対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第18回 相手のモチベーションを高めたいときのコーチング~承認~
2025/11/27
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
対人支援において、相手の成長や成功を引き出すためには、モチベーションを継続的に高めるアプローチ、すなわちコーチングスキルの活用が有効です。前編では「傾聴」について解説しましたが、今回はコーチングスキルの二つ目の柱である「承認(アクノリッジメント)」に焦点を当てて解説します。
モチベーション向上に不可欠な「承認」の技術
「承認」とは、相手の変化や成長にいち早く気づき、肯定的な事実をそのまま相手に伝えることを指します。承認はアクノリッジメントともいいます。 適切な「承認」は、正しい「傾聴」と組み合わされることで、確実に相手のモチベーションを高める効果があります。しかし、間違った使用方法、特に「称賛」との混同は、かえってモチベーション低下の原因となるため注意が必要です。
承認の二つの側面:存在承認と成長承認
承認には、相手のモチベーションを支える二つのタイプがあります。
①存在承認
これは、相手の存在を無条件に認める承認です。存在承認は、日常の何気ない会話にも意識的に取り入れることで成果が期待できます。
存在承認の具体的な行動例としては、以下のものが挙げられます。
- ・ 挨拶をする
- ・ 名前を呼ぶ
- ・ 目線を合わせる
- ・ 約束の時間を守る
- ・ 感謝をする
- ・ 誕生日を覚えている
- ・ 呼ばれたら顔をそちらに向ける
- ・ 家族を気遣う
これらは、相手の存在に気づいていることを伝える行為であり、日常のシーンでこまめに、しかも継続的に行うことが、モチベーションアップの重要なポイントとなります。
②成長承認
これは、相手の変化や成長を伝える承認です。相手が達成したことなどを、あるがままに認める行為です。
成長承認の発言例としては、以下のものが挙げられます。
- ・ 今日は歩いてくることができましたね
- ・ 約束した時間どおりですね
- ・ 目標を達成しましたね
成長承認を行うには、普段から関心をもって相手をよく観察していないとできません。観察力と伝えるタイミングが非常に重要です。相手の微妙な変化に気づく力が必要であり、何よりも伝えるタイミングが「達成あるいは成長した瞬間」でなければ意味がなく、その効果が激減してしまいます。
「承認」と「称賛」の決定的な違い
「称賛」もモチベーションを上げる効果はありますが、コーチングにおいては「承認」をあえて選択し活用します。称賛を頻繁に使用してしまうと、相手が「褒められること」自体を目的としてしまい、褒められないと行動しなくなる恐れがあるからです。
承認と称賛の決定的な違いは、評価の有無にあります。称賛は、「今日は歩いてくることができて『よかった』ですね」といったように、「よい・悪い」という上からの評価が加わります。一方、承認は、今ここでの相手をありのままに認めることに焦点を当てます。承認によって相手は安心感と意欲が生まれ、主体性を引き出すことができるのです。
会話例で納得!相手のモチベーションを高める「承認」
【NG例】
承認力の低い管理者による対話の事例を見てみましょう。
管理者:時間になったので始めましょうか。この1か月の目標の達成状況はどう?
Aさん:はい、ファシリテーション力を上げるために、この1か月でいろいろな会議や事例検討会で司会を5回引き受けることが目標でした。でも、今朝の事業所会議を含めても結局4回の達成で終わりました。
管理者:5回には届かなかったけど、4回もできたのはすごいじゃない。さすがAさん、周りの誰よりもAさんが一番頑張っているよね、えらい! えらい!
Aさん:それほどのことではないですし、目標達成はできなかったんですけど、ただ、メンバーから意見やアイデアを引き出すコーチングスキルは意図的に試して活用してみたんです。
管理者:それは、すばらしい! 手応えはどう?
Aさん:それが、ふだん発言しないCさんに意見を求めたら、自分の考えをしっかり述べてくれたんです。
管理者:あら、本当? Cさんがねぇ、珍しい、奇跡が起こったね。よかった! よかった! よくやったよ! Aさんだからこそできたんじゃないの?
Aさん:ええ、まあ……、ありがとうございます。
この管理者は、面談の冒頭でいきなり対話に入っています。ここでは「名前を呼ぶ」といった存在承認が必要です。これだと出足からAさんのモチベーションを下げてしまいかねません。
また、「すごい」「さすが」「えらい」「すばらしい」「よかった」「よくやった」など、すべて評価の視点が入った「称賛」一辺倒の対話になっています。管理者はAさんのためを思って懸命に対話していますが、モチベーションを上げるどころか、嫌みになるくらい褒めたたえているため、逆効果となります。実際、Aさんの反応は「それほどのことではないですし」「ええ、まあ……」と、多少引いてしまっていることがうかがえます。結果として、Aさんのやる気を上げる機会を摘み取ってしまうことになっています。
【OK例】
次に、承認力の高い管理者の対話事例を見てみましょう。
管理者:Aさん、約束の時間に来てくれましたね。ありがとう。それでは個人面談を始めましょうか。
Aさん:はい、ファシリテーション力を上げるために、この1か月でいろいろな会議や事例検討会で司会を5回引き受けることが目標でした。でも、今朝の事業所会議を含めても結局4回の達成で終わりました。
管理者:この1か月で4回達成できたんだね。その結果についてはどう感じている?
Aさん:残念です。一歩及ばず目標達成できませんでしたが、ただ、メンバーから意見やアイデアを引き出すコーチングスキルは意図的に試して活用してみたんです。
管理者:コーチングスキルを意図的に活用したんだね。それで手応えはどうだった?
Aさん:それが、ふだん発言しないCさんに意見を求めたら、自分の考えをしっかり述べてくれたんです。
管理者:Cさんから意見を引き出せたのは、とてもうれしい成果になったね、司会5回達成はならなかったものの、肝心のAさんのファシリテーションスキルは確実に成長してるね。
Aさん:はい、ありがとうございます。
この管理者は、面談の冒頭から「約束の時間に来てくれましたね」という成長承認と、「Aさん、ありがとう」という存在承認から始めています。セットアップの段階から、モチベーションが上がる関係性をつくっているのです。
管理者は、「4回達成できた」「コーチングスキルを意図的に活用した」「Cさんから意見を引き出せた」「ファシリテーションスキルは確実に成長してる」成長承認で受け止めています。これにより、Aさんのモチベーションはどんどん高まり、自信を適度に膨らませる有意義な時間になっています。
正しい傾聴や承認は確実に相手のモチベーションを高めます。こまめな存在承認と、適切なタイミングでの成長承認を組み合わせる「承認」の技術を活用することが不可欠です。
