看護における「倫理的もやもや」への向き合い方 第1回「もやもや」の正体、悩み方の基本

2026/03/03

 看護の現場で「これでいいのだろうか」と倫理的ジレンマ(もやもや)を感じることはありませんか。
 連載『看護における「倫理的もやもや」への向き合い方』では、病院や訪問看護での倫理的課題の事例を取り上げ、解決に向けたプロセスを「悩み方」として解説。
 今の看護を振り返り、実践に活かせる内容を、5回連載でお届けします。


[著者]
佐藤 晶子 (さとう・まさこ)

聖隷三方原病院看護部 専門・認定看護室 看護課長
老人看護専門看護師


看護の現場における「もやもや」

 みなさんはどのような時にもやもやを感じますか?
 私は急性期病院で臨床倫理コンサルテーションチームに所属して、倫理に関する相談窓口を担当しています。相談内容は、「意識障害があり本人による意思決定が困難な場合、治療方針をどうするか」「医療者がよいと考える治療を患者が拒否する場合」「本人は自宅退院、家族は施設入所を希望する場合」「経口摂取が難しいが本人がどうしても食べたい、家族がどうしても食べさせたいと希望する場合」「転倒を繰り返す高齢患者への身体拘束」など、さまざまです。これらは現場でよくある「もやもや(倫理的課題)」です。
 一方、日常的なケアでは、嫌がっているのに押さえつけておむつを交換する、「おーい」と呼んでいるのに無視する、ケアをしながらスタッフ同士でプライベートな話をする、「トイレに行きたい」という患者さんに「おむつにして」と言う、「もう食べたくない」と言う患者さんに「もっと食べて」と食事を口に運ぶ……などといった場面でも、「何かがおかしい」ともやもやを感じませんか?
もしかしたら、もやもやを感じてもどうすることもできない…というもやもやを感じているかもしれません。


もやもやの正体

 なぜ、もやもやが生じるのでしょうか?
 もやもやは、自らの価値観と異なる事象を認識したときに生じる感覚です。

 

価値観:
物事を評価する際に基準とする、何に・どういう価値を認めるかいう判断

価値:
その事物がどのくらい役に立つかの度合い
道徳的価値、文化的価値、個人的価値、宗教的価値、専門的価値など

 もやもやを感じるときは、何らかの価値の対立やジレンマが生じていると考えられます。


もやもやの解決に向けて

 皆さんは、もやもやを感じたときどうしますか?
 ここでは、「もやもやを何とかしたい」「解決したい」と感じた際のヒントをご紹介します。

 

1)もやもやに気づき、誰か(仲間)に話してみる

 まずはもやもやに気づくことが、解決に向けた第一歩です。そして、そのもやもやを「業務が忙しいから、人手が足りないから仕方がない」とあきらめたり、うやむやにせず、まず誰かに話してみることをおすすめします。もちろん、安心して語れる場が必要ですので、心理的安全性が確保される職場環境づくりは管理者にお願いしたい点です。

 

2)自分の価値(観)に気づく

 そのうえで、相手の意見を聞いてみてください。「私もそう感じていた」「気がつかなかった」「そうかな?」などさまざまな反応があると思います。看護師は人間の生命、尊厳の尊重、人権擁護といった専門的(職業的)価値が共通基盤にあるため、個人差はあるものの、共感が得られやすいと考えられます。一方、医師や薬剤師、療法士、ソーシャルワーカー、地域のケアマネジャーや介護・福祉職などの他職種、同じ看護師でも療養型病院、施設や訪問看護ステーションなど所属が異なると、異なる視点や意見を持っているかもしれません。 
 例えば、経口摂取困難と判断された高齢患者が「どうしても食べたい」と希望した場合、「本人の希望を尊重する」(自律尊重:本人の意思の尊重)という考えと、「誤嚥や窒息、肺炎を起こすかもしれない」(無危害)という考えが対立します。これらはそれぞれがもつ価値により異なります。自分と異なる考え(価値観)に出会うことは、自分がなぜもやもやしていたのか、何を大切と感じているのか、自分の価値観に気づく機会にもなるのです。

 

3)倫理的課題の解決に向けた話し合いの方法(プロセス)

 前述したように、個人や職種、所属などの背景の違いなどによる価値の対立が生じている場合には、それぞれが自分の意見を主張しているだけではなかなか解決(合意)には至りません。そこで、倫理的課題の解決に向けた方法(プロセス)が必要になります。
 一例として、私が所属する病院では、臨床倫理4分割法倫理検討シートを作成し、倫理的課題の検討プロセスを示しています。


表 倫理的課題の検討プロセスと方法、ポイント

プロセス 方法、ポイント
事例の中の情報から事実や価値を明確にする Jonsenによる4分割法(図)を用いて情報を整理する
客観的事実と認識(考え・判断)を区別する
課題の抽出 情報を俯瞰し、さしあたって感じている倫理的課題を話し合う
関連する倫理原則を考える、背景にある価値に気づく
選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討する できるだけ多くの選択肢を検討する
患者の最善の利益の視点から、具体的行動やケアを検討する 選択肢を踏まえ、いつ、誰が、何を、どのようにするのか、具体的行動やケアを計画する
実践した内容と結果
(患者・家族等の反応)
計画した具体的行動やケアを実践し、患者・家族等の反応を確認し、評価する

図 Jonsenによる臨床倫理の4分割法

医学的適応 患者・利用者の意向
QOL 周囲の状況

 これらの話し合いの基盤には、倫理4原則や関連するガイドラインの知識が必要です。また、それぞれのプロセスのポイントを表に示しましたので、参考にしてみてください。
 この点については、次回以降、事例をとおして詳しくご紹介したいと思います。