精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第23回:親側の生きづらさ
2025/12/22
みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、「ライフステージの変化と葛藤」をテーマに書いていけたらと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
親御さんが支援を受けるハードルの高さ
精神疾患の親をもつ子ども・若者の支援にかかわっていると、親御さんが治療を受けていることや、行政や支援機関、医療や福祉のサービスにつながっていること、そして病気のことや現在の状況を子どもに対して話してくれることの意味の大きさを、日々実感します。
それらは、親御さん自身のメンタルヘルス不調に伴うさまざまな生きづらさが良い方向に向かっていく可能性を高めると同時に、家庭内、子どもにとっての安心や安全にも直結していきます。
一方で、親御さんがその一歩を踏み出すまでの道のりは、想像以上に険しいものです。
心や身体の調子が落ちているときに、役所や支援機関、民間団体に連絡をし、支援者に相談をすること、それ自体がとても大きな負担になります。電話をかける、窓口に行く、書類を書く。その一つひとつが高い心理的ハードル、負担となり、「今日は無理かもしれない」と感じながら、限界に近い状態でようやく相談に至る方も少なくありません。
また、親が子どもに病気の説明をすることもとてもハードルが高いように感じます。そもそも子どもが精神疾患/心の病気について知る機会が少ないために、1から説明が必要になること、精神疾患の偏見が強いために、変に子どもを不安にさせたくないという気持ちがあること、そもそもどう説明したらよいかわからないこと、といった不安や心配から子どもに病気の説明をすることのハードルはとても高いのではないか? と感じています。
実際に、子どもの約6割が親の病気について誰からも説明を受けたことがなかったというデータもあり、その背景には親御さん側の葛藤も大きくあるはずです。
NPO法人ぷるすあるはさんがまとめられている、病気のことについて伝えるのにも役立つ絵本などのコンテンツがあるので、興味のある方はぜひ見てみてください!
▶ ぷるすはるはさん
▶ 絵本など
また、社会のなかには「親は子どものために頑張るのが当然」「強くあるべき」「弱音を吐くのは甘えだ」といった価値観や規範が、今も根強く存在しています。精神的な不調に対するスティグマも重なり、「助けを求めること=親として失格なのではないか」「周囲に迷惑をかけてしまうのではないか」といった不安や罪悪感を抱えながら、日々を過ごしている親御さんも多くいます。
支援とつながらないことは本当に親の責任なのか?
そうした背景を考えると、支援につながらなかったことや、相談という行動を起こせなかったことを、単純に「親の責任」「努力不足」として評価することはできないはずです。むしろ、そこには構造的な壁や、社会全体がつくってきた生きづらさが存在しています。
しかし現実には、「親が悪い」「子どもがかわいそう」というわかりやすい言説のほうが、社会に広がりやすい傾向があります。対立構造は理解しやすく、感情的にも訴えやすいため、注目を集めやすいのかもしれません。ただ、その構図が強まれば強まるほど、親御さんはますます声を上げづらくなり、支援から遠ざかってしまいます。
同時に、親を悪者にしたくない、家族を守りたいと感じている子どもたちもまた、支援につながりにくくなります。「親のことを話したら親が責められるのではないか」「家族が壊れてしまうのではないか」という不安が、相談へのブレーキになるからです。結果として、誰も得をしない状況が生まれてしまいます。
また実際に、家庭のなかで大人の不調を補う形で、子どもが家事や情緒的なケアを担っているケースは少なくありません。その状況をどう捉えるかは、かかわる専門職・支援者の視点によって大きく左右されます。親御さんのしんどさに共感しつつ、同時に子どもが背負っている役割や負担にも目を向け、「それは一人で抱えなくてよいことだ」と共有してもらえる経験は、親子双方にとって大きな支えになります。
だからこそ、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行う一人として、子どもの困りごとだけでなく、親の立場にある方々が抱える葛藤やしんどさにも、もっと光が当たる社会であってほしいと願っています。親御さんが弱さを見せたり、助けを求めたりすることが、責められる行為ではなく、尊重され、支えられる行為として受け止められること。それが結果的に、子どもたちの安心や未来を守ることにもつながっていくのではないでしょうか?
子どもと親を対立させるのではなく、どちらの声も大切にしながら、支援の輪を重ねていくこと。その必要性と可能性を、これからも丁寧に伝え続けていきたいと思います。
次回以降も日々の活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。
関連書籍
中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。
