看護における「倫理的もやもや」への向き合い方 第5回 倫理的な組織づくりに必要な視点

2026/09/28

 看護の現場で「これでいいのだろうか」と倫理的ジレンマ(もやもや)を感じることはありませんか。この連載では、病院や訪問看護での倫理的課題の事例を取り上げ、解決に向けたプロセスを「悩み方」として紹介します。
 最終回となる第5回は、連載を振り返り、日々のケアに活かせる「臨床倫理の悩み方」の実践と、倫理的な組織づくりのポイントを紹介します。


[著者]
佐藤 晶子(さとう・まさこ)

聖隷三方原病院看護部 専門・認定看護室 看護課長
老人看護専門看護師
 


「これでいいの?」をきっかけに

 「家族が身体拘束をしてでも経管栄養をして生きてほしいと希望する」「身体拘束はしたくないが、転倒や窒息・誤嚥させるわけにはいかない」「本人は家に帰りたい、家族は一人で死なせる訳にはいかない…と悩む。医師は施設入所を勧める」――このような場面で「何かおかしい」「これでいいの?」と悩んだり、違和感を感じたとき、大切なのは、その悩みや違和感(倫理的もやもや)をうやむやにしたり個人で抱え込むのではなく、まずは声に出して誰かに話し、医療・ケアチームで共有し、悩み、考えることです。
 今回は、連載をとおして学んできた悩み方(倫理的課題の検討プロセス)をふり返り、それを日々のケアや組織づくりにどう活かすかを考えます。


日々のケアに活かす「最強の悩み方」の実践

 悩みや違和感(倫理的もやもや)を多職種で共有し、話し合うためのステップが5つのプロセスです。

 

1)事例の中の情報から事実や価値を明確にする : 4つの視点での情報整理

臨床倫理の4分割法

医学的適応
 医師の見立て(病気の状態)

本人の意向
 本人のことばや行動

QOL
 その人らしい暮らし、心地よさ

周囲の状況
家族の思い、病院・施設・地域でできること

 

【ポイント】

 客観的事実と、私たち(医療・ケアスタッフ)の「〜だろう」という推測(価値判断)を区別することです。そして、本人の意向や本音を多職種で共有することです。例えば、ケアのふとした時の発言や表情(笑顔や嫌そうな顔)も大変重要な情報です。

 

2)(倫理的)課題の抽出 : 問題の整理

 整理した情報の全体をもう一度眺め(俯瞰)、どんな対立やジレンマがあるのかを言語化し問題を整理します。
 倫理4原則(自律尊重、無危害、善行、公正)で考えると、多くの場合、以下の3パターンに分類されます。

・善行 VS 無危害
 例:生命維持(善行) VS 身体拘束による苦痛(無危害)
・自律尊重VS無危害(善行)
 例:本人は家に帰りたい(自律尊重) VS 家に帰ると転倒が危ない(無危害)、施設入所が安全(善行)
・自律尊重VS公正
 例:本人は身体拘束されたくない(自律尊重) VS スタッフひとりが見守り・付き添うと他患者のケアに影響する(公正)


3)選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討する : 解決方法を考える

 問題の解決方法(選択肢)をできるだけ多く出し合います。
【ポイント】
 まずは、実現できるかは問わず、広く豊かな発想・視点で意見を出し合います。その後、それぞれの良い点、悪い点、課題点を考えます。

 

4)患者の最善の利益の視点から、具体的行動やケアを検討する

 その患者の病状(医学的適応)や周囲の状況(家族や医療・ケア資源など)、価値観(QOL、本人の意向)の視点から、「本人にとってこれが良いだろう」と考える解決方法(一つに決めなくてもよい)を選びます。その中で、誰が何をどのようにするのか(例:A医師が本人と長男に経鼻胃管栄養と胃ろうのメリットとリスクについて、パンフレットを用いて説明するなど)具体的に決めていきます。

 

5)実践した内容と結果 : 反応の確認と話し合いの継続

 話し合いだけで終わらせず、計画したケアを実践し、患者や家族の反応を確認します。
【ポイント】
 人の意思は揺れ動くものであり、「一度決めたから」とその方針に固執せず、相手の気持ちや状態の変化に応じて、繰り返し話し合う、検討する姿勢、プロセスが大切です。

 

倫理的課題の抽出

 スタッフ個人の「悩み方」を支え、より良いケアにつなげるためには、組織としての基盤づくりが不可欠です。

 

【視点1】 言っても大丈夫(心理的安全性の確保)

 「こんなことを言ったら否定される? 取り合ってもらえないのでは?」と不安がある環境では、倫理的課題は表面化しません。「患者さんの気持ちや尊厳を大切にしているからこそ、悩みや違和感を感じる」という風土の醸成が、倫理的な組織づくりの第一歩です。

 

【視点2】多職種で話し合う、ちょっとした時間の活用

 医師、看護師、リハビリ職、介護職など、異なる視点を持つ専門職が集まることで、情報や解決方法はより豊かになります。それがなかなか難しい場合は、わざわざ会議を開かなくても、申し送りや休憩時間のちょっとした時間を活用し、臨床倫理の4分割法の視点(病気、本人、生活、家族)を意識し話し合うだけでも、もやもやの解決やよりよいケアにつながります。

 

【視点3】倫理原則やガイドラインに慣れる

 倫理4原則(自律尊重・善行・無危害・公正)の視点から問題を整理し、厚生労働省や学会の関連するガイドラインがないかを検討して内容を確認することは、「悩み方」の欠かせないポイントです。倫理原則やガイドラインを道しるべ、物差しとして使うことを何度も繰り返すことで、倫理的問題解決の方法(思考プロセス)を理解でき、身についてきます。

 

おわりに

 「最強の悩み方」は、最初は難しく感じるかもしれませんが、「迷ったときの『地図』」です。この連載で紹介したプロセスを繰り返し、日々のケアの中で「最強の悩み方」を実践してみてください。その積み重ねが、患者の意思や尊厳を守り、倫理的な組織を創り上げる基礎となります。