対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第20回 相手のモチベーションを高めたいときのコーチング~完了感のあるコミュニケーション(パスコンプリート)~
2025/12/25
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
第19回では「相手にとって魅力あるビジョン」の設定方法について解説しましたが、今回は「完了感のあるコミュニケーション」(パスコンプリート)を活用した意欲向上の手法を解説します。
コミュニケーションを「キャッチボール」に例える
完了感のあるコミュニケーションとは、具体的にどのようなものでしょうか。
コミュニケーションは、例えるなら相手とのキャッチボールです。一つのボールのやりとりを相手と行うプロセスです。
キャッチボールを完了させる手順はとてもシンプルです。ボールを投げる相手に、「今からあなたにボールを投げてもよいですか?」と尋ねます。お互いに向き合ったときに、相手が受け取りやすいボールを投げます。そして、相手から返ってくるボールをしっかり受け取ります。ボールが行って返ってきて、これでコミュニケーションは完了します。
モチベーションを削ぐ「未完了なコミュニケーション」
「未完了」とは、投げたボールを受け取ってもらえないこと、または受け取らないことです。あるいは、受け取れないボールを投げつけられたり、投げつけてしまったりすることでもあります。
未完了なコミュニケーションは、コミュニケーションを始めたら必ず完了させるという意識が欠如している状態です。ここで未完了なコミュニケーションの典型例を見てみましょう。
【NG事例】事業所の新管理者と先輩の対話
新管理者:私にこの責任を果たせるのか心配です
先輩:そんな弱気なことじゃ、ダメですよ!
これはありがちな対話のシーンです。新管理者は「心配」という気持ちのボールを投げているにもかかわらず、返ってきたのは「弱気はダメ」という叱咤激励です。つまり、新管理者の「心配」のボールは受け取ってもらえていません。
この状況の落とし穴は、新管理者側は未完了で違和感や孤立感を少なからずもっている一方で、先輩側は必要な助言ができたと完了して満足している点にあります。この認識の不一致や、相手の感情に対する無頓着ぶりが、相手のモチベーションを次第に落としていく結果につながるのです。
未完了なコミュニケーションの3つの悪影響
未完了なコミュニケーションが引き起こす悪影響は多岐にわたり、否定的な感情を残し、モチベーションを下げてしまうことにつながります。
第一に、ボールを受け止めてもらえず、そのまま捨てられてしまうと、「なぜ無視されたのか」というよくない感情を残します。
第二に、青いボール(心配や懸念など、ある感情)を投げたのに、赤などの違う色のボール(叱咤激励や意見など、違う意図)が返ってくると、不信感や猜疑心が募り、相手は馬鹿にされている、大事にされていないなどと感じてしまいます。
第三に、次々とボールを一方的に連続して投げられると、受け手はそのボールを確実に受け取れないだけでなく、返す暇さえ与えてくれない苦しさや焦りに苛まれます。
この状態から抜け出す方法は、単純に「コミュニケーションを完了させる」ことです。
完了感のあるコミュニケーションの3つのステップ
完了感のあるコミュニケーションを実現するためのプロセスは、いたってシンプルで、以下の3つのステップがあります。
ステップ①受け止める準備を促す
まずは、相手に自分のボールを受け止める準備を促します。「話そう」「聴こう」としている対話の目的を明らかにし、「話してもよいか」「聴いてもよいか」という了解や同意を得ます。
ステップ②相手の思いや感情に意識を向けてキャッチする(聴く力)
次に、相手のボールに込められた思いや感情に意識を向けてキャッチします。 相手の言葉だけでなく、そこに込められた思いや気持ちにきちんと意識を向け、しっかりとキャッチできるかどうかが、まさにその人の聴く力といえるでしょう。
ステップ③相手が意図するボールを投げ返す(伝える力)
最後に、相手が意図するボールを投げ返します。 たとえば、「心配」のボールは、「叱咤激励」ではなく、「心配」のボールとして投げ返すことです。これが伝える力です。
相手が意図するボールを投げ返すことで、「自分の思いや感情を受け止めてくれた」という完了感が生まれます。この完了感の積み重ねが、強い信頼感や高い意欲を生み出すのです。
OK事例:完了感を心がけた対話
前述の新管理者と先輩の対話を、完了感を心がけて改善してみましょう。
【OK事例】事業所の新管理者と先輩の対話
新管理者:私にこの責任を果たせるのか心配です
先輩:新管理者としての責任に戸惑いを感じて、心配しているんだね
新管理者:そうなんです
先輩:私からあなたのために一言伝えてもいい?
新管理者:いいですよ
先輩:そんな弱気なことじゃ、ダメですよ!
これはありがちな対話のシーンです。新管理者は「心配」という気持ちのボールを投げているにもかかわらず、返ってきたのは「弱気はダメ」という叱咤激励です。つまり、新管理者の「心配」のボールは受け取ってもらえていません。
この状況の落とし穴は、新管理者側は未完了で違和感や孤立感を少なからずもっている一方で、先輩側は必要な助言ができたと完了して満足している点にあります。この認識の不一致や、相手の感情に対する無頓着ぶりが、相手のモチベーションを次第に落としていく結果につながるのです。
このOK事例では、先輩はまず新管理者が投げた「心配」のボールを受け止めて返し、一旦完了させています。そのうえで、改めて、「私から一言伝えてもいいか」と了解を得た後に、「叱咤激励」のボールを投げています。
こうした完了感を心がけたやりとりから信頼感が生まれ、高い意欲へとつながります。コミュニケーションを始めたら、必ず完了させることを意識してみましょう。完了感のあるコミュニケーションによって、信頼感が高まり、意欲向上につながります。これは、魅力的な目標やビジョン(前半記事で解説)と並び、相手のモチベーションを高める重要なポイントです。
まとめ
以下の点を意識して、相手のモチベーションを高めるコーチングの実践に役立てましょう。
- ・魅力的な目標やビジョンは相手のモチベーションを高めます
- ・完了感のあるコミュニケーションによって信頼感が高まり、意欲向上につながります
👉 第19回はこちら
