看護における「倫理的もやもや」への向き合い方 第3回 事例検討 病院での身体拘束への対応②
2026/06/25
看護の現場で「これでいいのだろうか」と倫理的ジレンマ(もやもや)を感じることはありませんか。この連載では、病院や訪問看護での倫理的課題の事例を取り上げ、解決に向けたプロセスを「悩み方」として紹介します。
第2回
は、医療現場での身体拘束への対応について事例を挙げ、倫理カンファレンスでの情報整理と、倫理的課題の抽出までを説明しました。第3回では、その続きの検討のプロセスについて解説します。
[著者]
佐藤 晶子 (さとう・まさこ)
聖隷三方原病院看護部 専門・認定看護室 看護課長
老人看護専門看護師
Aさんは80代女性。誤嚥性肺炎で入院し、嚥下障害が悪化したため経鼻胃管チューブを挿入しましたが、自己抜去が続くため両上肢拘束が追加となりました。ところが、Aさんはこれに対し、涙ながらに中止を訴えています。
前回(第2回)
は、表1の倫理的課題の検討プロセスの①と②を解説しました。今回はその続きである③と④について解説します。
表1 倫理的課題の検討プロセスと方法、ポイント
| プロセス | 方法、ポイント |
|---|---|
| ①事例の中の情報から事実や価値を明確にする | Jonsenによる4分割法1)を用いて情報を整理する 客観的事実と認識(考え・判断)を区別する |
| ②(倫理的)課題の抽出 | 情報を俯瞰し、さしあたって感じている倫理的問題を話し合う 関連する倫理原則を考える、背景にある価値に気づく |
| ③選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討する | できるだけ多くの選択肢を検討する |
| ④患者の最善の利益の視点から、具体的行動やケアを検討する | 選択肢を踏まえ、いつ、誰が、何を、どのようにするのか、具体的行動やケアを計画する |
| ⑤実践した内容と結果 (患者・家族の反応) |
計画した具体的行動やケアを実践し、患者・家族等の反応を確認し、評価する |
Aさんの事例の概要
【入院前の様子】
身の周りのことは自立、食欲不振あり、認知症診断なし、要支援2
【家族】
夫は施設入所、長男・次男と同居
【既往歴】
高血圧
【入院の経緯】
誤嚥性肺炎のため入院、治療により肺炎は改善した。せん妄を発症したが軽快、食欲不振は継続。その後嚥下障害が悪化、経口摂取困難で代替栄養法が検討された。長男・次男の希望で経管栄養を開始したが、チューブの自己抜去が続き身体拘束(両手ミトンと両上肢拘束)を実施、Aさんは「これ(ミトン)を外してほしい」と涙ながらに訴える。
前回のおさらいです。多職種カンファレンスを開催し、「①事例の中の情報から事実や価値を明確にする」では、臨床倫理の4分割表を用いて、医学的適応(病気や治療、予後など)、本人の意向(Aさんの言動、意思決定能力など)、QOL(生活状況、Aさんの価値観など)、周囲の状況(家族背景、医療・ケアなど人的・物的環境)について、客観的事実に基づき、類推を避け、情報整理しました。
「②(倫理的)課題の抽出」では、倫理的課題(ジレンマ)として、「生命維持のための経管栄養の実施(善行) VS 身体拘束による苦痛(無危害)」が明らかになりました。そして、一見「家族の意向 VS Aさんの意向」が対立しているように感じますが、実のところ、Aさんの代替栄養法に関する意向は十分確認できていないことがわかりました。
選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討する
ここでは、倫理的課題解決に向け、できるだけ多くの選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討します(表1の③)。本事例では、主に代替栄養法の選択肢について検討しました(表2)。
表2 代替栄養法の選択肢とメリット・デメリット
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 経鼻経管栄養継続 | 生命維持に必要な栄養・水分を摂取できる、消化管を用いた自然な栄養補給、家族の意向が尊重される | 経鼻チューブの違和感・定期的な交換による苦痛、誤嚥性肺炎のリスク、食べる楽しみの喪失、身体拘束による苦痛 |
| 胃ろう造設 | 生命維持に必要な栄養・水分を摂取できる、消化管を用いた自然な栄養補給、定期的交換の頻度は少ない、転院先の拡大 | 造設術が必要(リスク)、瘻孔管理の必要性、定期的交換・抜去発生時受診が必要、下痢の可能性、身体拘束解除の可能性、誤嚥性肺炎のリスク、食べる楽しみがない |
| 少量のお楽しみの経口摂取 | 食べる楽しみがある、誤嚥性肺炎のリスク、身体拘束不要 | 生命維持に必要な栄養・水分補給ができない、衰弱し生命予後に影響 |
