精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第22回:ライフステージの変化と葛藤

2025/12/05

 みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。

 

 第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、「ライフステージの変化と葛藤」をテーマに書いていけたらと思います。

 

著者

平井登威(ひらい・とおい)

2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。

 

NPO法人CoCoTELI

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節目と葛藤

 進学や就職、離家、結婚など、ライフステージの変化の際、それぞれのタイミングで悩みがあった方は少なくないのではないでしょうか?

 

 そんなライフステージに伴う悩みや葛藤のなかには、精神疾患の親をもつ子ども・若者特有のものもあるかもしれません。

 

 たとえば、進学や就職を機に家を出ようとするとき。

 

 「家を出ることは、親を見捨てることになるんじゃないか?」
 「自分が家を出たら、喧嘩の仲裁も薬の管理も、誰がやるの?」
 「あなたがいなくなったら生きていけない、と言われた」

 

 こうした声は、CoCoTELIに寄せられる相談のなかでよく耳にします。

 

 最近では、「ヤングケアラー」というワードを聞くことが増えましたが、生活のなかで家族が日常的にケア役割を担わざるをえないことも多くある社会であるのが現状です。そして、そんな役割はライフステージの変化の場面で重くのしかかってきます。


17〜21歳の相談

 CoCoTELIには、17〜21歳の相談がとても多く寄せられます。
 ちょうど進学・就職・アルバイト・一人暮らしなど、さまざまな選択を迫られる時期です。

 

 精神疾患の親をもつ子ども・若者たちのなかには、親の体調の波をできるだけ予測可能なものにしようという意図から、

 

 ・親が不安になりそうな話題は避ける
 ・自分の希望を伝える前に「これを言うと親はどうなるか」を先に考える
 ・家の空気を荒立てないため、感情を抑えるのが習慣になる

 

などという行動・考えをとり、「自分をガマンすること」が当たり前になっていることも多くあります。加えて、多くの子ども・若者は、支援機関への相談に不安を抱えています。

 

 「支援が家に入ることで親がより不安定になるかもしれない」
 「家庭のことを知られすぎると、今まで我慢することで保ってきたバランスが崩れてしまう」
 「親が責められたと感じてしまうかもしれない」

 

 この“現実的なリスク感覚”が、相談をためらわせます。

 

 だからこそ、

 

「何も言わずに自分が耐える」

 

という生存戦略が合理的な選択になっていきます。


ライフステージの変化は「波が立つ」タイミング

 そんななかで迎える進学・就職・離家といった転機。

 

 特に「家を出る」場面では、それまで何とか保ってきた家庭内のバランスが大きく動きます。

 

 ・自分が担ってきたケアの役割を手放すことになる
 ・耐えるだけでは対処しきれない現実が出てくる

 

 そんな、子どもにとっても親にとっても、波風が立つことが避けられないタイミングで、これまで見ないようにしてきた感情が一気にあふれることがあります。

 

 「家を出たら親を裏切ることになるのでは」
 「自分だけ幸せになっていいのかわからない」
 「でも、このまま家に縛られるのもしんどい」
 「親から命にかかわる言葉を投げかけられた」

 

 進学や就職の選択そのものが、他の同年代とは違う重さをもち始めます。


皆さんと一緒に考えていけたら嬉しいです

 ライフステージの変化や家族との距離の取り方、離家のプロセスは、どれも簡単なものではありません。抱えている不安やしんどさは、若者一人で対処できる量を超えることも多くあります。

 

 だからこそ、CoCoTELIとして、そしてこの連載を通しても、ライフステージの変化に寄り添った子ども・親双方に対する支援のあり方を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

 

 次回以降も日々の活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。


関連書籍

 中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。