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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

病者にストレスをかける

 ぼくは、2度目の退院をした30歳の時に、患者が自由にくつろげる場所を作ろうと行動を始めた。資金作りとしてバザーや駐車場経営などを通じて150万円を集め、ムゲンのオープンにこぎつけた。
 誰もが自由に出入りでき、仕事を強制されることもない、理想の実現だった。しかしそれには、場の維持に専念できる健常者の存在が必要だった。ぼくもその頃は、今と比べずいぶん甘ちゃんで、奥さんを全面的に頼っただけではなく、ぼくの理想=「病者至上主義」にそぐわないと、メンバーの肩をもって、健常者である奥さんを責めたりもした。

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 奥さんは、オープン以来10年間黙って下支えの役割を引き受けた。ぼくは気も利かず、仕事もあまり引き受けなかったと思う。料理は進んでやったが、自己満足の域だっただろう。しかしぼくと一緒になって10年も一途に忍耐してきた奥さんも限界に達し、ぼんぼんと不満や要求を突きつけるようになってきた。
 ぼくも何度も調子を崩しながら暮らしていた。奥さん(波津子)は「いつ別れようか、いつ逃げ出そうか」とずっと思っていたことを最近になって言っている。今となっては、ぼくのストレス耐性が、波津子からストレスをかけてくるのに耐えられるくらいになっていたのだと思う。絶妙のタイミングで奥さんはキレたのだった。一緒に暮らしていたからできたことかもしれない。
 ムゲンはタバコ屋をずっとやっていたが、ぼくはタバコの世話だけでなく、ムゲンのトイレ掃除からあらゆる家庭の仕事を何でもこなさざるを得なくなっていった。波津子は今「私の鍛えによく付いてきた」と言っている。彼女はムゲンの中で、「鍛えてもいい人」と「鍛えることは諦めたほうがいい人」とを分け、「どこまで強く言っていいか」を考えながら、一人ひとりのメンバーについて十分に把握している。ぼくも無理なく「鍛える」ことができれば悪いことではないと思っているのだが、ぼくには「鍛え役」はできない。
 ムゲンは、憎まれ役を引き受けている波津子と「癒し役」に徹しているぼくとでバランスを保っている。波津子が強すぎることを言ったとぼくが思ったら、「サービス業の基本に戻ったほうがいい」と言うこともある。波津子は、何でもそつなくやるまでにぼくが「鍛え」に付いてきたことで、自信をつけたと言っている。波津子の鍛えに付いてきて、一番以前と変わった女性は、7年間の入院歴があり生活保護をもらいながら、恋愛では周りの人たちをむちゃくちゃ振り回していた。それが今ではすっかり落ち着いて、バイトで8時間働いていて、ムゲンにも時々遊びに来る。

 もちろん、幻聴がバリバリあるような人にストレスをかけるのは禁忌である。しかしある程度落ち着いてくれば、徐々にストレスをかけることもその人のためになる場合がある。
 鍛えることができる状態かどうかは、「就労したい」というような本人の意思とはまったく関係がない。経験の浅い援助者には、病者の調子や段階の見極めができないから、ストレスをかけるような行為はお勧めできない。しかし、この見極めができないワーカーの多くが現在、病者に「がんばれ!」と就労支援をやっていないだろうか? もちろんムゲンで鍛えるということは、就労を目指しているわけではない。疑似就労として、定期的なバザーを開催したり、ムゲン内での役割分担をしている。人生を渡っていくのに、身につけておいたほうがいいのではないか、というものを行っている。掃除やゴミ出しなどから始まる人生のスキル、生きる力だ。徐々に仕事を任せていく。本人が辞めたくなれば、ストップする。
 何より本人が波津子に鍛えられることから逃げなくなるのは、そのメンバーの苦労してきた人生に対する姿勢も大きく関係している。苦労し過ぎていたら調子が安定しないことが多いから、無理だったりする。しかし恋愛の存在も大きい。成就する・しないにかかわらず、恋愛によってもみくちゃにされる時を通過せずに、本人に鍛えられる準備ができることは少ないと思う。
 健常者でも多分そうだが、恋愛中の仕事は上の空である。ぼくも若い時商品発送の仕事をしていて、ずいぶん送り間違いをしたものだ。もちろんこうした恋愛を通過すれば誰でも鍛える準備ができるかというと、そういう訳でもないところが難しいが、本人のかかえるコンプレックスなども大きな原動力になる。
 自立の定義はわからないが、このストレスに耐えるということが、本人の自立の方向に向いていることは確かだろう。


