ページの先頭です。

ホーム >> 福祉専門職サポーターズ >> プロフェッショナルブログ
梶川義人の「虐待相談の現場から」

物語を思い浮かべるご利益

 事例の対応には、事例に関する情報の収集と整理が欠かせません。しかし、「全ての事情が分かるのは終結の時だ。」と言われるように、情報不足のまま、対応のマネジメント・サイクルを辿るのが常です。

続きを読む

 そこで、情報の収集と整理の指針が欲しくなります。定型様式はそれなりに便利なのですが、帯に短し襷に長しであることが多いように思います。また、空白を埋めることに囚われて、対応が疎かになりやすくもあります。調査的になって信頼関係を損なうのはその好例でしょう。
 そのため、私は、虐待発生に至る「物語」を思い浮かべることを指針にしてきました。
 「物語」というと、一見エピソードが時系列で並んでいるだけだと捉えられがちですが、「物語」を思い浮かべることで、以下にあげた対応に必要な情報を、簡単に要約することができます。情報に不足や矛盾があると、「物語」は成立しません。「物語」を成立させようとするという意識は、体系的な情報の収集と整理を可能にします。また、「何がどうしてこうなったのか」、事前評価の核となる仮説も立てやすく、大変便利です。

対応に必要な情報の例

  • 1 通報・届出の経路
  • 2 通報・届出者の情報
    氏名、性別、年齢、当事者との続柄、居所、職業、連絡先
  • 3 虐待ないし虐待状況
    虐待の行為類型とその頻度や期間、被虐待者のダメージの程度、直接証拠、間接証拠、補助証拠
  • 4 当事者の家族構成や法的関係
  • 5 当事者の人物像
    • (1)基本属性
    • ○性別、年齢、続柄、職業、連絡先
    • (2)精神面
    • ○人格、疾病、障害、行動パターン、典型的な一日のスケジュール、虐待の自覚、虐待による影響、主訴や希望の表明の可否やその内容
    • (3)身体面
    • ○ADL、IADL、疾病、障害
    • (4)社会面
    • ○当事者の役割と人間関係、養護者と高齢者の関係類型。ここでいう関係類型は、養護者が干渉(支配、溺愛)し高齢者がそこに依存、養護者が放任して高齢者は孤独化、養護者と高齢者は常に葛藤、必要な養護者が欠如して高齢者は孤立など
    • (5)生活資源面
    • ○経済と衣食住
    • (6)その他
    • ○病歴、学歴、職歴、転居歴、結婚歴
  • 6 関係者に関する情報
    ○対応者を含め、家族、親族、知人、隣人の基本属性と、当事者への影響力(支援か阻害か無援か)

 ご利益は他にもたくさんあります。
 例えば、史的に俯瞰できますから、過去の人間関係が大きなリスク要因である事例にも適用できます。三世代以上にわたる物語として把握すれば、世代間にあるパターンや法則にも気づけます。家族療法のシステムズアプローチのように、「家族の成員が互いに影響を与え合うことで、問題(虐待)が維持されるという悪循環が生じている。」と考えることも可能です。認知行動療法のケースフォーミュレーションのように、個々のクライエントがどのように問題を形成しているか、その学習メカニズムに注目することもできます。さらには、当事者化する経緯が、エピソードとして含まれますから、短絡的な悪者探しを回避しやすくもあります。
 慣れてくると、断片的な情報からでも、かなり事実を言い当てられるようになってきます。その一方で、連ドラを見ていると、つい「こんなことはあり得ない。」などと発言し、家族からひんしゅくを買うという副作用もあるようです。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

コメントを投稿する




ページトップへ
プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
メニュー
バックナンバー
その他のブログ

文字の拡大