対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第23回 ふだん使いのカジュアルコーチング~前編~
2026/02/05
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
コーチングは、面談や会議といった「フォーマルな場」での対話だけでなく、実は日常の何気ない対話のなかでも効果的に活用することが可能です。
今回は、日々の短い対話で効果を発揮する「ふだん使いのカジュアルコーチング」について、具体的な事例を交えて解説します。
対話のなかに相手がいない!?
対話は一人では成立しません。キャッチボールのようにボールが行き交って初めて「対話」となります。自分の用件だけを一方的に伝えたり、相手の話を聞こうとしなかったりするコミュニケーションは、そこに「相手」が存在していないのと同じです。
日常会話において、こうした一方通行のやり取りは、互いの関係に微妙な亀裂を生じさせる原因となります。この問題を解消する対話が「カジュアルコーチング」です。日常的な短い対話にコーチングの鉄則やスキルの一部を活用することで、円滑な関係性を築くことに役立ちます。
次に、日常会話で活かせるカジュアルコーチングのNG例とOK例をみていきましょう。
「挨拶から先が進まない人」へのコーチング
挨拶はコミュニケーションの基本ですが、挨拶の後の対話が進まない人がいます。ここでは、挨拶直後に沈黙してしまいがちなAさんと、上司Bさんのやり取りを例に見てみましょう。
【NG事例:沈黙が威圧感を生むパターン】
Aさん:おはようございます。
Bさん:おはよう、Aさん。
Aさん:……(少しこわばった表情)。
Bさん:元気?
Aさん:あっ、はい……(小さな声で視線も合わせない)。
Bさん:大丈夫? 今日もよろしく頼むよ。
Aさん:…ぉ、お願いします。
Aさんは自らBさんに挨拶をしていますが、その後の対話が進みませんでした。会話に対する苦手意識や、「沈黙を作ってはいけない」「会話を途切れさせてはいけない」という焦りが強いと、逆に言葉が出てこなくなってしまうことがあります。結局、Aさんは自ら挨拶を始めたことを活かしきれず、Bさんの威圧的な雰囲気をつくり出しただけでした。
しかし、BさんのちょっとしたカジュアルコーチングでAさんを支援することができれば、お互いの対話が続き、Aさんの委縮した態度を楽しい雰囲気に変えることが可能になります。
【OK事例:承認のスキルで会話を弾ませるパターン】
Aさん:おはようございます。
Bさん:おはよう、Aさん。
Aさん:……(少しこわばった表情)。
Bさん:Aさんから先に声をかけてもらって嬉しかったよ、ありがとう。
Aさん:そ、そんな……(驚いた様子で視線が上がる)。
Bさん:ホントだよ。今日は朝からどんな気持ち?
Aさん:Bさんとお話しできて……、ちょっと楽しく仕事がやれるかなって感じです。
Aさんのこの劇的な変化の理由は、Bさんの「承認」のスキルにあります。
Bさんは、緊張しているAさんのマイナス面(こわばった表情など)を見るのではなく、「先に自分から挨拶をした」というプラスの行動に着目し、それを認めました(成長承認)。さらに「嬉しかった」「ありがとう」と感謝を伝えることで、Aさんの存在そのものを肯定しました(存在承認)。
Aさんが驚いて顔を上げたのは、自分の行動が認められたことでモチベーションが上がった証拠です。Bさんはその変化を見逃さず、「今の気持ち」を問うことで、Aさんから「楽しく仕事ができる」という前向きな言葉を引き出すことに成功しました。
このように、相手の緊張を解きほぐし、挨拶だけの関係から一歩踏み込んだ豊かな関係性を築くことこそが、カジュアルコーチングの醍醐味です。
双方向の対話が生む爽快感
カジュアルコーチングにおいて大切なのは、一方通行ではない双方向の対話を自然に続けることです。NG事例のように不全感やモヤモヤ感を残すのではなく、OK事例のような爽快感のある対話を目指しましょう。
日常的な短い対話であっても、コーチングの鉄則やスキルの一部(この場合は「承認」と「質問」)を活用することで、その場の空気は大きく変わります。 次回は、さらに難易度の高いシチュエーション――「言い訳ばかりする人」や「不機嫌な態度をとる人」に対するカジュアルコーチングについて解説します。

