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梶川義人の「虐待相談の現場から」

施設内虐待の4層構造

 従事者による虐待は、あってはならないことなので、発生予防に力を注ぎたいところです。しかし、発生の仕組みは解明されていませんし、何をどうすれば良いかも判然としていません。もっとも、養護者による虐待好発の構図は、そのまま当てはまるように思います。それは、被虐待者の条件を備えた者と虐待者の条件を備えた者がともに密室性の高い環境にいると好発する、というものです。

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 被虐待者の条件とは、虚弱であることやコミュニケーションに差し障りがあることです。虚弱だと虐待には対抗できないし、コミュニケーションに差し障りがあると、潜在的な虐待者を刺激しやすいからです。
 虐待者の条件とは、何かに囚われていて、極端に高齢者の立場に立てなくなっていることです。多くの場合、無自覚のうちに何かに囚われて、高齢者の立場に立てないので、虐待でも何でも平気で行なってしまいます。
 密室性の高い環境とは、外部の目が届かない環境のことです。この環境下では、人間の性悪性は刺激されますし、虐待も継続されやすくなります。
 この構図が揃うように作用する要素は、全て虐待発生のリスク要因となります。たとえば、両者を結びつけるものとして、住宅や経済の事情、介護問題などがあります。虐待者については、以下のように整理してみましたが、実に多種多様なリスク要因があります。よく「虐待は様々な要素が複雑に絡んで発生する」と言われるわけです。

虐待発生のリスク要因
◎組織的な側面
・差別、思い込み、勉強不足など
従事者の問題意識が薄れて、利用者の立場より自分の都合や利益を優先し、短絡・安易な発想をしやすくなる。
・啓発や教育の欠如
外部とのつながりが欠如し、差別や思い込みや勉強不足を是正する機会が減る。
・強い規制
強者は独善的に権力を行使し弱者を支配する、弱肉強食的な組織になりやすく、利用者が最下位に位置されやすい。
・過剰適応
従事者は、周囲からの要求期待に適応することを最優先するため、他の発想や別の手段を取らなくなり、不適切な行動でも遂行してしまう。
・役割集団と情緒集団
役割の固定化や情緒的つながりが強過ぎると、従事者の責任転嫁や良心分散化を招き、無責任で良心のない組織になりやすい。
◎人間関係の側面
・依存関係の継続と低い報酬
従事者の攻撃性や嗜虐性が刺激されやすい。
・役割期待の食い違い
「世話をしてあげている感」の強い従事者と、要求期待が強い利用者との間では、葛藤が生じやすい。従事者が強く利用者が弱いので。
・個人的な体験の感情転移や転嫁
従事者と利用者のそれぞれが、本当の相手をみていない。
◎従事者個人の側面
・健康の問題や生活資源の問題
従事者自身の問題解決が最優先される。
・職業人としての偏向体験
従事者なりの合理的な選択を偏らせる。

 発生予防の観点からみると、手当てしやすく効果も期待できるのは、密室性を高める人的な隠蔽性の低減です。物理的な密室性や被虐待者と虐待者の条件は、手当てをしてもさほど効果を見込めないか、手当てそのものがしにくいからです。
 人的な隠蔽性を端的に示す、施設の新人介護職員からの相談事例があります。要約すると、「先輩のAは、虐待的な行為をしていた。しかし、Aは勤続20年のベテランなので、他の職員は意見ができず、見て見ぬふりをしている。そこで、自分が勇気を出して会議で指摘したのが、別の先輩から、新人が生意気に先輩のやっていることにケチをつけるな、と怒鳴りつけられた。納得できない」というものです。
 「いじめの四層構造」(森田洋司・清水賢二著『新訂版 いじめ-教室の病』、1994、金子書房)を借りれば、怒鳴りつけた先輩は「観衆」だと言えます。虐待はしていないけれど、Aの虐待行為を助長する役を果たしているからです。見て見ぬふりをしている他の職員は「傍観者」そのものです。
 見事に、被虐待者、虐待者、観衆、傍観者という四層構造が出来上がっています。他の事例でも、こうした構造になっていることは大変多いと思います。観衆や傍観者は、外部に真実を告げませんから、いわば「人の壁」となって、被虐待者と虐待者は、密室性の高い環境におかれているわけです。
 そこで、啓発活動によって、一人でも多くの職員が、傍観者であることをやめ、観衆であることに気づくようにすれば、虐待好発の構図は崩せますから、発生予防に役立ちます。
 相談を下さった新人介護職員は、仲間を集め、外部の講師を招くなどして、虐待や人権擁護の勉強会を始めたそうです。彼らの行動に敬意を払うとともに、必ず成果は表れると期待しています。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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