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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter60「私が受けたい治療に家族が反対している その7」

 患者が悩む意思決定トップ5の中の『私が受けたい治療に家族が反対している』について、全6回に分けてご紹介しました。この事例では、がんの手術をしたが数か月後に再発していることを医師から告げられたBさんと、その娘のRさんのやり取りが中心でした。

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 Bさんは今の主治医を信頼し、医師の言うことを素直に守って実践することが自分の身体を守るためには一番よいことだと考えていました。不満や不安があっても、質問や新しい提案をすることは、医師との信頼関係を壊すのではないかと考えていたようです。自分の生活を守ることがまず第一に大切で、新しいことにかける労力はなるべく少なくしたいという思いのようでした。

 しかし娘のRさんは、どこの病院でも同じ治療をしているわけではなく、情報を集めて、最先端の治療を受けることがよりよい結果をもたらすと考えていました。治療のためには、何かを犠牲にしても仕方がない。まずは治ること、元気になることが最重要事項だと考えていました。

 こうしてみると、父と娘それぞれの医療への関わり方、医師との関係構築の仕方、療養生活に対する考え方の違いが浮き彫りになります。これは老年期にある親世代と、壮年期にある子ども世代の死生観に関する考え方の違いとも考えられます。つまり、死は遠い世界の話ではなく、近い将来の物語として捉えている人間と、死は遠い世界のお話で、あってはならないものと考える人間との違いとも言えるかもしれません。さらに親子関係の複雑なところは、子どもは親の完治を諦めたくない、諦めないで希望を与えることこそが親孝行であると考え、親は子の願いを聞き入れてあげたいと親心を働かせてしまうことでしょうか。親子ともに相手を思いやり、相手のためを思って行動することで、結果的には互いの溝を深いものにしまうのです。

 親子だからこそ、本音で語り合えないことがある。それが意思決定を悩ませる要因になっています。親子という異世代の間には、ともすると考え方の違いがあることを意識して、本音の語り合いができる場を持つことが重要なポイントになります。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
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