誌上ケース検討会 第101回 意識のない夫の横で涙に暮れる妻をどう理解し、支えていくか (2008年11月号掲載)

2026/03/31

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


スーパーバイザー

高橋 学
(プロフィールは下記)

 

事例提出者

Mさん(総合病院・MSW)

 

提出理由

 本事例は、入院患者Aさんの転院調整と妻の心理的サポートのために介入したケースです。
 依頼者である医師からは「退院促進」の役割を求められましたが、実際に、目の前に現れた妻は、転院を受け入れることも、ご主人の病状を受けとめることもできずに、自分を責めている状況でした。Aさんの病態は、術後2日目に低酸素脳症となり、呼吸はあるものの、コミュニケーションがとれない状況。妻は毎日泣いて過ごしている最中のかかわりでした。
 「夫はもういないんです」と喪失感でいっぱいの状況で、「妻の心理的サポートをしながらの生活再構築が不可欠」と考えていました。しかし実際は、妻のニーズがわからず、妻へのサポートができないなか、転院日を迎えてしまいました。
 妻のニーズは何か、MSWとして何ができたのかを振り返り、次の援助につなげていきたいと考え、本事例を提出いたします。

 

クライアントの状況

Aさん・72歳・男性

 

現病歴

 6月16日 胃がん手術施行。18日の夜間、入眠時に呼吸停止し低酸素脳症となる。その後も意識状態は変わらず、痛み刺激に両手足をわずかに動かすのみ。

 

身体状況

●移動:自力では不可。ストレッチャーにて全介助で移動。
●排泄:尿留置カテーテル、おむつ使用。
●栄養:鼻腔栄養。
●コミュニケーション:不可。

 

家族状況

 妻(68歳)と二人暮らし(長女は隣市に嫁ぎ、車で20分ほどのところに在住)。第1子を死産させており、そのときの妻の悲しみは強かった。その際にはAさんがサポートした。今まで大事な意思決定はAさんが行い、妻は従うという関係だった。「おしどり夫婦」と周囲からは言われ、何をするにも夫婦一緒に行動することが多かった。


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プロフィール

高橋 学(たかはし まなぶ)

1959年生まれ。早稲田大学大学院博士後期課程満期退学。東邦大学医学部付属大森病院、北星学園大学を経て昭和女子大学大学院福祉社会研究専攻教授。専門は、医療福祉研究、精神保健福祉学、スーパービジョン研究、臨床倫理など。