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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter72「旅立ちの場所 その3」

 医師の提案を頑なに拒否するSさんとの話し合いの続きです。
まずは自宅での療養環境を整えることから始めましょうと相談し、担当のケアマネジャーに連絡を取りました。しかし、ケアマネジャーは一週間後まで何の対応もできないとの返事でした。

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 家にいたい、しかし今のまま痛み止めもなく、経過をみる医療者もいない状況では、突然最悪な状態が起こる可能性もあります。私は手を変え品を変え、痛みをとるために、体を楽にするためには今の主治医以外の医師の関与が必要であること、どうしても入院したくないのであれば、それまでは自宅に来て診療する医師を手配して、療養環境を整える必要があること、このまま放っておけば、転倒や呼吸困難、痛みの増強など思わぬ事態が起こり、命に別状をきたす可能性があることを本人に伝えました。

 しかし、どうしても首を縦に振ってくれません。Sさんは、来週海外から主治医が帰ってきたらこのまま今の病院の外来で診察を続けてもらうことはできないか、明日病院に問い合わせてほしいと言い、私は帰宅の途につきました。

 次の日、私は電話で病院へ問い合わせるよりも直接医師と話をした方がよいと考え、Sさんに紹介状を渡した若い医師に会いに外来へ行きました。若い医師は血液データを見せてくれ、一刻も早く入院することを勧めました。それほどSさんは切羽詰まった状況でした。私はSさん宅に戻り、医師の言葉をそのまま伝えました。しかしSさんは黙ったままです。体は辛くないはずがありません。痛みは辛いと訴えます。しかし、何がそれほどまでSさんの気持ちを強固にしているのでしょうか?

 そこで、私はSさんの大切にしているもの、今までどう生きてきたのかを尋ねることにしました。すぐにはお話しいただけませんでしたが、その後,お宅へ3日続けて訪問すると、やっとご自身の信念を吐露してくださいました。自分には信仰しているものがある。以前、その信仰を軽んじて、縁起の悪い方角にある今の病院を選んだことからがんが再発してしまった。私が行きたいと思っているホスピスは方角が悪い。しかし、あと一か月経てば、○○病院のホスピスの方角がよくなるので、それまでは絶対にどこにも行かない。今家を出たら悪いこと(自分の死)が現実になるようで怖いと話されました。そして、信仰をやぶってまで頼った医師に、最後までみてほしい。そうおっしゃったのです。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
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