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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

人の目を気にすること

 東京の予備校に行くために、18歳で初めて実家を離れたが、当時のぼくは世間知らずでコンプレックスの塊だった。
 中高一貫の受験に熱心な男子校にいたぼくは、勉強のことしか知らなかった。高2のとき、一日中どんなにがんばってお勉強しても、東大に行く連中にはかなわなかったし、知識の世界の広大さに圧倒されて挫折し、自殺未遂をし、全然勉強をしなくなった。
 それからは、当時はやっていた左翼思想の本を読んだりしていた。そんな状態で一浪して東京に出た。

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 当時は、「寂しい、孤独だ」ということが最大の悩みだった。人付き合いをどうすればいいのかわからなかったのだ。人と対して、何をしゃべればいいのか、見当もつかなかった。だから、人からどう見られているか、ということも当然わかっていなかった。
 髪をぼうぼうに伸ばして、もつれたまま洗いもしない「変人」だった。よく行っていた本屋などで見かけるおしゃれな男たちは彼女連れで、すごくうらやましかった。

 そして、発病、入院して妄想がとれてきたときに、「自分がない」ことに初めて気づいた。からだごと妄想の世界に入っていたのだから無理はない。発病前には孤独がもたらしたプライドがあったのに、それすらきれいさっぱり失ったのだ。発病前の孤独は深く、その反動か、「ぼくの名前は200年は残る」と妄想していた。
 ぼくはからっぽのまま、病棟でほかの人の視線にさらされていて、「昼行灯」だの「ぼっちゃん」だの言われ、コンプレックスにとらわれながら、病棟の人間関係を漂っていた。
 自分がないまま就職して働き出したけれど、同僚から「隙だらけ」とか言われていた。25歳で童貞を失った。その彼女との付き合いで女性に対してがぜん自信がついて、それまで嫌われると思って近づくのが怖かった好みの女性に、自分の欲望を言葉で伝えることができるようになった。そして、女性から男性として見られていることを初めて実感した。それまでは、女性が対等に自分を相手してくれていると思ったことはなかった。
 茶目っ気も芽を出し、人に演技して笑わせることもできるようになった。人を笑わせられる、受けるということは、大きな自信につながった。人の目というものを意識して話すようになった。かつてのベタで変人だったぼくは、ネタとして演じる変人へと変わった。当然そのころには、髪も毎日洗うし、おしゃれもする余裕もできていた。発病時にはまったくなかった、時間をかけて髪をリンスするなどの普通のナルシズムが回復してきていた。

 もちろん作業所ムゲンは、いつでもみんなが安心して「狂っていい」場所にもなっている。メンバーのみんなも「狂っている」人との会話にも慣れている。タバコを吸う場所は、病院のデイルームの雰囲気だ。ソ連のスパイや、宇宙人による地球侵略など、妄想話にも花が咲く。
 女性の患者さんが、「おしゃれをするようになると、良くなっている証拠」ともいわれるが、人の目を気にするということは、統合失調症の患者にとっては、回復の一つの重要なキーワードかもしれない。そしてバランスのいい人の目を気にした客観性というものは、病者にかかわらず誰にとっても、暮らしやすさにつながっているとも思う。


コメント


佐野さんへ

 けあサポで寄稿している和田です。こないだはブログにコメントをありがとうございました。興味本位で不謹慎ですが、佐野さんとは一度お会いしてお話をしてみたいと思っています。よろしくお願いします。
 今回のブログの記事でわからなかったのが、『「バランスのいい人の目」を気にしない客観性』と読むのか、『バランスのいい「人の目を気にしない客観性」』と読むのかがわかりませんでした。
 すみません。いつかお会いした時に聞かせてください。


投稿者: わだゆきお | 2008年02月13日 22:32

 こんにちは、和田さん最近テレビで拝見しました。
 教育テレビで老人介護の問題についてじゃなかったですか。一回発言されましたね。たしか舛添さんが出てましたね。一回くらい大臣に文句のひとつも言ってやりたいものです。
 和田さんはどこで活動されていますか?ぼくは松山ですが、離れていたらなかなか難しいですね。もし松山に来られることでもあれば、メールください。下記のぼくのホームページからメール出せます。
http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
「バランスのいい」で点を打つべきだったですね。


投稿者: 佐野 | 2008年02月14日 19:26

佐野さんへ

 ハハハ、文章はよくわかりました。
 佐野さんは松山なんですね。僕は生れは高知で、宇和島・八幡浜・大洲などは非常に身近な街です。僕の仲間も愛媛県にはたくさんいますので、また行く機会もあると思います。その節は連絡しますので、よろしくお願いします。お会いできるのを楽しみにしています。
 生きていてくださいね。僕も生きていますから。そうか、松山で何か企画すればいいんだ…


投稿者: わだゆきお | 2008年02月15日 19:54

 ぼくは53、今年で54歳になります。
 あと10年もすれば、認知症になっているかもしれません。
 和田さんが会いに来られても、うんこ投げつけるかもしれませんが、それでも会ってくれますか?


投稿者: 佐野 | 2008年02月16日 11:36

 いまさらですが
 人の目を気にする客観性が大事。本当にそうですね。回復の目安かも知れません。
 言われるままに筋トレなどやっておりますが、まだまだ苦手です。そうですか、おしゃれか。。


投稿者: sun | 2008年03月12日 00:16

おしゃれって、余裕がないと出来ませんよね。


投稿者: 佐野 | 2008年03月12日 22:43

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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