精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第25回:オンラインだからできること/できないこと
2026/01/23
みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、「オンラインだからできること/できないこと」をテーマに書いていきたいと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
オンラインで見えてくるさまざまな地域差
NPO法人CoCoTELIは、精神疾患の親をもつ子ども・若者を対象に、居住地や偏見の影響を受けづらいオンライン上での相談支援や居場所づくりを行っています(詳細は 第13回 を参照ください)。
このようにオンラインで活動をしていると、さまざまな「地域差」が見えてきます。
例えば、「◯◯に困ったら△△につながればいい/相談したらよい」というのは、実はかなり限定的な前提の上に成り立っていることを思い知らされます。支援などの選択肢の多くは、「移動」の話でもあるからです。どれだけよい支援があっても、そこに辿り着けなければ使えない。この当たり前が、地域によって大きく違いがあります。
地方に行けば行くほど、最寄駅という概念がなかったり、バスが1日2本しか走っていなかったりします。移動そのものが簡単ではありません。
都市部だと「次の電車に乗ればいい」で済むことが、地方では「次のバスは1時間後」になることもあります。しかも、地方は子ども・若者の数自体が少ないため、支援の選択肢も少なくなりがちです。居場所も支援機関も同世代とつながれる場もあることが前提にならないのです。結果として、身近にそういった選択肢があるか? という点が、本人の意思等だけでは決まらない状況が生まれています。
さらに、親子関係に悩んでいる子が、親に送迎してもらうという選択肢を取るのは簡単ではありません。送迎を頼むこと自体が負担になる、詮索される、あるいは「なんでそんなところに行くのか」と揉めてしまう。支援に近づく行動が、家庭の中でのリスクになってしまう子もいます。相談に行くための移動が、「家庭の空気を悪くするきっかけ」になってしまうなら、子どもが足を止めてしまうのは自然なことだと思います。
そして、たとえ公共交通機関が発達していても、片道500円の交通費は子ども・若者にとって大きな金額です。昼食代や部活の道具代、友人との最低限の付き合いと同じくらいの重さをもつ金額です。毎回の移動が出費になり、相談や居場所利用等の優先順位を下げざるを得ない。そんな生まれた地域、居住地による影響は大きいと思います。
※今回は地方の話を中心に書いていますが、都市部にも都市部だからこその難しさがあります。
オンラインだからできること/できないこと
そんななか、こうした壁の前で、オンラインの価値はとても大きいと感じています。住んでいる場所に左右されず、交通費もかからず、親に送迎を頼まなくても「出会い」まで到達できる。また、偏見等の影響も受けづらい。そんな風に支援にアクセスする入口のハードルを一段下げられる可能性があるのかなと思います。
もちろん、オンラインは万能ではありません。できることが限られます。
特に子ども側から出会うルートの場合、親子の具体的な問題や逆境体験に対して、こちらが直接的に介入していくことは難しいです。画面越しでは、対面した場よりも得られる情報は少なく、家庭内で何が起きているかを十分に把握しきれませんし、危機的な状況が起きても、その場に支援者が介入していくことはさらに難しいものとなります。
それでも、オンラインだからこそ届けられる支援があるのも事実です。たとえば、肯定的な体験を増やすこと、安全・安心を感じながら話せる場があること、否定されない経験を積めること、自分のことを一緒に真剣に考えてくれる大人がいると知れること、同じ立場の人の言葉に触れて「当たり前だと思っていた◯◯って当たり前じゃなくて、しんどいって思ってよいし、人や支援を頼ってよい」「自分だけじゃない」と思えること。こうした積み重ねは、多くが子ども・若者にとっての肯定的な体験になると思いますし、オンラインでも可能なことだと考えています。家庭内で生まれている逆境体験をすぐに解決できなくても、できることの1つです。
また、オンラインで専門職と出会い信頼関係を築くことで、専門職に対する心理的ハードルが下がり、困ったときの選択肢の1つに専門職が入ってくるようなこともあるということは、活動を通して実感しています。
オンライン⇄地域の社会資源連携を強化したい
ただ、オンラインだけで支える形が理想かというと、そうは思いません。オンラインには限界があり、あくまでも選択肢の1つです。どちらかというと、当事者と地域の社会資源との間に入るハブなのではないかなと思っています。
オンラインだから出会える子ども・若者を、地域の社会資源とつなげていく。必要に応じて支援者同士で会議をしたり、メッセージで情報共有をしたりしながら、本人の安全を守りつつ連携を進めていく。そして最終的には、その子ども・若者が住む地域で、安全・安心な関係や支えの輪をどう広げていくかが大切であると思います。
もちろん、つなげること自体が目的にならないことはとても大切で、本人の同意はもちろん、タイミングや情報の扱い方も含めて慎重に設計しないと、子どもに不利益が返ってくる可能性があります。
オンラインと地域、それぞれの強みを活かしながら、子ども・若者一人ひとりを支えるネットワークを広げていきたいです。CoCoTELIとしても、2026年度はオンライン⇄地域の社会資源連携を強化していくことを目指しています。そのためにも、全国各地に精神疾患の親をもつ子ども・若者を応援する、一緒に支えていく仲間が欲しいなと思っています。
連携等の可能性を探らせていくことはもちろん、SNS等のシェアや子ども・若者への紹介、ご寄付など、さまざまな形でCoCoTELIの、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌づくりの、仲間になっていただけると嬉しいです。
次回以降も日々の活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。
また、今回は地方の課題を主に話してしまったので、都市部ならではの難しさについてもどこかで書けたらよいなと思います。
関連書籍
中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。
