対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 最終回 ふだん使いのカジュアルコーチング~後編~
2026/02/19
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
前回は、挨拶の場面での「承認」スキルの重要性をお伝えしました。しかし、実際の職場ではもっと複雑でストレスフルな対話が求められる場面も多々あります。 連載最終回となる今回は、対応に困る「言い訳から始める人」や「不機嫌な態度の人」への対処法をカジュアルコーチングを用いた方法で解説します。
「言い訳から始める人」へのコーチング
業務の進捗確認をした際、質問に答えず言い訳ばかり並べ立てる部下にイライラした経験はありませんか?ここでは、部下に業務の進捗確認をとる上司と、言い訳が先に出てしまう部下とのやり取りを例に見てみましょう。
【NG事例:視点のズレが招く対立】
上司:前に頼んでいた会議の資料は完成した?
部下:すみません、頑張ってはいるのですが……、いろいろと別件の仕事もありまして、それに情報がそれほど多くなくて、それを調べるのに時間もとられまして……。
上司:それで、できたの? できてないの?
部下:ごめんなさい、私が悪いのです。
上司:そういうことを聞いているのではなくて……、もう、なぜ伝わらないかな。
なぜこのような食い違いが起きるのでしょうか。理由は大きく2つあります。
まず1つ目は、視点の違いです。上司は会議の資料に関する確認という「コト(What)」に着目していますが、部下は資料作成がうまく進んでいない個人的な理由「ヒト(Who)」に着眼点をおいて話しています。
そして2つ目は、焦点の違いです。上司は「結果(成果)」を知りたいのに対し、部下は「過程(経緯)」にこだわっています。
このままでは対話は平行線で、上司には部下の言葉がすべて「言い訳」にしか聞こえません。
では、カジュアルコーチングを用いてこの状況を打開しましょう。
【OK事例:相手の視点に合わせ、数値化する】
上司:前に頼んでいた会議の資料は完成した?
部下:すみません、頑張ってはいるのですが……、いろいろと別件の仕事もありまして、それに情報がそれほど多くなくて、それを調べるのに時間もとられまして……。
上司:それは大変だったね、無理をお願いして申し訳ないね。
部下:いえいえ、Aさんの期待に応えられなくてこちらこそ申し訳ないです。
上司:それで、今日の時点での進捗状況は10点満点で何点くらいかな?
部下:資料はまだ7点程度です、すみません。
上司:大丈夫です。進捗状況がわかればいいから。まだ一週間あるし、もし困ることがあれば協力するから、早めに遠慮なく言ってね。
部下:あっ、はい! ありがとうございます、頑張ります!
このOK事例では、部下の「頑張ってはいるのですが……」という言い訳じみた返答に対し、上司は責めることなく、あえてそのボールを受け取ります。
まず相手の「過程(プロセス)」や「ヒト」への関心に合わせ、労いと配慮を示すことで、部下は「話を聞いてもらえた」と納得し、対話の土俵に乗ってきます。
また「できたか・できないか」の二択ではなく、数値化することで答えやすくしています。ここで「7点」という回答が出せたのは、前半の対話で「心理的安全性」が確保され、ネガティブな情報も伝えられる関係ができていたからです。さらにAさんが「大丈夫、困ったことがあれば協力するよ」とエールを送ることで、Bさんからは「頑張ります!」というやる気のこもった言葉が引き出されました。このカジュアルコーチングでは、相手の視点や関心を見極め、それに合わせたコミュニケーションをとることが重要です。
「不機嫌な態度の人」へのアプローチ
会議中、あからさまに不機嫌な態度をとる人がいると、場の空気全体が重くなります。ここでは、会議の場面を取り上げてみていきましょう。
【NG事例:不機嫌に反応して攻撃してしまう】
Aさん:まだ途中だけど、今度の懇親会のアイデアが結構出たね。
Bさん:……(無表情で一点を見つめている)。
Cさん:(Bさんを見ながら)そうだねぇ、ほぼみんなの意見を聴くことができて参考になったね。
Bさん:……(視線を下に向ける)。
Dさん:まだ意見を言っていない人もいるけど……。
Bさん:……(微かに眉間にしわが寄る)。
Aさん:Bさん、今日は何も意見しないで、終始我関せずの表情だし、機嫌悪いの? 何か意見があるならはっきり言いなよ。
会議で意見を出さないBさんに対し、Aさんが喧嘩口調で指摘してしまいます。これでは緊張感が増すばかりで、建設的な話し合いにはなりません。不機嫌は周囲に伝染するため、早めの対処が必要です。
【OK事例:同意と感謝で巻き込む】
Aさん:まだ途中だけど、今度の懇親会のアイデアが結構出たね。
Bさん:……(無表情で一点を見つめている)。
Cさん:(Bさんを見ながら)そうだねぇ、ほぼみんなの意見を聴くことができて参考になったね。
Bさん:……(視線を下に向ける)。
Dさん:まだ意見を言っていない人もいるけど……。
Bさん:……(微かに眉間にしわが寄る)。
Aさん:Bさん、今語りかけてもいい?
Bさん:何?
Aさん:今日は多忙ななかを参加してくれてありがとう。何か手伝うことはある?
Bさん:えっ、別にないけど
Aさん:それなら、ここまでの意見交換で何か確認しておきたいことや提案があるかな?
Bさん:……。アイデアの発散だけでなく、収束もある程度したほうがいいんじゃない。
Aさん:今日はその発想はなかったな。残りの時間でアイデアのグループ分けでもやっておこうか?
Cさん:やろう、やろう。
Dさん:Bさんの意見はいつも話し合いの発想を変えてくれるから助かるよ。自分のペースで構わないから、思いついたらいつでも質問や意見を言ってよね。
Bさん:まあね。
不機嫌な人への対処法は、「穏やかに接する」「感謝を伝える」「どうして機嫌が悪いのか理由を尋ねる」「話を聞き同意できるところは同意する」などが挙げられます。
ここでは、まずAさんがBさんに対して「話していいか」と確認をとり、「参加してくれたこと」への感謝を伝えます。そして「手伝うことはある?」と、不機嫌の原因に関心を寄せます。
意見を言わないことを責めるのではなく、意見を言う機会を丁寧につくることで、Bさんの口が開きました。周囲のメンバーも「Bさんの意見は助かる」と承認することで、全員による対話が実現しました。
まとめ
以下の点を意識して、日常的にカジュアルコーチングを実践してみましょう。
・日常生活のちょっとした場面でも「コーチング」を意図的に活用することでお互いのコミュニケーションを豊かにできます。
・対話のなかの不具合に流されないカジュアルコーチングは、状況を転換させる可能性を秘めています。
・常に相手の成長を促進することに焦点を当てた対話を心がけることで豊かな対話を実現できます。
これまで連載をお読みいただき、ありがとうございました。コーチングは人をうまく活かせる人が持っている双方向の対話手法です。自分が知りたいことを質問するのではなく、相手が話したいことを問いかけます。また自分に興味のあることを聞くのではなく、相手が伝えようとしていることを最大限に受け止めて聴くスキルです。スキルを活用する人の立ち位置や目的、つまりコーチングマインドは大事な要素です。小手先のスキルに溺れることなく、常に相手の成長や成功を願ってコーチングにチャレンジしましょう。きっと相手とwin-winの関係ができていることに気づくでしょう。

