対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第22回 よきファシリテーターとしてのコーチング~後編~
2026/01/23
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
前回は、ファシリテーターの基本的な役割と、なかなか意見が出ない場面でのコーチング手法を活用した介入の仕方について解説しました。
今回は、「参加者が感情的になってしまった場合」や「議論が脱線してしまった場合」について、どのように軌道修正し実りある議論へと導くか、会話例をもとに解説します。
ファシリテーターによる介入の実際 ~参加者が感情的になってしまったとき~
議論が白熱してくると、特定の参加者が感情的になり、冷静な話し合いができなくなることがあります。まずはNG事例から見ていきましょう。
【NG事例:特定の個人をなだめる・責任を負わせる】
司会:まだ発言していないAさんはどんな意見がありますか?
Aさん:皆さんの発言では管理者が悪いから成果が出ないと主張しているようで聞いていて不快です。
司会:どういうことですか?
Aさん:責任逃れをしているようで、自分にも何らかの責任があるのではないですか!?
Bさん:そんなことはないかと……。
Cさん:それはちょっと言い過ぎではないですか?
ファシリテーター:まあまあ皆さん、興奮しないで落ち着いてください。Aさんね、発言された方々は管理者がすべて悪いとは言っていませんよ。だから、Aさんも皆さんも機嫌を直して話し合いを続けてください。司会の方、よろしくお願いします。
この対応の問題点は、不穏な空気になった責任を「Aさんの感情的な発言」にあるとし、Aさんだけに注意を促している点です。「Aさんね、〜とは言っていませんよ」という言い方は、Aさんを否定しているように聞こえ、Aさんは引き下がれなくなってしまいます。これでは参加者間の溝が深まるばかりで、関係性の改善は期待できません。
次に、コーチングを活用した場合の会話例を見ていきましょう。
【OK事例:視点を変え、肯定的に承認する】
司会:まだ発言していないAさんはどんな意見がありますか?
Aさん:皆さんの発言では管理者が悪いから成果が出ないと主張しているようで聞いていて不快です。
司会:どういうことですか?
Aさん:責任逃れをしているようで、自分にも何らかの責任があるのではないですか!?
Bさん:そんなことはないかと……。
Cさん:それはちょっと言い過ぎではないですか?
ファシリテーター:今、Aさんから視点が変わる意見が出ましたね。『自分にも何らかの責任がある』という視点は、議論を広げたり深めたりするのにとても役に立つかもしれません。ここで、皆さん、私から質問してもよろしいですか? 百歩譲って、いや千歩譲って、Aさんの意見に一理あるとすれば、それは一体何でしょうか?
この対応には、2つの高度なコーチングスキルが隠されています。
①Aさんの発言を承認する
Aさんの「不快」「責任逃れ」といった挑発的な言葉に引きずられるのではなく、「自分にも責任がある」という部分に着目し、「視点が変わる意見が出た」と肯定的に承認しています。
ファシリテーターには「負の発言」に毒されることのないような中和行動が求められます。それには「負の発言」を爽やかに受け止めて、「正の発言」に着目することが大事です。ここでは、誰が正しいかではなく、何が正しいかに軸を置きます。
②「百歩譲って、いや千歩譲って」という配慮
この前置きは重要です。Aさんの意見を取り上げつつも、反発を感じている他の参加者の心情にも配慮し、「仮にそうだとしたら」というクッションを置くことで、全員が冷静に考えられる状況を作っています。
ファシリテーターによる介入の実際 ~議論が脱線してしまったとき~
次に、話が盛り上がっているものの、テーマとは関係のない話に脱線してしまった場合の対応です。場が冷めるのを恐れて介入をためらいがちですが、放置もできません。まずはNG例から見ていきましょう。
【NG事例:先生が生徒を叱るような介入】
Aさん:ところで、Bさんの職場ではハラスメント問題とかありますか?
Bさん:いわゆる管理者のパワハラで退職した人はいますよ。
Aさん:私の職場はセクハラがひどいのですよ。
司会:セクハラがあるのですか? どんな状況かぜひ聞いてみたいですね。
Aさん:ここだけの話ですよ、内緒にしてくれます? 実は……。
ファシリテーター:ちょっと、待ってください。いつの間にか話が脱線していますね。今はテーマに基づいた話し合いにしないとダメですよ。司会の方ちゃんとお願いします。
ここでのファシリテーターの発言は正論です。そのため、一見不自然さを感じない介入にも見えます。しかし、まるで「先生が生徒を叱っている」かのような状況を彷彿とさせ、 参加者を一方的に「悪者(ダメなことをしている人)」としてかかわっている点で、ファシリテーターが中立の立場を保っているとはいえません。注意された側にはわだかまりが残り、その後の議論のモチベーションが下がってしまうでしょう。
次に、コーチングを活用した場合の会話例を見ていきましょう。
【OK事例:Iメッセージと代替案の提示】
Aさん:ところで、Bさんの職場ではハラスメント問題とかありますか?
Bさん:いわゆる管理者のパワハラで退職した人はいますよ。
Aさん:「私の職場はセクハラがひどいのですよ」
司会:セクハラがあるのですか? どんな状況かぜひ聞いてみたいですね。
Aさん:ここだけの話ですよ、内緒にしてくれます? 実は……。
ファシリテーター:Aさん、話の腰を折るようで申し訳ありませんが、少しいいですか? 面白そうな話をしていますね。皆さんも興味がありますよね?。
司会:ええ、はい……そうですね。
ファシリテーター:それは十分わかります。ただ、今は演習中なのでテーマに基づいた内容で残りの時間の議論を進めていただけると助かります。特にAさんには盛り上がっているところに大変恐縮です。この続きは休憩時間等を利用していただけませんか? 皆さんのご理解とご協力をお願いします。
この介入には、参加者を尊重しつつ軌道修正するための工夫が詰まっています。
①まずは肯定から入る
いきなりダメ出しをするのではなく、「面白そうな話ですね」「興味がありますよね」と、盛り上がっている状況自体は肯定的に受け止めています。
② Iメッセージで伝える
「あなたたちは間違っている(YOUメッセージ)」と責めるのではなく、「私は本来の議論に戻してくれたら助かる」というIメッセージで伝えています。これなら、参加者には選択肢が与えられるので角が立ちません。
③現実的な代替案を示す
Aさんにも、「続きは休憩時間に」と選択肢(代替案)を提示すること、また参加者全員にも理解と協力を中立的な立場でリクエストすることにより、参加者の顔を立てつつ、無理のない軌道修正を行っています。
まとめ
以下の点を意識して、よきファシリテーターとしてコーチングの活用に役立てましょう。
・グループでの話し合いなどの介入時には、まずは相手の同意をとりましょう
・一方通行のティーチングではなく、双方向のコーチングによる対話のなかに、より適切な方向を見出すきっかけが生まれます
