対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第21回 よきファシリテーターとしてのコーチング~前編~

2026/01/08

 ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。

 

この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)

1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。


ケアマネジャーには、さまざまな研修において演習時のファシリテーターを務める機会があります。
しかし、専門的なファシリテーションのスキルを体系的に学ぶ機会は意外と少ないものです。そのため、「どう振る舞えばいいかわからない」「参加者から意見が出なくて困った」という経験を持つ方も多いのではないでしょうか。
今回は、ファシリテーターが陥りやすい罠と、「コーチングスキル」を活用したファシリテーションについて解説します。


ファシリテーターに求められる本来の役割

 まず、ファシリテーターとはどのような役割を担うべき存在なのでしょうか。
 演習におけるファシリテーターの主な役割は、進行を円滑にし、グループ全体が演習の目的を達成できるように「中立的な立場」からはたらきかけることです。発言が少ない人や逆に話を独占してしまう人がいたとしても、グループ全体の意見交換が活発になるように介入します。
 また、講師から指示されたルールを守り、議論がゴールに向かっているかをチェックして、必要に応じて軌道修正を行う役割も求められます。ファシリテーターは、基本的に「サポート役」に徹し、参加者の意見を最大限に尊重する姿勢が大切です。


ファシリテーターが陥りやすい「不適切な介入」

 しかし、実際の場面では、ファシリテーターとして不適切な態度や介入が散見されることがあります。以下は不適切な介入の例です。

 

・そばに立ってただ聞いているだけ
・話し合いが脱線していても何も注意しない
・特定のグループだけにしか介入しない
・演習中に巡視しないでファシリテーター同士でずっと談笑している
・喝を入れるつもりの説教が延々と続く
・下手な司会者や発言しない参加者に対して「なぜできないの?」と責める
・自分の経験談を自慢げに語る
・自分の意見としての「正解」を伝えてしまう

など

 

 これらの共通点は、コミュニケーションが「ない」か、あるいは「一方通行(ティーチング)」になっていることです。指導や助言が中心のかかわり方では、参加者のやる気を引き出すことは難しく、期待された役割を果たすことはできません。
 そこで有効なのが、参加者の主体性を尊重し、発言が活発になることをねらいとした「コーチング手法」です。


介入すべきタイミングとコーチングの基本

 ファシリテーターは、すべての会話を聞いて介入する必要はありません。介入すべきタイミングは、参加者間のコミュニケーションに着目したときに、対話が不自然であったり、関係性がぎこちないなど、参加者同士の関係性に違和感を覚えたときです。具体的には以下の3つのタイミングが挙げられます。
①意見が出ないとき
②発言が感情的になっているとき
③議論がまとまりそうにないとき
 今回は、この中から最も頻繁に起こりうる「①意見が出ないとき」の対応について、具体的なNG例とOK例を見ながら学んでいきましょう。


ファシリテーターによる介入の実際 ~参加者から意見を引き出したいとき~

 演習時に意見が出てこない場面はよくあります。まずはNG事例から見ていきましょう。

 

【NG事例:プレッシャーを与える介入】

司会:皆さんの意見はどうですか?
参加者:……。
司会:どなたか意見はありませんか?
参加者:……。
司会:私の意見は〇〇ですが、ほかの方はどうですか?
参加者:……。
ファシリテーター:さっきから意見が出ていませんね。司会者が困っていますよ。どんどん意見を言ってください。

 

 この介入はよく見かけますが、コーチングの視点ではNGです。 「司会者が困っているから意見を出しなさい」というメッセージは、参加者に誤解を与えかねません。また、「どんどん意見を言ってください」という言葉は、受け手によっては「指示」や「命令」、あるいは「強要」と受け取られ、負のプレッシャーとなってしまいます。

 

 次に、コーチングを活用した場合の会話例を見ていきましょう。


【OK事例:状況を承認し、主体性を引き出す介入】

司会:皆さんの意見はどうですか?
参加者:……。
司会:どなたか意見はありませんか?
参加者:……。
司会:私の意見は〇〇ですが、ほかの方はどうですか?
参加者:……。
ファシリテーター:ちょっといいですか? 皆さん、まだ始まったばかりで緊張感がありますね。司会の方はどう感じていますか?
司会:とても緊張しています
ファシリテーター:司会は緊張しますよね。意見が出にくい理由はほかに何かありますか?
司会:それは……、テーマに対してまだアイデアがまとまっていないのかもしれません。
ファシリテーター:そのようですね。では、どんな工夫ができそうですか?
司会:意見が出るまで待てばいいのでしょうか……正直もう精一杯で。
ファシリテーター:緊張のなか、答えてもらってありがとうございます。もう少し考える時間が必要ということですね。それでは、私から提案させてもらってもいいですか? 今から1分間、各自でこのテーマについて考えられる意見を思いつく限り書き出してみてはいかがでしょう。そのあとで、司会の方が議論を再開されてはどうですか?

 この対応には、いくつかの高度なコーチングスキルが隠されています。
① 介入の許可を得る
「ちょっといいですか?」と断りを入れ、相手の同意を得ることはコーチングの基本です。
②場の緊張感をほぐす
「緊張感がありますね」と伝えることで、参加者の緊張を解きほぐしています。
③ 司会者に問いかける
いきなり解決策を提示するのではなく、司会者が状況をどう感じているか、どうすればよいと思うかを問いかけ、司会者自身からアイデアを引き出そうとしています。
④提案し、判断を委ねる
最終的に「書き出す時間を作る」という提案をしていますが、それを押し付けるのではなく、「〜してみてはいかがでしょう」と提案し、採用するかどうかの判断を司会者に委ねています。
 このように、誰も責めることなく、司会者や参加者自身が答えを見つけ出せるように関わるアプローチを「コーチングカンバセーション」と呼びます。
 次回の後編では、さらに難易度の高い「参加者が感情的になってしまった場合」や「議論が脱線してしまった場合」の具体的な対処法について解説します。