精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第24回:年末年始のしんどさ
2026/01/07
みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、年末年始をテーマに書いていけたらと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
しんどい時期だった年末年始
年末年始、みなさんはどのように過ごしましたか?
「今年も終わるね」と言いながら笑って、家族や友人とご飯を食べて、紅白歌合戦を観て、0時の瞬間にお祝いする。世間が思い浮かべる年越しは、そんな「団欒」のイメージかもしれません。
今年の僕の年末年始は、人生で一番平和な年末年始だった気がします。母校のサッカー部が高校サッカー選手権で全国大会に出ていたので、高校サッカーを観に行って、年越しは実家に帰らず、友人たちと過ごし、年越しをしました。派手なことは特にしていませんが、「何も起きない」「トラブルが何か起きないか不安を感じなくてよい」ことがこんなにも平和なのか、と感じた時間でした。
過去の年末年始を振り返ってみると、多くが実家で過ごす時間でした。年末年始は学校も部活もないため、逃げ道が少なく、ずっと家にいて家族と過ごす時間が多くなります。
みんなでご飯を食べてテレビを観ていたら、家族が喧嘩して、暴れて、年越しする。「あけましておめでとう」より「どうか無事に終わってくれ」が先に来る。問題が起きなくても、何か問題が起きないか、ビクビクしながら年越しをする。そんな年越しを何度も経験してきました。そのため、年末年始のイメージは、イベントというより“耐える””しんどい”時期でした。
家族が前提として置かれやすいイベント。そこで起き得る痛み
この記事を読んでくださっている方にイメージがつきやすいように、僕の経験の話をしてしまいましたが、家が安全・安心な場所ではない/なかった子ども・若者にとって、年末年始はしんどさが増幅しやすい時期です。
帰省する、親戚が集まる、家で過ごす時間が増える。社会もそんなメッセージを発信する。つまり「家族と一緒にいなければならない」圧が強くなります。日常なら回避できた摩擦が、長時間の同居で避けづらくなる。支援機関も休みに入りやすく、相談先が閉まっている感覚も重なる。結果として、一人で抱える時間が長くなります。
さらに最近は、SNSの存在がこの時期の難しさをもう一段上げている気がします。友人の帰省投稿、家族写真、親戚の集まり、手作りおせち。タイムラインを眺めるだけで、「自分の家にはないもの」がくっきり見える。比べたくなくても比べてしまうし、比べた後に自己嫌悪する。家族仲の差が、視覚的に突きつけられるタイミングでもあります。
この構造は、年末年始に限りません。成人式、母の日、父の日など、“家族”が前提として置かれやすいイベントのたびに、同じ痛みが起こり得ます。周囲の盛り上がりや仲の良さそうな家族が見えるほど、「自分はそこに参加できない」感覚が強くなります。だから、イベントが近づくと気分が落ちたり、当日をやり過ごすだけで消耗したりする人がいます。
その人が選んだ距離感を尊重する
年末年始に話を戻しますが、年末年始に「帰省しない人」に対して「なんで帰省しないの?」「家族と過ごすものでしょ」といった言葉が投げかけられることも少なくありません。それを伝える人にとってその言葉に悪気がある訳ではなく、その人にとっては「年末年始=家族で過ごすイベント」であるからだと思います。
ただ、もしかすると「帰省しない」を選んでいるその人は、ただ冷たいのでも、ノリが悪いのでもなく、「自分を守る」ために最適な選択をしているだけかもしれません。
年末年始は、誰かにとっては祝祭で、誰かにとってはサバイバルです。その両方が同時に存在することを前提にできたとき、生きやすくなる人は必ず存在すると思います。帰省しない人に「理由」を求めるのではなく、その人が「選んだ距離感」を尊重する。そんな当たり前が増えることを願っています。
次回以降も日々の活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。
関連書籍
中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。
