精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第12回:たくさんの応援に勇気づけられたのは自分たちだった
2025/07/17

みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
前回は、学生団体として感じた限界からNPO法人化までを書いてきました。第12回となる今回は、NPO法人化してすぐに行ったクラウドファンディングと、そこで出会ったさまざまな声について書いていきたいと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
クラウドファンディングを行ったきっかけ
NPO法人化し、支援活動を本格的に進めていく決断をしたものの、活動を継続・発展させるためには、目の前の活動費、つまり資金を集めていく必要がありました。
しかし、第11回でも触れたように、私たちが取り組んでいる「精神疾患の親をもつ子ども・若者支援」の領域では、受益者が子どもであり、本人に経済的な余裕がないことが多く、また親子関係に悩みを抱えるケースも少なくありません。そのため、学習塾のように親が対価や利用料を支払うモデルは成立しにくいのが実情です。
さらに、この領域は現在の公的な支援の枠組みにも組み込まれておらず、公的資金の対象にもなっていません。そのため、民間モデルとしての持続性を求められながらも、公的支援の網にもかからないという「狭間」にある問題であるともいえます。
こうした状況のなか、私たちは民間のNPO等を対象とした助成金に応募したり、寄付を募ったりしながら、活動資金を確保しつつ運営を行っていく必要がありました。
とはいえ、学生団体時代は主にアルバイトで得た資金を持ち出して活動していたため、本格的に「お金を集める」という経験はほとんどありませんでした。
そこで、民間の助成金に応募するのと同時に、クラウドファンディングに挑戦し、立ち上げ期2年間の活動資金を集めることを決めました。クラウドファンディングは単に資金調達の手段としてだけでなく、私たちの取り組む課題について多くの人に知ってもらい、共に考え、行動していく仲間と出会うきっかけになればという思いもありました。また、それが子ども・若者たちとの新たな出会いにつながっていく可能性もあると感じ、準備を始めました。
クラウドファンディングを通して勇気づけられたのは自分たちだった
約1か月半の準備期間を経て、クラウドファンディングを実施するための体制が整いました。
この間、多くの方に文章の確認をお願いしたり、メッセージでご助言をいただいたりと、準備は限られたメンバーだけではとても進められなかったと実感しています。「CoCoTELIクラファン秘密基地」というグループも立ち上げて、定期的に相談ミーティングを開きながら、一歩ずつ形にしていきました。
そのミーティングには、本当に多くの方が参加してくださり、アイデアを出してくれる人、アドバイスをくれる人、それぞれの立場から全力で応援してくれる姿に、何度も背中を押されました。
参加してくれたのは、当事者の方、支援者、会社員、個人的な知人など、本当に多様な方々で、誰一人として「関係ない人」なんていなかったと思います。
正直、見切り発車だったので設計が甘く、ご迷惑をかけたこともあり反省が大きいのも事実です。空気が一瞬で凍りつきそうになる場面も、何度かありました。それでも、「一緒にやろう!」と寄り添ってくれた皆さんのおかげで、どうにか準備をやり切ることができました。
そして迎えたクラウドファンディング本番。結果として、約60日間で562名の方から、合計5,749,500円ものご支援をいただくことができました。数字以上に、人のつながりの力を感じる挑戦だったと思います。
以下はクラウドファンディングの際にいただいた応援コメントの一部です 。
私も、今振り返ると、母の精神的不調に怯えながら、子ども時代を過ごしていました。ただ、そのこと以上に苦しかったのは、22歳になるまでに、母のことを誰にも相談できずにいたことでした。
現在、教員をしています。少しでも、家族に関する悩みや苦しさを声にすることができ、適切な社会支援につながることができる、安全な学校環境や社会になるよう、自分にできることを私も頑張ろうと思います。
CoCoTELIに私も助けられました。
今、家族と自分を切り離しながらも、家族を大事にしたいと心から思えるようになりました。
未来の子どもたちが、少しでも自分の人生を自分で作っていけるようになったらいいなと思います。
今後の活躍をお祈りしています。頑張ってください!
クラウドファンディングを通して、本当に多くの声を、さまざまな立場の方からいただきました。
期間中にはトラブルが重なり、何度も心が折れそうになる瞬間がありました。それでも、たくさんの方が応援してくださったことで、むしろ私たち自身が勇気づけられていました。ご寄付やシェアをはじめ、さまざまなかたちで支えてくださった皆様に、改めて心からの感謝を伝えたいです。
こうしてクラウドファンディングを終え、多くの応援を受け取ったことで、専門職の方々とも連携しながら活動を進められる組織体制を整えることができ、CoCoTELIとしての本格的なスタートを切ることができました。
今回はここで一区切りとなりますが、次回以降はCoCoTELIが日々どのような活動を行っているのか、そして現場で感じている課題についてもお伝えしていく予定です。
改めて振り返って
当時は、「法人化をしたはいいけれど、これからどう進めていけばいいのか」と戸惑いと不安でいっぱいだったことを今でも鮮明に覚えています。そんななかで、皆さんからの応援が大きな支えになり、一歩踏み出す力をもらいました。
もちろんその道のりは遠く、簡単なことではありません。NPO法人化のタイミングは、そこに取り組む覚悟を固めていくタイミングだったように思います。
あのときの声や応援があったからこそ、今もこうしてチャレンジを続けることができています。本当にありがとうございます。
その感謝の気持ちを胸に、これからも地道に、でも確かな歩みを進めていきます。
次回からは、CoCoTELIの活動現場のリアルや、支援の中で見えてくる課題感について綴っていけたらと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いします。