精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第26回:「次男になりたい」を観て考えたこと①

2026/02/10

 みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。

 

 第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていますが、今回からは、最近話題になったテレビ番組「探偵!ナイトスクープ」を観て感じたこと/考えたことを、数回に分けて書いていきたいと思います。

 

著者

平井登威(ひらい・とおい)

2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。

 

NPO法人CoCoTELI

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話題になった、探偵!ナイトスクープの「次男になりたい」回

 本連載を気にかけてくださっている方の中には知っている方も多いかと思いますが、先日放送された「探偵!ナイトスクープ」のヤングケアラーに関する回がSNS上を中心に非常に大きな話題となりました。

 

 SNS上ではこの話題に関してさまざまな意見が溢れかえり、その関心の高さを物語っているように感じました。そして後日、番組公式サイトから本件に関する声明が発表され、TVerでの配信が中止となる事態にまで発展し、1つの議題として数日間ヤングケアラーが取り上げられることとなりました。

 

 今回の話題がきっかけで、ヤングケアラーに関する議論が広がったことだけでなく、「ヤングケアラーと聞いてイメージされやすい障害等の状況がなくてもケアの可能性があるということ」「家庭の経済状況が良いことと家庭環境が良いは、=(イコール)で結びついてないこと」などが見え、多くの人にそのイメージが広がったことは大きな意味をもつはずです。

 

 しかし、その反響の大きさゆえに、「保護をしろ!」「最低な親だ!」などさまざまな意見が交錯し、時に対立する場面も多く見受けられました。また、今回の場合であれば、長男さんや兄弟のみんな、両親、そのほか親戚も含めた家族に、「かわいそう」「許せない」などの感情が直接向けられる可能性もあります。そのように話題になればなるほど1つの家族が消費され、実生活に不利益が生じることへの懸念も感じているので、そこについて書いていけたらと思います。


僕たちはすべてを知らない

 大きな反響を受け、探偵!ナイトスクープの公式サイトは当該放送に関する声明を発表しました。その中で、視聴者から特に問題視された場面について、以下のように説明しています。

 

▼1月23日放送回に関して

 

>当該放送において、普段は基本的に家にいて家事・育児を担当している父親が乳幼児を残して外出する場面、および当該VTRの最後に母親が、「米炊いて、7合」といった発言は、番組の編集・構成上の演出として表現したものです。(探偵!ナイトスクープ 公式サイトより。2026年2月9日閲覧)

 

 さらに、放送された依頼文についても言及がありました。

 

>また、長男からの依頼内容の一部「正直、長男やるの疲れました。生まれてから長男しかやったことがないので一日だけでもいいので次男になりたいです。探偵さん、ぼくの代わりに長男やってくれませんか?」については、取材・制作の過程において、依頼原文の主旨をもとに番組側とご家族で内容を確認・相談したうえで、放送用に構成・改稿したものです。依頼原文は、依頼者のご家庭においては、「家族8人みんなで家事や育児を協力しあって頑張っているが、他の兄弟よりも僕が一番頑張っている。他の家族の子供と比べてどうなのか調査して欲しい」という趣旨の依頼でした。放送された依頼内容は、限られた時間の中で企画意図を伝えるために整理した表現であり、ご家庭の日常や関係性のすべてを示すものではありません。(探偵!ナイトスクープ 公式サイトより。2026年2月9日閲覧)

 

 このような声明を見ても、当該放送等の限られたものから視聴者が得られる情報は、この家族の実情のごく一部でしかなく、僕たちはすべてを知らない、ということを前提とする必要があると思います(ご家族のInstagram等も話題になっているかと思います)。

 

 その上で、個人的には今回家族が実名・顔出しで出演したことにより、出演されたご家族の実生活に不利益が生じる可能性が大きくあるかと思います。

 

 実名・顔出しの放送だったからこそ、放送のインパクトがあり、ここまで話題になったというのは事実であると思いますが、ネット社会において一度出た情報はデジタルタトゥーとして残る可能性が大きくあります。

 

 今回の件でいえば、長男さんのことを応援されるような反応も多く見受けられ、長男さんが大人に対して肯定的な気持ちをもつ可能性ももちろんあります。しかし、実名・顔出しによってケアラーとして認識されたことで、実生活の友人関係やご近所付き合い、親御さんの会社等においてもさまざまな影響があることが考えられます。また、本人が放送からすぐ感じる気持ちと5年後同じ出来事を見返した気持ちが変化することも当たり前にあるはずです。

 

 それらは良い方向に進むこともあれば、一生背負わなければならないものとなり、悪い方向に進むこともあります。だからこそ、ヤングケアラーや精神疾患の親をもつ子ども・若者といった経験をしている当事者たちについてメディアが扱うときの実名・顔出しにおいては慎重になる必要があると思います(今回の場合は、番組が「ヤングケアラー」と意図して放送したか否かはわかりませんが)。


今回の件と少し色は違いますが、実名・顔出しに対する考え

 

 また、ヤングケアラーやその家族は、ケアラーとしての側面以外の役割も当たり前に有しています 。だからこそ、「ケアラー」という1つの側面だけが強調されることによる、誤ったケアラー像が社会に広がる懸念もあるかと思います。

 

 そんなことをつらつらと書いてきましたが、自分がもし番組制作側にいたら事前にこういったリスクを把握し、対応できたのか? と言われると話題になるまで気づけなかったかもしれません。外野から言うのは簡単です。

 

 今回、このような形で話題になったからこそ、メディアだけにかかわらず、ヤングケアラーや子どもを取り巻く困難を扱う際の当事者の(子どもだけでなく家族も含め)プライバシーの扱い方の認識が変わっていくと良いなと思います。

 

 次回も探偵!ナイトスクープを見て考えたことについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。


関連書籍

 中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。