コメント


 作業所へ通えない症状を抱えていますが、いつか通うのならムゲンのような作業所がいいと思うのはわたしだけではないでしょう。
 「掃除やゴミ出しから始まる人生のスキル、生きる力だ」という表現が印象的でした。同じような意味のことを主治医や親がいいましたが、ここまで的を得た表現はなかったです。
 まだ「ストレス」「鍛え」の対象外の病者ですが、とりあえず生きていきます。


投稿者: 金太郎の妻 | 2008年03月11日 15:15

恋愛修行中です。
つらいです。
でも、必要な試練なんですね。

人を愛するって事は
時にはとても理不尽な事も我慢しなければ
いけない事と本で読みました。
それは恋愛だからこそ我慢できる事
無条件の愛とでも言うか
大人に成る為には必要な経験なのかも知れませんね
鍛えですか。
確かに微妙ですよね
僕自身自分が何処までやれるのか
未知数です。
二週間に一回の診察で
医者が判断してくれていると思いますが…

本当に有りがたいのは恋愛で
ボロボロになった自分、判断出来ない自分を
友達や家族が支えてくれていること
有り難い
佐野さんも有難うございます。


投稿者: sun | 2008年03月11日 23:49

 人生は長いです。ゆったりと構えていていいんじゃないですか。出会いも縁ですし。とりあえず再発入院していないのは上出来でしょう。


投稿者: 佐野 | 2008年03月12日 18:24

 sunさん:本当に人生って理不尽です。なぜこんな不幸、こんな悲しみが他人でなく自分を襲ったのか、全く分からないことです。


投稿者: 佐野 | 2008年03月12日 22:41

 お久しぶりです。ブログに初めてお寄りしました。
 先日の佐野さんの先生の言葉、肝に銘じてます。ありがとうございます。
 ところで、私のほうでは、薬はスパッと辞めました。リーマス400とバレリン100でしたが、腎臓が悪くなってこれ以上、ダメだなぁと思ったので。
 少しリバウンドらしきものがありましたが、なんとか維持できてます。まだ4日目ですが、やばいかなぁ。
 こんなこと、お話ししてすみません。
 奥様のストレスを受ける時期が絶妙のタイミングだった、との部分に、感動しました。互いに結ばれていたご縁のような。そんな深い愛を感じて、ジワッとあつくなりました。
 夫婦って、いい味わいを出していくものですね。
 またお寄りさせてください。


投稿者: くるみ割り | 2008年03月13日 01:16

 くるみ割りさん
 神奈川の女性ですよね。こんどムゲンニュースが印刷出来ましたので、送らせてもらいます。


投稿者: 佐野 | 2008年03月13日 22:52

佐野さん
辛い事も多いですが
やっぱり、僕は生きていたいし
最愛の人と出会う事も諦めていません。

日記では、つい吐き出す事が多く
愚痴や泣き言ばかりですが
辛い日ばかりではないですよ

9くらい辛くても1くらいは楽しい事も
ありますよ。

僕は病気になった事も何かの運命だと
考えています。
きっと、意味の有る事だと思っています。
なんとなくですが。

事実、普通の人より生きる事のありがたみは
実感できる気がします。

佐野さん、病気になって良かったって
思うときもあるでしょ?
これからも辛い事が多いでしょうけど
僕は、生きたいです。


投稿者: sun | 2008年03月14日 01:10

 自分の病気を逆手に取って生きる手段にすることだってあります。病気になる以外に僕の人生は考えられないし、必然だった。そして良かったことだと思っています。歳取るほどに良かったと思っています。


投稿者: 佐野 | 2008年03月14日 20:27

 佐野さん、ムゲン、利用してみたいと思いました。でも松山までは、交通費がかかり過ぎるから無理か(苦笑)。


投稿者: ハイドラ | 2008年04月11日 08:38

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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