精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第13回:精神疾患の親をもつ子どもをひとりにしない〜CoCoTELIの活動〜

2025/07/31

 みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。

 

 前回は、NPO法人化してすぐに行ったクラウドファンディングと、そこで出会ったさまざまな声について書いてきました。第13回となる今回はNPO法人CoCoTELIの活動について紹介したいと思います。

 

著者

平井登威(ひらい・とおい)

2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。

 

NPO法人CoCoTELI

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安全・安心を感じながら、「自分」を主語に話せる場所を目指して

 「似た経験をしている人が、ほかにもいるなんて思ってもいなかった」

 

 これは、私たちNPO法人CoCoTELIが出会う子ども・若者からよく聞く言葉です。

 

 精神疾患の親をもつ子どもや若者は、幼い頃から家庭のなかで「親・家庭の感情や調子を優先する」「自分の気持ちを抑えて家族に迷惑をかけないようにする」といった“空気を読む力”を無意識のうちに身につけていることが少なくありません。それはもしかしたら、子どもが自分と家庭を守るために身につけた、ある種のサバイバル術なのかもしれません。

 

 CoCoTELIでは、そうした子ども・若者たちに、「安全・安心を感じながら、自分を主語に話せる場所」と「必要としたときに必要とする支援を受けられるきっかけとなる場所」を目指して日々活動しています。

 

 このテーマはまだ社会から十分に認識されておらず、当事者が支援につながることも容易ではないため、ファーストステップとして居住地の関係ないオンライン上で相談支援や居場所づくり、情報発信等を行っています。


オンラインの居場所

 オンラインの居場所は、Slackというチャットアプリを使い、家族の悩みや愚痴、相談、趣味の話などを投稿したり、リアクションやコメントを通じて気軽にやりとりできる場です。

 

 

 また、Zoomを活用した交流会や外部ゲストを呼んだ「セルフケア」や「お金」「キャリア」などをテーマとしたイベント、「実家と縁を切りたい/切った人の会」や「好きなことを語る会」など、当事者の「やりたい!」を形にするイベントも月に10回前後開催しています。


相談支援

 相談支援は、相談者である子ども・若者と、それを支えるピアスタッフ、そして専門職の三者で行うことを基本としています。「相談者+ピア+専門職」という三者構成は、精神疾患の親をもつ子ども・若者が経験している多様で複雑な困りごとに寄り添い、安心して関係を築き続けられる支援のかたちとして、大切にしている枠組みです。ピアと専門職の融合の可能性はCoCoTELIの活動を通して強く感じているため、連載のなかでもお伝えできたらと思います。

 

 オンラインでの取り組みには、居住地や交通費に関係なく出会える、という大きなメリットがある一方で、オンラインだからこその限界も感じています。たとえば、安心・安全を感じながら話せる信頼できる大人とつながることで肯定的な体験を増やすことはできても、逆境体験そのものを減らすようなアプローチには、オンラインだけではどうしても限界があります。

 

 そのため、ソーシャルワーカーが中心となり、子ども・若者が住む地域の支援機関との連携を通してオンラインとオフライン、どちらか一方ではなく、その両方を行き来しながら支えるということも大切にして活動をしています。

 


Webメディア

 「相談しなくてもよい」というメッセージを掲げながら、精神疾患の親をもつ子ども・若者に向けた情報発信を行っています。

 

 「本当は誰かに相談したい」「助けてほしい」と思っていても、実際に相談するには大きなハードルがあります。相談の場に行くことそのものが怖かったり、過去に相談したことで余計に傷ついた経験があったりする子ども・若者も少なくありません。

 

 そんな子ども・若者にとって、「相談する・しない」という選択肢を本人が自由にもてること、そして相談しなくても安心できる情報や居場所があることがとても大切だと私たちは考え、当事者たちのリアルな経験談を「匿名・顔出しなし」で届けるストーリー記事、「社会保障」や「セルフケア」「子どもの権利」など子ども・若者が知っておくことで助けになるかもしれない情報をテーマに、専門家の方に記事で解説いただく事実記事、当事者や支援者の方をゲストにお迎えし、経験談や必要だと考える支援などについて各回30分弱お話し、多様な声や知識を届けるPodcastを運営しています。

 

▼メディアはこちら

https://cocoteli.com/media

 

▼Podcastはこちら

https://open.spotify.com/show/56VKkLPMezRtSKZO6UTDJ5?si=d124398b4bbd46cf

 

 

 現在、CoCoTELIは精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌づくりのファーストステップとして上記のような活動をしています。そんな活動を通してたくさんの課題感があるので、そんな課題感を次回以降の連載では数回に分けてお伝えしていけたらと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いします!