| 末梢点滴 | 水分が補給できる、「何もしない」より家族の心理的負担が少ない | 生命維持に必要な栄養補給ができない、衰弱し生命予後に影響、身体拘束の可能性 |
| 中心静脈栄養 | 生命維持に必要な栄養・水分を摂取できる | 感染のリスク、定期的交換の必要性、身体拘束、転院先が限られる |
| 何もしない | 家族等の心理的負担 | 生命維持に必要な栄養・水分補給ができない、衰弱し生命予後に影響 |
ここでのポイントは、実行できるかを問わず、できるだけ多くの選択肢を出すことです。そして、「Aさんにはこれがよいだろう」という個人の価値判断はいったん脇に置き、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを出し合います。
表2には一般的な内容を記載しましたが、例えば「感染リスクが極めて高い」場合は中心静脈栄養のデメリットは大きくなり、今後の療養先として「施設入所を希望」している場合は、施設により末梢点滴、中心静脈栄養は受け入れ不可、経鼻経管栄養より胃ろうの方が入所の確率が高いなど、個別の状況によりメリット・デメリットは異なります。この個別の状況に基づく選択肢のメリット・デメリットの検討が次の具体的な選択肢に影響します。
患者の最善の利益の視点から、具体的行動やケアを検討する
この段階では、③「選択肢を挙げ、メリット・デメリットを検討する」に基づき、どの選択肢が良いかを話し合います(表1の④)。しかし、ここで一つに決める必要はありません。まずは、
第2回
で触れた「Aさんの代替栄養法に関する意向、家族が『身体拘束をしてでも経管栄養をして生きてほしい』と思っていることをAさん自身がどう理解し感じているのか」をAさんに聞いてみることを提案します。
この提案(思考)は、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(以下、ガイドライン)2)に基づいています。
ガイドラインでは、人生の最終段階における医療・ケアの方針決定について、「本人の意思の確認ができる場合」は、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされたうえで「本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う」とされています2)。
まずは、Aさんに経管栄養について説明し、本人の意思を確認する必要があります。類推ではなく、Aさん本人に説明し、意向を確認します。その上で、Aさん・家族と話し合い、医療・ケアチームで方針を検討していくことが基本的な考え方となります。
実践した内容と結果(患者・家族の反応)
この段階では、Aさんに経管栄養について説明し、家族には「身体拘束をしてでも経管栄養をして生きてほしい」という希望があることを伝え、Aさんに経管栄養継続についてどう思うか聞いてみました(表1の⑤)。すると、Aさんは「毎日となると嫌だ」と返答しました。これらを医療・ケアチーム、家族と共有しました。その後、Aさんの全身状態が悪化し経管栄養が中止となり、身体拘束も解除、家族と話し合いを継続し誤嚥リスクを踏まえ、Aさんが希望する飲料にとろみをつけて少量口から摂取すること、家族の希望する末梢点滴を継続することになりました。
*
ガイドラインでは、本人の意思が確認できる場合のケア方針について、「時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である」2)とあります。意思は揺らぎ、変化するものであり、だからこそ繰り返しの話し合いが必要となります。
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以上、事例を用いながら倫理的課題解決のプロセスに沿って解説しました。具体的なプロセスが少しイメージできたでしょうか?このプロセスを繰り返し経験することにより、ポイントやコツがつかめて、倫理原則やガイドライン等の必要性を感じ、深めることができるのではないかと考えています。
次回は、在宅療養者の意思決定支援をめぐる倫理的課題とその解決プロセスについて紹介します。
引用・参考文献
1)Jonsen AR, Siegler M,Winslade WJ:Clinical Ethics, 9th ed.A Practical Approach to Ethical Decisions in Clinical Medicine.MCGRAW HILL EDUCATION.2022.
2)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.改訂 2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf
(2026年6月24日閲覧)
(掲載内容は架空の事例であり、実在の人物とは関係ありません)
