対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第19回 相手のモチベーションを高めたいときのコーチング~魅力あるビジョンの設定~

2025/12/11

 ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。

 

この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)

1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。


 対人支援の現場において、相手のモチベーション(動機、意欲、やる気)を高めるコーチングの手法として第17回、第18回は「傾聴」「承認」について紹介しました。今回は、意欲向上の手法として「相手にとって魅力あるビジョン」を活用したコーチングスキルを解説します。


目的、目標、ビジョンの関係を整理する

 最初に、目的、目標、ビジョンの関係性を整理しておきましょう(図1)。
目的:「ずっと追い続けるもの」であり、目指す対象、理念、価値となるものです。具体的には、「自分らしさの追求」や「幸せな人生を送る」などがこれにあたります。
目標:「達成可能なもの」であり、目的へと向かう線上に具体的な指標(道しるべ)として設置されるもので、数日から1年程度の短期間で設定されます。
ビジョン:未来の青写真であり、通常、3年から5年の長期間で設定されます。

 

▼図1 目的・目標・ビジョンの位置づけ

 

 目標を一つひとつクリアしていくことは、目的に向けて確実に前進していることを実感する機会となります。また、前進した達成感や成長体験を通して、モチベーションは一気に上がっていきます。


落とし穴:「目的と手段の逆転」に要注意

 目標設定のプロセスには常に落とし穴が潜んでいます。それは、目的に近づくための手段(目標)が、目的と逆転してしまうこと、すなわち「手段の目的化」です。この状態に陥ると、いつの間にか手段(目標)が目的に取って代わってしまいます。
 たとえば、「職場のモノを整理整頓し掃除する」という手段(目標)があったとしましょう。これは、当初「モノを探す時間をなくして効率のよい仕事をする」という目的のための取り組みだったとします。しかし、掃除を繰り返すうちに、「仕事の効率化」という本来の目的はどこかへ消えてしまい、職場を掃除すること自体が目的となってしまうことがあります。
 こうした状態に陥ると、なぜ掃除を繰り返しているのかということに迷いや不全感が生じ、高い意欲は維持できなくなります。このような場合には、「何のためにこの取り組みをしているのか?」という本来の目的を取り戻す「問いかけ」で、意欲を回復させる必要があります。


「しなければならない目標」から「真に達成したい目標」へ

 コーチングにおいて、目標の明確化は核となるプロセスです。しかし、相手に「目標は何か?」と問いかけると、多くの人が主に「しなければならない目標やビジョン」について話し出す傾向があります。
 たとえば、「毎月のノルマをこなす」「今月中に会議に必要な書類を整える」などがこれにあたります。「しなければならない目標」は、「できることならやりたくない」→「でも行動を起こさなければ自分にとって不利益なことが発生する」→「だから嫌でも仕方なくやる」といった動機や義務感からきています。これらは自分にとってマイナスとなる状況を回避するために必要最低限のことしかやらないという姿勢で、成果も低くなりがちです。しかし、これらの目標もマイナス方向ではありますが、行動自体を引き出すため、仕事には必要な要素ではあります。
 私たちがコーチングで扱うべきは、この「しなければならない目標」ではなく、相手が真に達成したい魅力的な目標です。これを明確化することで、確実に成果を引き上げることができます。
 「真に達成したい目標」とは、「達成することで、自分にとって魅力的な結果が得られる目標」ともいえるでしょう。真に達成したい目標で働く人は、しなければならない目標で働く人よりもモチベーションはかなり高くなります。プラスの結果を得ようと積極的にできることを探すため、より高い成果が見込めるのです。

 

組織目標との連動が鍵

 現実的な組織目標は、概ね「しなければならないこと」であることが多いです。そのため、同僚や部下の「真に達成したいこと」を明確化し、組織目標の「しなければならないこと」との接点や重なりについて、ともに考える時間をとることが大変重要になります。
 「しなければならない」目標が「真に達成したい」目標と連動したときのやる気や行動力の向上度合いは計り知れません。


真に達成したい目標を引き出す質問

 相手が本当に望んでいる魅力的な目標を引き出すためには、次のような質問が有効です。

 

【質問例】

  • • 「本当にその目標を達成したいと思っていますか?」
  • • 「その目標について毎日どれくらいの時間を割いて考えていますか?」
  • • 「その目標を達成するためにどのような行動をとってきましたか?」
  • • 「その目標が達成できなかったらどうしますか?」
  • • 「そのビジョンを達成することは、あなたの人生においてどの程度重要なことですか?」

行動を強化するビジョンメイキング&ゴールセッティングの手法

 目標を引き出した後、さらに成果を高めるために、以下の手法を用いて行動を強化しましょう。

 

【夢に日付をつける】
夢を憧れだけで終わらせず実現するためのよい方法は、夢を実現するイメージを描き、いつまでに実現するか日付を決めることです。夢に日付をつけると、それは魅力的な目標やビジョンへと変わります。

 

【目標やビジョンについて口に出す】
コーチングでは、ビジョンを描く際、口に出してビジョンを描く時間を大切にしています。なぜなら、人の脳はインプットよりもアウトプットで活性化するからです。口に出すことで目標やビジョンに対して意識が集中し、「よし、やってみよう!」とモチベーションが上がります。

 

【フューチャー・ペーシング】
これは、未来のうまくいっている場面を想像する手法です。もうすでに目標やビジョンが達成しているものとして、その場面を具体化します。できるだけ細部にわたって、「見えているもの」「聞こえているもの」「匂ってくるもの」「感触」など、五感に訴えた具体的な質問をします。イメージを通して、目標やビジョンは一層魅力的に見えてきます。

 

【バック・キャスティング】
現在から未来に向かって目標を設定すると、3年後も現状とあまり変わらないビジョン設定になりがちです。そこで、叶えたいビジョンが実現した未来にいると仮定し、その未来から現在に向かって時系列の目標を立てていく手法がバック・キャスティングです。逆算思考でビジョンを見直すことで、思い込みの枠を超えた新たな道筋が見えてきます。

 

 これらのビジョンメイキング&ゴールセッティングの手法を活用することで、魅力的な目標やビジョンはそれだけで相手のモチベーションを高める効果を発揮します。