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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

必要とされること

 福祉の仕事は、人から必要とされたい人にとって天職かもしれない。援助が必要な障害者や高齢者に必要とされる仕事内容だ。もちろん、必要とされることに依存してしまう性格の人もいるだろう。これは共依存と呼ばれるものである。精神病のピア(仲間)ヘルパーもぼつぼつ出てきたが、のめり込み過ぎる人もいるようだ。

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 リストカット癖のある女性がアルバイトをクビになり、くだらない仕事と思いながら、その仕事にすら必要とされない自分を「世界からまったく必要とされなくなった」と思い込み、自殺未遂したというような話も聞く。
 食事をすませたばかりなのにそのことを忘れ、「うちの嫁は食事も与えてくれない酷い嫁だ」と怒る、ボケの入った高齢者がいる。これは「自分は食事を毎回ちゃんと与えてもらえるのだろうか」という不安があり、根本では「自分が家族の一員として受け入れられているのだろうか、必要な人間だと思われているのだろうか」という不安があるからだということも聞く。

 あるとき、奥さんの波津子に、ぼくと子どもとどっちが大切かと聞いたら「子どもよ」と即答だった。たぶん母にとって、子どもは強く必要とされるからだろう。
 女性のもつ「女性性」というのはあると思うが、これは男性の心の中にもある柔らかな部分に親和性があると思う。福祉の仕事に必要なものは、この「女性性」なのかもしれない。
 昨今女性が積極的になったといっても、女性の多くは男性に言い寄られるのを待っている。まず愛されたいためだろう。男性から「お前が必要だ」と言われることは、多くの女性にとって魅力的な言葉だろうと思う。必要とされることで、自分の価値を高められるのだと思う。恋愛依存症という言葉もある。自分が必要という存在価値に不安をもっているのかもしれないし、ぼくらよりもっと敷居の低い性関係が普通なのかもしれないし、人の身体の温かさはとりあえず不安を消してくれるのかもしれない。
 中村うさぎ(作家、47歳)は、男性にとって自分は性的にまったく必要でなくなったのか? と自問自答して、デリヘルを3日間やってみた。「そこまでやるのは、付き合っていたホストに嫌々セックスをしてもらった、というトラウマがあるためだ」と『私という病』(新潮社)という本で告白している。そして、どんな女性のこころの奥底にも「素敵な王子様を待つお姫様」が住んでいるという。ここから「女性性」の重要な部分、「必要とされること」が生まれ出るように感じる。セックスは、必要とされたことに対する女性側のご褒美のように思う。

 よく「女性は現実的だ」といわれるが、確かに人生の早い時期に世間に醒めてしまうのは、女性のほうが多いように感じる。それで男性からみれば、女性のほうが賢いようにみえる。ちなみに、「男性性」を「自己の無限拡大」のことだとすれば、男性は「必要とされる」という感性にはなじみが少ないかもしれない。もちろん「男性性」は女性の心の中にもあるが。
 自分から夢と欲望に向かって自己を拡大していくという生き方から醒めてしまうと、必要とされる人に必要なことをしてあげればいいのでは、という「大人っぽい」といわれる「女性性」を重視する考え方が自然に思えてくる。

 「必要とされること」を実現することは、人間の平等(困窮している人は困窮を訴え、もてる者は必要なことをする)の実現に向かうという「人権」の考えにまでつながっていると思う。これは一方的な関係ではない。与えられたほうは感謝の笑顔を返し、与えたほうは満足感に満たされる。もちろん許容範囲を超え嫌がられる、我慢を強いることは要求しないのが前提である。そして与え、与えられる役割は常に入れ替わる。
 「与え、与えられる連鎖でどこまでも人間同士はつながるべき」という世界観をみんながもつことは、一つのハト派的な理想だと思う。


コメント


 自分がその人のためにやってあげても、ありがた迷惑ということはありますね。極力、この人は自分が何とかしないという気分に陥らないようにしています。


投稿者: ハイドラ | 2008年07月12日 00:21

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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