病者の言葉に振り回されて動いていた。人間的にしっかりしていなかったからでもあるのだが。自殺したい人に振り回されて夜も眠れず、こっちが調子を崩すということもあったし、自分の掲示板上での騒動では閉鎖を考えたこともある。
 施設運営を考えれば、しっかりとしていて振り回されないほうがいいし、社会的にも評価される。今のぼくは、昔に比べしっかりしてきたと思う。ある時、昔の病者に再会すると、「佐野さん、前よりも冷たくなったような気がする」と言われ、愕然とした。しっかりしてきたということは失うものもあったのだ。
 考えてみると、今では「自殺したい」という人がいても、自分の睡眠を犠牲にしてまでかかわろうとは考えない。確かに冷たいだろうと思う。そんな時に、普段はムゲンの中で結構怖がられている、妻の波津子の、人に対するポンポンとしたもの言いに潜む根源的な優しさ・思いやりに触れて、優しくない自分を意識することもある。
 以前のしっかりしていないぼくのかかわり方は、振り回されることによって、結果的に病者に寄り添い受け入れていた。今のぼくは、受け入れ方が浅い。その分多くの人と客観的に付き合えはするけれど、原点は一人の人と深く付き合えることではないかと思う。
 しかし今でも、ほかのワーカーに比べれば、しっかりしていない付き合い方ではあるので、ほかのワーカーから「抱え込み過ぎ」と言われることもある。ムゲンは患者会としてスタートしたので、生活に濃くかかわることは当たり前だったし、ぼくの病者意識として、24時間仲間にかかわることは当たり前の生活だった。

 さて今のワーカーは、このしっかりタイプが多いように感じる。それで病者に振り回されることなく施設運営をうまくやれる、あるいは組織の中でうまくやっていくタイプが多いのかもしれない。
 でも、かかわりからは腰が引けているように感じ、ぼくには物足りない。専門家こそ何も知らない人種なのだから、もっと病者の気持ちの波に翻弄されて、徒労感を味わったほうがいいのではないか。自分のやったことが全然評価されず、想定外の事態になった時こそ、患者から学ぶチャンスだろう。
 ムゲンに以前、境界例の人が来ていた。「自殺する」や「殺す」という発言を、日常思い切り振り回すタイプの病者にはぼくも疲れ、嫌気がさしていた。メンバーに暴力を振るったのを機会に、運営協議会で辞めてもらうことが決まった。
 振り回されるかかわりにも、得意のタイプというものがあるように思う。ぼくは基本的に甘えを引き出してしまうので、境界例、依存症圏の人より、統合失調症やPTSDの人にはいいかもしれない。境界例、依存症、PTSDは、医学的には現われ方の違いだけかもしれないけれど。でもやっぱり病者に振り回されてパタパタと走り回るというのは、援助者の基本的タイプではないかな、とは思っている。
 熱心な精神科医も、若い時に抜群の治療成績を上げるけれど、ベテランになったら若い時ほどの成果を上げられない、というのを聞いたことがある。これも似たようなことかもしれない。
 最近、ある作業所の指導員が「通所者になめられたらいかん」と発言しているのを聞いた。「はあ?」と思い、自分は「なめられてなんぼ」だと思ってきたので、「その作業所の通所者はかわいそうだな」と思った。それに、こころに余裕がないと、学ぶものも学べない。まあぼくもなめられ過ぎて、キレてしまい相手を驚かすこともあるのだが(笑 まあこの辺がぼくの限界かもしれない)。


コメント


 次は、精神障害者の女性についてのブログを。


投稿者: 無名 | 2008年03月28日 10:10

 こんにちは。作業所に通って1か月ほどになりました。
 僕も一時期、精神科医療で現場を駆けずり回ったのですが、最近とくに、思うことがあります。それは、コミュニケーションスキルについてです。
 年配の看護者やワーカーさんは、自分の理念を持っていて、そしてその上で、対象者に対して、深く機知に満ちていて、わかりやすいと思う言葉がけをされるのですが、若い僕には性格的にもとてもまねできないと、いつも痛感しています。すごいと思います。


投稿者: yoru | 2008年03月28日 17:19

 精神障害者の女性という見方より、女性の一人で、精神障害も持っているという感じなのかな。女性について、難しい課題です。


投稿者: 佐野 | 2008年03月28日 22:09

 愛を求めてやまない女性というものについて思うと、精神障害者の女性ってかわいそうだなって思って…。
 それで、病状を悪化させていった女性を目のあたりにしてきました。


投稿者: 無名 | 2008年03月30日 01:52

>人間関係のスタンス

 ああ、僕も病気な方から振り回されるほうですよ。
 嫌いな人からは嫌われるけど、好かれる方からは好かれるようになりました。ただ性別によって、関わり方は変えないといけませんね。

 病気の方からは好かれてたけど、次第に距離を置くようになるケースが出てくるようになり、その対応を見極めないとなあと思いました。
1 調子が悪くなったのか?
2 自分を嫌いになったのか?
3 人間関係が変わったのか?
 1と3は、距離を取りつつ時々連絡を取る必要があるけど、それを受け止めるのはその人次第なんだと、思うようになりました。調子の波もありますしね。
 最近は、やりとりをメモして、関わるポイントを外さないようにしています。「抱え込む」事を減らすためです。あとは僕の場合、一人きりになる事です。
 人間的にどうか?というワーカーのほうが、コミュニケーションスキルはうまいと思う事はありますよ。というか、表と裏を使い分けて、老獪になっていきますね。でも、だいたいふるまいを見てれば、信用出来るかどうかは、わかるようになりますよ。


投稿者: ハイドラ | 2008年03月30日 08:44

yoruさん:人は理念では動かないです。人を動かすのは、相手を納得させる言葉がとっさに出るか、というものかも。


投稿者: 佐野 | 2008年03月30日 18:18

無名さん:
 多分調子を崩した女性でも、後で恋愛して良かったと思うのじゃないでしょうか?

ハイドラさん:
 そうなんですよ。結局人間関係が一番難しいかも。


投稿者: 佐野 | 2008年04月01日 18:12

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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